第8話 遅咲きの中年男 その3
「山本…。これはもう決まった事だ」
「山本に選択権は無いんだよ……」
徳丸さんは眉をひそめながら言う。
僕は堅気の人間だが、この人の言う事を聞くしかない。
この人を裏切る行為をしたら、僕も自滅するからだ。
「……いえ、言葉が過ぎました」
「すいません……徳丸さん」
僕がそう言うと、徳丸さんの表情は和やかに成る。
「分かってくれれば良いんだ。山本」
「筋も大事だが、上下の関係がもっと大事だ!」
「なぁ、尾形さん!」
「はっ、はい……」
依頼者の尾形は“しどろもどろ”で返事をする。
「では、尾形さん」
「依頼通り、海山に“生き地獄”と言うお仕置きを味あわせますので、前日お話しした通り、お伝えした方法で入金をお願いします」
「お願いします。徳丸さん、山本さん!」
「必ず、海山に生き地獄を味あわせてください!!」
「吉報を待っています!!」
……
尾形は応接間を出て、室内は徳丸さんと僕だけに成る。
「……徳丸さん」
「現代で“生き地獄”は難しくないですか?」
僕は今回のお仕置き方法を敢えて、徳丸さんに聞く。
生き地獄の定義が僕の中で“いまいち”掴めてないからだ。
これなら、以前行った時の様に『肩・肘・膝を完全に壊して欲しい』と言われた方が遙かに楽で有るからだ。
「そうだな…」
「タコ部屋(強制労働)も、近年も無くなったし、
「海外連中らの取引は、国内よりリスクがどうしてもでかくなるから…」
「なら、徳丸さん」
「海山は半身不随のお仕置きにでもしますか?」
「半身不随も生き地獄ですよ!」
「それでも良いが、山本。この国の社会福祉は手厚いだろ?」
「生活保護で半身不随生活されても、尾形さんは納得しないだろ……」
「それが、手っ取り早いのも分かるが!」
「……そうですね」
「すいません。徳丸さん」
その後、徳丸さんとお仕置き方法を話し合ったが、ベストなお仕置き方法はその場で纏まらなかった。
あまり徳丸さんの事務所に長居しても迷惑なので、僕は話の区切りがついた所で戻る事にした。
『最終的な方法は山本が決めろ!』と徳丸さんは言ってくれた。
海山の居場所や行動パターンがまだ掴めていないので、直ぐにはお仕置きは実行出来ない。
その辺に関しては、徳丸さんが情報屋を使って調べるので問題は無いが、徳丸さんと尾形が納得するお仕置きだけは、僕が探さなくては成らなかった。
……
山本の
僕は表の仕事をしながら、海山のお仕置きを考える。
(やっぱり、蟹工船が一番確実なんだよな)
(寒いし、辛いし、常に死と隣り合わせ…。これぞ本当の生き地獄だと思うが、徳丸さんが渋るからな…)
(この国は世界で一番の楽園だから、生き地獄なんて有る様で無いし、海外に海山を飛ばせば別だが……この辺もな…)
(この国では悪人も、世界から見れば、善人に見られるからな。徳丸さんも男気は有るが交渉が
僕は色々と考えるが……お仕置きのアイディアが全く出てこない……
工場内は気分転換が簡単に出来る様に、飲み物や食べ物、更にはテレビまで置いて有る。
僕は小休止も兼ねて、テレビを付けて、飲み物の用意をしていると……
『採ったぞー―』
テレビ画面には、芸人が魚を捕った場面が流れていた。
「バカを装った芸人が、島で生活する番組か…」
僕は下らんと思いながら、チャンネルを変えようとした時……僕の中で何かが閃いた。
「あ~~、これもまた生き地獄だな…」
「五体を不満足にさせてから生活をさせれば、本当の生き地獄が味わえるだろう!」
「それに国内のを使えば、
僕はこの方法だと感じ、テレビを消して直ぐに徳丸の兄貴に電話を入れた。
……
…
・
約2週間後……
海山にお仕置きを加える日がやって来た。
お仕置き方法も徳丸さん、依頼者の尾形からも了解を得ており、この方法でお仕置きを加える事にした。
情報屋が調べた結果、海山は一人暮らしをしているが、両親は既に他界しており、親族も近辺には居ない。
海山の羽振りの良さは、両親の遺産が関係している感じだ。
依頼者(尾形)の息子を追い込む要因に成った女性は、息子が自殺したので多少はショックを受けたのか、海山と男女の関係は絶ったらしい。
もしかしたらだが……その女性は本当に、海山との縁を切りたかったのかも知れないが裏切っては駄目だ。
と言いたい所だが、海山は金銭や金品で女性を釣って、強引な肉体関係に持ち込んだとも聞いた。中年の癖にお盛んだ。
これは知らなくても良い情報だが、そうやって他の女も喰っていたそうだ。
結局、女性は金や物に目が
また、同時に海山の餌食に成ったという訳だ。
まぁ、僕には関係ない話だ……
そんな性にお盛んで有る海山は週に1~2回、金銭で釣った女以外にプロ女(風俗)を家に呼んでいるそうだ。
偶然、海山が愛用する店が徳丸さん達が絡むお店だったので、其処経由で海山を確保する事にした。
……
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