第7話 遅咲きの中年男 その2

「私の息子は、とある定時制高校に通っていました」


「定時制高校!?」

「……息子さんは、20代前半でしたよね?」


 行き成り、定時制高校が出て来るから、僕は当然驚く。

 僕ですら、現役で底辺高校を卒業しているからだ。

 その息子はどうして現役時に、高校に進学しなかったのだ!?


「はい、そうです…」

「息子は昔から勉強をするのが嫌で、中学卒業後は直ぐに働き始めたのですが、社会に出て考えが変わったのでしょうね」

がくを積んだ方が、社会生活が有利に成ると息子は考えを改め、日中は働きながら、夜間は定時制高校に通い始めました」


(成る程ね…。息子君の考えは正しいよ!)

(今の時代、職人に成らない限り中卒では食っていけない)

(でも、死んじまったのだよな…)


「息子は元々、頭が良かったのでしょうね…」

「学年内でも成績は良く、社会経験も有る事から、クラスの子達から慕われる存在になりました」


「息子も生き生きしていて、その学生生活に私は安心していました」

「けど、人間って生き物は1つの満足を得ると、次の満足を求めるのですよね」


「今まで彼女が居なかった息子ですが、ある日、凄く仲良く成った同級生の女性が居る事を息子から聞きました」

「私は凄く驚きましたが、同時に心の中では凄く嬉しかったです」

「『息子にもやっと春が来た…』と、その時私は感じました」

「しかし……」


(ここからが本題だな…。長い前置きだ……)


「……その女性は、ある中年男性と関係を持っていました」

「その男が、海山みやまです……」


「女性は海山との関係を切りたがっていました」

「その事は、女性から相談されたと息子が言っていました」

「息子も女性との仲を深めたい一心で、海山と女性の関係を引き離そうとしました」

「けど、それは失敗に終わります……」


「ある日突然、海山が定時制高校に乗り込んで来て、息子は恫喝されました!」

「『俺の女に手を出すんじゃ無い!』と、海山は言ったそうです」

「息子も『彼女が嫌がっているのだろ!』と、口論に発展しましたが最終的に、彼女が裏切りました……」


(それだったら復讐のターゲットは、海山で無く女では無いか??)


 今まで聞いた話から、息子は女性にもてあそばれていただけだ。

 女性が海山との関係は嫌がっていたかも知れないが、息子に乗り換える気は更々無かった。出なければ、裏切る行為に出ないからだ。


(それに良く息子も、自分の恥を親に話すよ……自殺の素質有るよ!)

(僕なら恋愛の恥なんて、死んでも親には話さないね!!)


「……それで、話が終われば良かったのですが、口論の翌日から『送迎の理由』と付けて、海山が学校に乗り入れる様になりました」

「『彼女の両親から頼まれている』と言って……」


(また、話が一気に飛んだな)

(今の高校って、そんなに緩いのか!?)

(学校なんて、自転車で来いよ!!)


「これは息子の話ですが、海山は“がたい”も良く、金回りも良さそうらしく、彼の側に来る子には、ジュースやお菓子などを奢っていたそうです」

「そうする事で、女性の親友が最初集まり初めて、段々と海山を中心に輪が出来ていきました」

「初めの内は問題無かったらしいのですが、その内取り巻きが出来て、その取り巻きが息子に嫌がらせを始めました!」


「最初の頃は息子も、反論や反撃をしていましたが、取り巻きが段々と勢力を強めて息子を追い込んでいきました」

「追い込まれた息子は高校に通わなくなり、仕事も辞めてしまい、引き籠もる様に成りました」

「彼女に裏切られたショックと居場所を失った事で自暴自棄に成り、最後は遺書を残し、ダムに身を投げました……」


 依頼者の尾形は最後、泣きながらその言葉を言った。


(最後はダムにダイブか……)

(息子はダム好きだったのか?)

(何処のダムかは知らんが、人のエキスなんて飲みたくないよ……)


「山本さん、お願いです!!」

「私の息子を追い込んだ海山を殺してでは無く、生き地獄を味あわせてください!」

「お願いします!!」


 尾形は泣きながら、僕に頭を下げる。


(自殺なんて弱者する事だし、話を聞いている以上、海山は確かに追い込んだ人間だが、初めにちょっかいを出したのは息子だからな。女に“そそのかされ”ても、一番悪いのは息子だ!)

(僕だったら……裏切り者の女に復讐するがな!)


 正直言って、今回の依頼は受けたくなかった。

 矛盾とは言わないが一番悪いのは、女性と海山の関係を引き離そうとした息子だからだ。

 母親にとっては海山がさぞ憎いだろうが、第三者で聞けば一番悪いのは、それを持ちかけた女性だろう。


『ポン』


「そういう事だ。山本!」

「尾形さんの憎しみを叶えてやってくれ!!」


 徳丸さんは僕の肩を叩きながら言うが、徳丸さんはこれで納得しているのだろうか?


「僕は言われた事はやりますが……徳丸さんはそれで良いのですか?」


「……何がだ。山本…?」


 徳丸さんの目つきが変わるが、徳丸さんの世界こそ筋を通す世界だろ。

 僕は理不尽な命令は聞くつもりは無い。それが例え、徳丸の兄貴だって!


「筋が通ってませんよ…。徳丸さん」

「尾形さんの気持ちも理解出来るが、馬鹿をやったのは息子ですよ!」


「……山本の言いたい事も分かるよ」

「だが、自殺に追い込んだのは海山だ!」


「海山が恫喝だけで留めておけば良かったのだよ」

「そうすれば、息子はショックを受けるだろうが自殺まではしなかった筈だ…」


「……」


 徳丸さんの言っている事は間違ってはいない。

 だが、僕の中では納得はしかねていた。

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