第4話 うさぎのコンソメ煮

 いい匂いがした。

「うさぎのコンソメ煮。クリーム煮が良かったんだけど、牛乳はないから」

 草津先輩が、深皿3枚を持って来た。

「うさぎですか」

「そう。うさぎちゃん」

 草津先輩がそう言って、笑った。

 翔子を思えば、食べていいのかと、気が咎めた。

「ありがたく、食え。山代」

「……はい」

「では、いただきます」

 3人で神妙に手を合わせて、うさぎを食べる。あっさりとして弾力があった。

「美味いな」

「若いからかな」

「ああ。子うさぎだったんですか」

「うん、そう」

 草津先輩は言って、笑った。


 吹雪は相変わらずだ。そして、助けも相変わらずだ。

 あれから、残ったうさぎで、ソテーを食べた。

「やまないな、吹雪」

 黒川先輩が、窓の外を見ながら言う。

「そろそろましになってもいい頃なんだがなあ」

 草津先輩も、風の音に耳をすませて言う。

 別府先輩も、翔子も、大丈夫だろうか。

「先輩。僕、翔子達を探しに行って来ます」

「ええ?バカ言うなよ。今探しに行って、見付かるわけないだろ」

「でも……」

「無事についていても、救助隊が出られないのかも知れない。ここを説明できないのかも知れない。とにかく天気が回復しない事には、どうにもならないって事だよ」

「だから、山代。ここでじっとしておけよ。いいな」

 黒川先輩と草津先輩が、口元だけで笑いながら、僕の腕を痛いくらいの力で掴んで来た。

「は、はい」

 天候の回復はまだだろうか。僕は心から祈った。


 うさぎで、味噌煮と肉団子の香草煮を食べた。

「うさぎ、たくさんかかったんですか」

「ああ……思ったより大きかったのと、ほら、肉団子とかだと、少しでもできるだろ。スープで量が出るというか」

「ああ、そうですね。

 やっぱり草津先輩は、料理に詳しいですね」

「まあな」

「狩猟免許を取ったのも、グルメが高じてだからな。筋金入りだな」

「はははっ」

 黒川先輩が褒め、草津先輩が調子に乗って笑う。

 いつも通りの雰囲気だ。

「このまま、天候の回復を待つ方がいいんでしょうか」

 言うと、先輩2人は考え込んだ。

「そうだなあ……でも、この吹雪だし……」

「でも、別府先輩や翔子は行ったんですし」

「まあ……あと2日待とう。あと2日のうちに吹雪が止んだら、ここを出て下山してみよう。どうだ、黒川」

「……いいだろう。2日だな」

「2日だ」

「わかった」

 先輩達は、緊迫した雰囲気でやり取りをして、今後の方針を立てた。


 その夜、熊の姿が吹雪の間に見えた。

「先輩、熊です!熊!」

 慌てる僕だったが、先輩達はのんびりと構えていた。

「ここにいれば大丈夫だろ」

「ああ。出るんじゃないぞ」

 吹雪に熊。とても出られそうにない。

 早く吹雪が止んでくれることを、切に願った。


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