第3話
それに・・・
龍作はもうひとつ、彼女の口から読み取った言葉があった。
死んだ女の名前は、鈴村怜奈。旧姓は、柴山のようだ。男は、鈴村主税。役所で調べてみると、夫主税の実子ではなかった。この点については、当人たちが死んでしまったから、真相を探ることは不可能に近い。
九鬼龍作は新築の家に忍び込んだ。
「そんなに、時間は掛からない・・・」
だろう、と見込んでいた。
探し出すのは、手紙である。
龍作は、
「て・が・み、を・・・」
と、読み取った。
間違いなく、女の口は、そのように動いていた・・・と、龍作は読んだ。
「元気だね」
龍作はいった。
杏里は一瞬妙な目をしたが、
「うん、そうだよ」
笑って見せた。
「止まったね」
駅名板が所々さび付いていた。単に海が近くにあり、潮風に晒されているばかりの理由ではない。駅の前に二軒ばかりの家が見えたが、どう見ても人が住んでいるようには見えない。この時間だからか、誰も降りないし、乗る人もいない。
ここまで四つの駅に止まったが、二三人しか降りる人はいなかった。日本海沿いを走っているのだが、海は見えない。だだっ広い平野が広がっていて、所々に二三軒の家が見える。いつ間にか、列車は、緑に覆われた樹木に中に突っ込んでいて、ただひたすらに列車は北に向かっている。周りの樹木が列車に覆いかぶさって来ている。
「君の髪は・・・杏里って、呼んでいいかい」
「うん」
「ありがとう。杏里の、その髪の毛の色は珍しいね」
「にこっ」
と、杏里は笑顔を見せ、
「ふっ、でもね、私、あんまり好きじゃないのよ。なぜかって思うでしょ。よく聞かれるのよ。だって、黒髪とこの色の毛、似合っていないでしょ。でも、友だちがからかって来るの。そうしたら、この髪、美しいから、わたし、大好きって言っちゃうの。おじさん・・・どう思う!」
龍作はじっと見つめ、
「そうかな。おじさんは、そうは思わないけどね」
「喜んでいいのかな」
「いいさ。大きくなれば、きっと魅力的なお嬢さんになるとおもうよ」
「ほんとうかな・・・」
杏里はニコニコし、窓の外に眼をやった。ビビは、杏里の膝の上で、気持ちいいのか、ぐっすり眠っているように見えた。
「ねえ、ここ・・・見て、おじさん。これから夢の国に行くって感じ、しない!」
「そうだね」
列車は緑に覆われた樹林の中を、ゆっくりと走っている。単線の線路を、ガタゴトと心地よい揺れに、身体に眠気を誘う。
「ほ、ほっ・・・」
龍作は気分良く、笑った。
力昼⌒りきびる)で、留萌からの客が二人降り、今乗っているのは三人だった。
二人とも、二十代の女子に見える。それ程離れていないので、話し声が聞こえて来る。
「恥ずかしくなかった?」
まだ結婚していないのだろう、背中を向けている女がいう。
「えっ!」
こっちに顔を向けている女が、
「にこっ」
と、笑みを浮かべている。
「そんなこと・・・痛くて、もう本当に痛くて、思っているひまはないのよ」
生まれた子供が男なのか、女なのかは分からないが、聞いている龍作は、
「・・・」
微笑んで、杏里に眼をやると、じっと窓の外の景色に魅入られていた。
「あっ!」
杏里が突然声を上げ、
「変な色の鳥が飛んでいる」
と、指さした。
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