二度目の告白
俺は告白をする決心をした。彼女に好きということを伝えなくてはいけないが、もっと伝えないといけないこともある。
最初にケーキ屋を予約した。俺が台無しにしてしまったケーキ屋だ。次に花を買った。『タツミソウ』だ。今までに色々な花を贈ったが一番喜んでいたのが『タツミソウ』だった。花は前ケーキ屋に行った時の花屋で買った。ついでに前注文していた献花も受け取った。
一度深呼吸をして、彼女に電話をかける。俺から電話をかけるのは初めてのことだった。
3コールの後彼女が電話に出る。
「もしもし?君から電話かけてくるなんて珍しいね」
「あぁ、ちょっと頼みたいことがあって」
俺は告白するということを言わなかった。サプライズにしたいと思ったからだ。
「頼みたいこと?私に出来事なら何でもするけど……」
「ちょっと妹のプレゼントで迷ってて……。女子の好みを教えて欲しいから買い物に付き合ってくれない?」
「それなら良いよー」
俺は一人っ子なので妹がいるというのは噓だ。良い誘い文句が思い浮かばなかったからバレバレかもしれないけど、どうせ告白する時に種明かしするから良いだろ。
そうして俺は、彼女を店に誘うことに成功した。日時は二日後になった。
二日後。前と同じように彼女と待ち合わせをし、店に向かった。前と違うのは行き先を知っているのが俺か彼女かの違いだけだった。俺は話し上手でも聞き上手でもないのでほとんど無言なのは相変わらずだった。何で彼女と付き合えているんだ。
そこで俺は思いついたかのように彼女の手を握った。それは難しいことだったが、これくらいも出来ない人間が告白なんて出来ないと自分を奮い立たせた。
彼女は少し戸惑ったが、直ぐに優しく手を握り返してくれた。
それでも無言だったが、俺はその時間が心地よかった。ケーキ屋の失態のときの雰囲気とは百八十度違う。
しばらくしてケーキ屋に着く。彼女は驚いた顔をした。
「今日は君の妹のプレゼントを買いに来たんじゃないの?」
「……それもあるけど、大事な話もあるから」
俺はまた噓をついた。恐らく大丈夫だとは思うが、彼女は怒らせたら怖い。最初の頃こそ何度も見た表情だが、最近はほとんど見ていない。一生見たくないと思うが。
受付を済ませ席に座る。偶然にも前と同じ席が空いていた。
「で、大事な話って何なの」
「……一旦ケーキ食べよう」
席に座るなり死神が切り出してきたので、心臓の鼓動が早くなった。ケーキを食べて自分を落ち着かせる。食事中に大事な話をすると成功しやすいなんとか効果みたいなのもあるしそっちのほうが良い。
ケーキを食べる間も話はなかった。自分でもこれが彼氏彼女でいいのかと思ったが、この告白で何かが変わることを願うばかりだ。
彼女が半分程度ケーキを食べ終えた所で話を切り出す。鞄の中から『タツミソウ』を取り出し、彼女の前に跪く。そして用意した台詞を言う。
「最初の頃正直嫌々で言って後悔してるから、しっかりと言わせて欲しい。俺と付き合って下さい」
『タツミソウ』を彼女に差し出す。少しの間沈黙が続いた。それが一秒だったか一分だったかは分からないが、今まで一番嫌な静寂だった。
返事がないので彼女の顔を見ると泣いていた。それでも返事をしてくれた。
「うん、ありがとう。私も大好きだよ」
これは告白は成功という事で良いのだろう。安堵して我に帰ると周りの客の視線が集まっていた。俺は逃げるように残っているケーキを食べた。
彼女が泣き終わったタイミングで支払いを済ませ、店を出た。支払いの時にも手はつないでいた。
デパートの中のペンチに彼女を座らせる。その表情は嬉しそうに見えた。俺は沈黙が辛かったので少し話すことにする。
「その、なんだ。最初の頃冷たく当たって悪かった。これからは死神の彼氏に相応しい存在になれるように頑張るよ」
「ありがとう。ずっと君と過ごしていたいよ」
「どうする?買い物するか。それとも帰るか。」
「帰って君の家にいく」
「まぁ、今日は親はいないし、別にいいけど……」
彼女の希望で俺の家に行くことになった。家片付けてあったかな……。あっ、そういえば告白と一緒にあれを言うのを忘れてた。……この空間を壊したくないし家についてからでも良いか。
俺は、彼女と手を繋ぎ駅に向かう。行きと違って色々な会話をした。
彼女の好きな食べ物だったり。
彼女の性格だったり。
彼女の幼少期だったり。
偽りの関係だった時の無言と百八十度反対だった。彼女と会話をするのはとても楽しかった。笑顔は可愛いし、俺と会話しようとしてくれる。
今までで一番楽しい気分で駅に着いた。電車はすぐ来るらしい。
手を繋いで電車が来るのを待つ。電車が来ることを合図する汽笛が鳴った。電車が来ると思った。彼女は押された様に前に倒れる。……前に倒れる?
電車は目前に迫っている。手を繋いでいて良かった。すぐに彼女を引っ張り助けようとする。その過程で俺も少し前のめりになってしまうがこれくらいは大丈夫だろう。
彼女を助けられた。そう安堵していたら急に手の感触がなくなった。前のめりになっていたためホームに転落しそうになる。大丈夫かと思ったが手の感触が背中にあった。
背中から他の人には聞こえない声量で「私に殺されてくれて、ありがとう」という声が聞こえた。
俺は彼女押されてホームへと落ちてしまう。電車はもう止められない。最後に見た君の顔は悲しみでもなく焦りでもなく、何故か俺に微笑みかけていた。
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