花屋

 花をあげてから死神に話しかけにくかった。ケーキ屋を出た時は怒られそうだから話しかけなかったが、今は花を持ってとても嬉しそうにしていて別の意味で話しかけにくい。


 なので、死神に無言でついていったのだが通っている道に見覚えがあった。というより、さっき通った道だ。ということは、目的地は……花屋だった。


「花屋行くなら言ってくれよ…」


 花屋に行くことがわかっていたら、トイレの時に急がなくてよかった。じっくり選べただろうし…。なんとも言えない気持ちになっていると死神が話しかけてきた。


「花をもらったからには花を返さないとねっ」

「あれは、詫びの品だから返さなくていいぞ」

「私が返したいから良いの」


 そう言って死神は花屋の中に入る。それに俺はついていった。さっきは急いでいたのでよく見ていなかったが、店内には知らない花も多くあった。


 花を見渡していたらいつの間にか死神がいなくなっていた。少し探していたら一つの花が目についた。その花は他の花となんら変わりなかったが何故か魅力的に見えた。その花に見惚れていると後ろから声がした。


「それは『ダリア』色によって花言葉が違う。赤のダリアは【華麗】。白のダリアは【感謝】。黄色のダリアは【優美】」

「…花言葉覚えているのか?」

「花好きだし。ま、有名な花に限るけど」


 死神がドヤ顔をする。俺はそれに反応して何故か闘争心が芽生えて色々な花言葉を聞いた。


「じゃあ、こっちの青紫の花はなんだ」

「それは『カンパニュラ』。ピンクや白もある。花言葉は【感謝】【誠実】」


「じゃあ、こっちの先が少し尖ってる花は」

「それは『ユリ』。これも色によって違う。白ユリは【純潔】【威厳】。オレンジのユリは【華麗】。黄色のユリは【陽気】。ピンクのユリは【虚栄心】」


「最後に、この白くて先が少し尖ってる花は」

「これは『スノードロップ』。花言葉は【慰め】【希望】。そして、【あなたの死を望みます】」


 俺は『スノードロップ』に見覚えがある気がした。花に関しては興味がなかったのでほとんど触れたことがない。なのにどこで…。いや、考えてもわからないか。すぐに思い出せないならそこまで重要なことではないのだろう。


 考えていると死神が花を買ってきていた。花を知らない俺でもわかる『薔薇』を4本も買っていた。色は黒赤色だった。確か薔薇は【愛の花】と呼ばれていたような…。


「これさっきのお礼の薔薇。薔薇は本数によって花言葉が変わる。4本の時は【死ぬまで気持ちは変わりません】だよ。後は言わなくてもわかるよね」

「…ありがと」


 俺は動揺していた。この嘘の付き合いに恋愛感情なんて生まれるわけないからだ。出会って一ヶ月も経っていないのにこんなにアプローチするか?


 でも俺のこの気持ちはなんだ。愛じょ…いや、そんなはずがない。これに関しては一旦考えないことにしよう。顔に出てる気がする。


 それから死神は用事があるらしいので互いの家に帰る。俺はその電車の中で考えていた。「死神のことが好きなのか」ということを。


 いや、もう断言しよう。俺は彼女のことが好きだ。見た目は可愛いし、あんなにアプローチされたら誰でも好きになるだろ。


 さて、それを伝えるにはどうすれば良いか。正面から行く勇気はない………。そうだ、花がある。薔薇が【愛の花】なら他にも気持ちを伝えられるような花があるはずだ。


 そう考えて死神に会う予定がある時に花を上げることにした。


 ブルースターを贈った。

 マリーゴールドを贈った。

 カスミソウを贈った。

 カーネーションを贈った。

 アネモネを贈った。

 ハナミズキを贈った。


 彼女はそのどれもを喜んでくれて。俺は嬉しかった。だから、この嘘の関係を本物にしたいと思った。やり残したこがない様に。俺はまた告白をすることにした。今度はヤケじゃない本当の気持ちを伝えるために。

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