買い物

 俺の目の前にはたくさんのコスプレイヤーがいる。意味が分からないと思うが、たくさんのカップルのコスプレをした人がたくさんいる。


 コスプレとか疲れないのかなー。あんなに近づいて暑くないのかなー。とりあえず全員爆発しとけ。


 なんで俺がリア充ばかりのところにいるか。それは死神に呼ばれたからだ。正直今すぐ帰りたい。


 まぁ、怒らせたら怖いし。何するか分からないし。…数少ない女の知り合いだし。


 渋谷で居た堪れない気持ちを抑えていると死神が来た。…あれ俺死ぬのか?文面だけだと死神に命刈り取られる気がする。


「おはよ、佐々木君」

「…おはよう」


 話すのが少し怖かった。なんせ地雷踏んでから一度も会ってないから相当機嫌が悪いと思った。だが、それは杞憂に終わった。


「じゃ、行こっか」

「…?どこに行くんだ」

「行ってからのお楽しみ」


 そう言って少しの間ついて行くと目的地であろう場所に着いた。渋谷にはほとんどこない、というか‘休日は外に出ないが、何故かその店には見覚えがあった。


「この店、この前テレビで紹介されてなかったか?」

「そう、その番組見て行きたくなったんだよね」


 ニュース番組特集されていた気がする。…でもこの店って確か。


 そう考えながらその店に入ると多くのカップルがいた。……思い出した。ここ、カップルでしか入れない店だ。無言で帰ろうとしたが、死神がもう受付をしていた。そしてこっちを見て「ニガサナイ」と睨みつけてきた。


 俺はその目に萎縮し、死神の受付が終わるのを待っていた。しかし、受付の店員が少し笑っていた。何かと思い聞き耳を立てると予約の名前さえも「死神」にしていたようだ。どれだけ本名嫌いなんだよ…。


 少し揉めていたがなんとか受付を終えたようだ。案内された席に着いたが、居心地がとても悪い。帰りたい。


 そう考えていると死神が話しかけてきた。


「なんで今日ここに連れてきたと思う?」

「知らん」


 ここには男女で来れば良い。つまり偽りのカップルでも良い。だから俺じゃも良い。すると、少し怒ったように死神が言った。


「君は彼氏なのに何もしてくれないから。…少し意識させようと思って。」


 俺は死神に対して恋愛感情はない。あるはずがない。見た目は可愛いと思うが、無理矢理付き合わされたからな。うん、恋なんてしてない。


「そう、なのか」


 俺はそう返答した。その後は死神が事前に注文していた料理を食べた。会話は全く弾まなかった。


 ケーキ屋を出たのだが少し申し訳ない気持ちになってきた。せっかく予約して食べたいくらい楽しみにしていたのに台無しにしてしまった。


 どうしようかと考えた結果プレゼントでもあげることにした。何が良いかと考えた時に、前に死神がスズランを持っていたことを思い出し、花を上げることにした。


 死神にトイレに行きたいことを伝えトイレに行くふりをする。なお、これがケーキ屋を出た俺の第一声だった。


 花屋に向かったがあまり長居すると色々と言われそうなのでとりあえず目に入った花を買った。花の名前は『タツナミソウ』だ。ついでにこれから必要になる白一色の献花を注文した。これは別の機会に取りに行くとしよう。


 走って死神の所に戻る。だがそれでも時間がかかってしまった。


「遅い」

「…スマン」


 特に弁明もできないので謝るしかなかった。


「で?私に言わないでどこに行ってたの?」

「………」


 普通にバレてしまった。バレたからには隠す理由もないので、意を決して花を渡すことにする。


「今日、ケーキ屋とか雰囲気壊したから…。悪かった」


 そう言って花を差し出すと死神は目を見開いて驚いた。そんなに花を持ってきたことが意外だったらしい。少しの無言の後死神が口を開いた。


「…これはなんて名前の花?」

「確か『タツナミソウ』だったはず」

「…!ありがとう」


 死神は満面の笑みでそういった。その後のテンションはケーキを食べに行ってる時より。いや、今まで見た中で一番笑顔だった。


 俺はその笑顔が少し不気味に感じた。


 その後、また少しの間無言が続いた。だが、さっきまでのような不快感はなく、少しの恥ずかしさの中歩いていた。


 ついでに胸が高鳴っているのだが、これが恋…。いや、恋愛感情なんてあるわけない。強制的な、言い換えれば―嘘の関係―だから。絶対ありえない。

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