第4話 ママの決意。
「けれど、この子をどうしたらいいでしょうか?」
信頼して、私はソラちゃんのことを相談した。
「ママ!!」
ショックを受けた顔で、私を呼ぶソラちゃん。
「ママ!! ママ!! ママ!!」
駄々をこねるように、私を連呼する。
「あはは……あなたがいいようですね。引き剥がすのは、酷でしょう。それとも、ソラちゃんの面倒は見れないということでしょうか?」
「いえ……私が保護します……」
「それがいいでしょう」
にこっとテンペスくんは満足げに笑う。
そしてソラちゃんは、安心して胸に顔を埋めた。
さっき抱え上げた時もそうだけれど、正直言って、ソラちゃんは臭う。ずいぶんの間、お風呂に入っていないようだ。
「お風呂って、どこにありますか?」
「ああ、それなら、風呂屋がありますよ。召喚儀式の場は、東方面にありますよ」
「……無理に敬語使わなくていいですよ? ギルドマスター」
「いえ、これが素ですよ。先代のギルドマスターから、上に立つ者として敬語はやめろと言われてましたので。あなたには素で話させてほしい気持ちもありますが、格上のあなたにはそれ相応の言葉遣いが必要だと思います。違いますか?」
ギルドマスターとして、敬語を使わなくていいと言いたかったが、素だったのか。
「そう思うならば、それでいいです。また来た時に、相談に乗ってもらえると助かります」
「僕でよければ、相談に乗ります」
社交辞令かもしれないけれど、私は本気で相談するつもりだ。
「あ、一つ、質問してもいいですか?」
応接室を出ようとしたら、呼び止められた。
「なんでしょう?」
「【魔女王】ってどういう称号なんですか?」
にこやかに問うけれど、警戒している雰囲気を察知。
「ああ、周りが勝手につけた二つ名です。魔女と魔王を組み合わせて、【魔女王】らしいです。私は女魔導師、なので魔女。そして、ちょっと悪い人を成敗した姿が容赦なかったので、魔王のようだとかで……それが何か?」
「そうでしたか。すみません、犯罪履歴がないだけで悪い称号なのかと疑ってしまいました」
ぺこっと頭を下げられた。
当然だろうということで許してあげて、私はまたソラちゃんと手を繋いで、風呂屋さんを目指す。
ちなみに、ゲームの世界と酷似している云々は伏せておいた。混乱させてしまいかねないからだ。
ゲームと言えば、作り込まれた建物ではあるけれど、やっぱりハリボテが多くて、中に入れる建物は限られていた。
ここでは、普通に風呂屋さんも入れる。
マントもドレスも脱いで、シャワーでソラちゃんの汚れを落とし、泡立てて綺麗にした。そして温かいお風呂に肩まで浸かる。
何故か、女性にもじろじろ見られているのだけれど、なんでかしら。
女性も羨むナイスバディか!? 鼻が高い!
それにしても、鏡を見たけれど、うっすらと現実の私を反映している顔をしていると思う。
本当にうっすらとだけれど、ベースにされて、それから私のキャラメイク通りに整形した感じである。
かなり美化された美少女フェイスに、ボンキュッボンのナイスバディ。そして高レベルで最強。
至れり尽くせりである。
「ほげ~。お風呂気持ちい~」
ソラちゃんは、満足げにほっこりしていた。
頬を赤らめたソラちゃんも、美少女である。
とても愛らしい顔立ちの女の子をこき使うとは……。
テンペスくんの弟で悪い子らしいが……許せそうにないな。
「いつもはどうやって身体を洗っているの?」
「井戸で水浴び」
「……寒そう」
やっぱり許さん。
いや、普通なのかもしれないな。
宿屋にはお風呂ないみたいだし、普通は水浴びで済ませるのかもしれない。
元の世界に戻れないなら、バスルーム付きの家でも買おうかしら。
戻れないのがセオリーだしなぁ、こういうのは。
浴場から出たあと、普通にドライヤーがあってびっくりした。
ソラちゃん曰く、魔法の道具らしい。
長い髪だもんね、ちゃんと乾かさないと。
しかし、ソラちゃんの髪は、キューティクルが死んでいる。
クッ! トリートメントとかを買っておくべきだったか!
必要そうなものは、全部買いあさっておこう!!
そう決めていると、髪を乾かし終えたソラちゃんが振り返って。
「ママ、大好き!!」
私の胸を射抜いた。
天使っ……可愛いっ!
私の髪の分のキューティクル、分け与えたいっ。
無駄につやうるである。
「日常品を売っている店とか知ってる? ソラちゃん」
「ソラでいいなの! ママだもん!」
「そう? ……ソラ」
「ママ! 商店通りにいっぱい店があるなの!」
そうだった。商店通りには、店が揃っていたな。ゲームでも。
私は一度外していた装備であるドレスとマントを装着した。
いやだって、装備品だもの。他の服もあるけれど、これじゃないと安心が出来ないというか。
街の中を歩くだけなら、危険なんてないけれど、念のためだ。
ここはリアルなのだから!
ソラとまた手を繋いで、商店通りを闊歩。目についた生活に必要なものを購入。
買いすぎて、ソラは目を回していた。
買った物は、全部アイテムボックスに収納。
マタタビ宿屋に戻って、夕食をいただく。
シチューを少々と、チーズを乗せたチキングリル。最近、簡単な食事ばかりだったので、こうしてちゃんとした食事が出来て最高である。
ちゃんとした料理を作ってもらえるって、幸せよね。ソラも同じらしく、頬を押さえて幸せそうに顔を綻ばせていた。
宿の部屋は、二階の奥の部屋。二人分のベッドが並んでいて、椅子や小さなテーブルが置かれたシンプルな部屋だった。
仮住まいなら、これで十分だろう。
私はマントを外して、ベッドに腰を置き、ソラに太ももの間に座るようベッドを叩く。
言われた通り、座ってくれたソラの青い髪に買ったヘアートリートメントを塗りたくる。
「甘い香りがする!」
「ハチミツだよ」
「なんで髪に塗るの?」
「つやつやにするためだよ。ハチミツは万能だから」
「そうなの!?」
ハチミツは潤いも与えてくれるから、髪にも肌にもいいと話しておく。
喉の痛みにも効くから、その時は飲んでみて。と言った。
そう言えば、木のそばに落ちたハチの巣を収集すると簡単に手に入ったっけ。
でもゲームの場合であって、このリアルではどうするのだろうか。
明日、試してみようか。
「ママ! 一緒に寝たい!」
「ん。いいよ」
買っておいた寝間着用のワンピースに着替えると、私のベッドに潜り込んだ。
そして、むぎゅっとしがみついたまま、ソラは眠ってしまう。
胸に顔を押し付けて、苦しくないのかしら。
「……」
さて、落ち着いたところで、ゆっくり考えておくか。
よもや、母として異世界から召喚されてしまうとは……。
でも天使で可愛い子である。
しかし、ぼっち人生を突き進んで、うん十年。
いきなり九歳の母親なんて、務まるのかしら。
ん~、とにかく。
育てるしかないわよね。
MPは多いし、適性職も魔導師。
私が鍛えることの出来る職だ。
レベルを上げていけば、もうこき使われることもないだろう。
独り立ちが出来るように鍛えてあげようか。
……。
健やかな寝顔を見て、私は決意する。
第一は、甘やかす!!!
今までの境遇が酷そうなので、とにかく甘やかす!
絶対目標である!
決意を固めた私も、目を閉じて眠った。
【お試し連載】母として異世界召喚された【魔女王】。 三月べに @benihane3
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