危機回避は「恍惚」
二人の食事風景は対称的だった。相変わらずパワフルな麻里奈に対し、和哉は至ってクールな佇まいを保ち続けていた。和哉の仕事は整体師。人体のあらゆる動きを熟知している。だからセックスに於いてもどうやったら女性(=麻里奈)を快楽の絶頂へと誘うことが出来るのかにも精通しているのだろうと、仕事を無理矢理エロと関連付け、ボクは様々な妄想を頭の中で展開させていた。
今までの麻里奈は一見すると若さに似合わず物事を客観的かつ冷静に見極めるタイプのように感じていたが、本質は意外にも直情的で、情熱が溢れている性格なのだと新たな一面を発見した。そう確信させた先程の濡れ場は紛れもなく隣りに座る和哉が持つ得体の知れない力による部分が大きいのだと、ボクは彼を優秀な霊能力者のように崇め奉っていた。
食事が済むと、三人はカラオケボックスに移動した。
平日の早い午後、JRの駅に程近い雑居ビルにあるカラオケのチェーン店はまだ人影もまばら。麻里奈は受付の店員に少し広めの部屋をリクエストした。
「ここなら誰にも気兼ねなく続きが出来るね」
和哉に向かって声を掛けた麻里奈の目が一瞬異様な光を放ったように見えた。
「続き?」
(さっきの?)
だから彼女の意味深な言葉を深読みし、問い質した。
「話の続きね」
和哉は疑念を打ち消すように即座に麻里奈の真意を説明した。だが彼の目も呼応するように同じ色の光を放ったように見えた。
「久しぶりだから何だか燃えるね」
彼女の言葉は更に猜疑心を抱かせた。
「久しぶり?」
「カラオケボックスに来たのがです」
和哉は再び否定した。
まるで準備していたかのような淀みのない和哉の反応にはとりあえず手を引くしかなかった。
「それじゃあ私は……と」
麻里奈は落ち着く間もなくカラオケのリモコンを手にし、手際よく操作を終えるとお立ち台の上で曲が始まるのを待った。
程なくしてモニターには「Everything」の文字。
(いきなり歌い上げるのか……)
久しぶりのカラオケで燃えるというのは本当ようだ。しかし大事な話はどうなる?
ボクの行動が人類の命運を握っている状況では麻里奈が言うように楽観的にはなれるはずもない。対照的に二人は終始自然体。心理状態の大きな違いに戸惑いを感じながらもこの後の展開が全く読めず、コトの成り行きをただ見守り二人の指示をただただ真摯に受け入れようと、緊張度は更に増していった。
「麻里奈の言った人類滅亡の危機というのは実は『悪魔の復活』なんです」
(!)
いつの間にか右隣りに座っていた和哉が徐に口を開き、ボクは大いに面食らった。
「あ、悪魔の復活?」
「カオルさんは今度も男の子かもしれないって言ってますよね?」
「えっ!どうしてそれを?女の子が欲しかったんだけど男の子かもしれないって…」
「単刀直入に言うと、カオルさんが妊娠したと思われるその二人目が男の子なら、間違いなく悪魔の子として生まれてきます。同じ種(たね)から生まれた二人目の男子を文字通り『セカンド・ベビー』と呼び、悪魔の世界では奇跡に近い快挙であり、それ故復活を決定付ける大きな存在になるのです。
「ボクとカオルちゃんの子供が悪魔の子!?……っていうことは、頭に角が生えていて牙があって、鉤爪でコウモリみたいな羽があって……ってこと?」
「ぷっ、それは如何にもっていう典型的な悪魔像ですね。いえ、外見は人間と変わりがありません。でも何か事が起これば正体を現すかもしれませんが、本当の悪魔が僕たちのイメージ通りの外見なのかどうかも分かりません。ただ悪魔の子と言っても本人が悪魔になるのではなく、彼が悪魔の租(おや)となって彼の種で生まれる子供が正真正銘の悪魔になるのです」
「なんだボクたちの子がなる訳じゃないのか」
「安心してはダメです。悪魔の租(おや)が生まれてしまえば、誰と交わっても間違いなく懐妊し、正真正銘の悪魔が誕生します。近親者と交わっても生まれます。彼らに血が濃すぎるという考えはないんです」
「近親者っていうと……」
「母親のカオルさんでさえ妊娠させるとその子は『悪魔』なんです」
「でも仮に母親を妊娠させるとしても生まれたばかりの赤ちゃんがカオルちゃんとその……交わる訳じゃないよね?それとも悪魔の子は人間より成長がとてつもなく早いとか……」
「いいえ、身体の成長は人間と同じです。ですが生殖機能は誰も確認していないので未知数です。でもカオルさんが洗脳して性への目覚めを早めれば、たとえば小学一年生でも母親を妊娠させられるかもしれません」
「う~ん、少しづつ分かってきたけど、復活までには何年もかかるというのはボクが悪魔の立場だったら釈然としないよね。お陰で『人類滅亡の危機』とか言いながら麻里奈や君に焦りがない理由は分かったけど……」
幸か不幸か緊張度が緩和されてしまった。
「『悪魔の復活』という大願成就に長い時間が必要なのは、かつて悪魔の繁栄に関わったある女性が犯した数々の悪行を神が長い時間かけて浄化させたせいなんです」
「長い時間……て何年くらい?」
復活に数年かかるのだから浄化にはそれ相当の年月を要したのだろうと、素直に推測した。まさかとは思うが……
「五〇〇年です」
「ご、五〇〇年!?人間の寿命を逸脱しているね」
(!)
「でも、どうしてカオルちゃんがそんな悪魔の子を産む羽目になったの?悪魔たちの母でも何でもないのに」
「カオルさんは現代に蘇ったリリスなんです」
「リリスって誰?……あっ!」
(思い出した!)
「あの、神に背いた……」
そう口には出したが頭の中は違っていた。
(ボクの夢に出てきた……あの艶めかしい姿……)
カオルと関係を築いてから生活が目まぐるしく変化していった。だから二人の始まりをすっかり忘れていた。
あの瞬間を思い出し、股間が俄かに騒がしくなった。
「そうです。よくご存じですね」
「ネ、ネットで偶然神話の中の存在を知って、それで……」
(夢で弄ばれたコトは話せない。)
「そうですか。知っているなら話は早い」
それでリリスのコトはどのくらい知ってますかと訊ねると和哉はソファに座り直し
たのでボクは今話したコトくらいしか知らないと答え、彼のレクチャーを真摯に受ける決意をした。
そして和哉は「中世に復活したリリスの悲劇、そして光。~another story~」をまるで今見てきたかのように淡々と語り出した。
「五〇〇年後、リリスは神の許しを得て魂が昇華された。この言い伝えは空想の世界ではない、間違いのない真実だった」
「正に神話の世界だね。神様が全ての子どもを産むまで生を全うさせたってことかな?」
「そうかもしれません。その女性は謂わば悪魔たちの『母』だった。彼女がいなくなり悪魔はこの世から消えた。彼女を失ってから五〇〇年以上闇を彷徨い続けた奴らにとって、たった数年で復活が実現するのならその時間はとても短く感じるのかもしれない。そして復活への光が見え始めただけで悪魔の魂たちが色めき立ち、全世界の至る処で不吉な前兆を起こしているんです」
「……もしかして、戦争とか?」
「そうかもしれません。意志の弱い人間や私利私欲に走る人間などの心の隙に入り込んで誘惑するのが奴らの手口ですからね。あとは世界各地で起こっている自然災害もやつらが関係しているのかもしれません。それでも復活には数年という物理的には決して短くない時間を要するので、だからこそ状況さえ把握できれば阻止する時間も十分あるということなんです。とは言え、そのタイミングが遅れてしまえばそれだけ戦争や独裁者の集団虐殺のような忌まわしい出来事が次々に起こって世界中に混乱を招くでしょう。そうなれば人類は滅亡へと大きく傾き、復活への流れが加速してしまうんです」
「悪魔の復活ねえ……」
麻里奈は続けて2曲目「うれしい!たのしい!大好き!」を選曲した。今度は明るく熱唱するようだ。
「その天に召されたリリスによってなぜ『悪魔の復活』が始まったの?」
「リリスの魂を浄化させるために神が産ませた六六六人の中に時折あざのある女児がいた。それこそが神が完全には打ち消せなかった悪魔復活への小さな光だった。あざの存在は悪魔の血の存在の証し。彷徨う悪魔の魂があざのある女性を見つけては近付き、自らが持つ悪魔の血が他の人間とは異なる特殊な能力の持ち主であることを自覚させ、悪魔の復活に協力すれば、人間が元来持つ老いや死など抗うことのできないあらゆる負の宿命から解き放つと約束し、その他のあらゆる望みが全て手に入るとそそのかして誘惑。全てを払拭することを条件に同意させ契約した瞬間、その女性は『魔女』として悪魔復活までの手助けをすることになる」
「それが『現代に蘇った』理由はカオルちゃんには悪魔の血を引くあざがあった?」
和哉は黙って頷いた。
「でも起源はヨーロッパなのになぜ無関係な日本であざのある子供が生まれたの?」
「それが日本は無関係ではないんです」
まるで質問を想定していたかのように和哉の返答に迷いはなかった。
「どういうこと?」
言葉と同時に横目で麻里奈を見た。曲の間奏中にもかかわらず称賛(確かに上手だった)の拍手はしなかった。そして二人の会話に関係なく彼女の熱唱はその後も続いた。
「秋田美人はご存じですよね?」
「うん、まあ、特別詳しい訳じゃないけどそういう「人種」がいるコトくらいは」
「どんな方を知ってますか?」
「最近で言うとすぐ思い浮かぶのは佐々木希かな。あとは演歌歌手の藤あや子、元乃木坂46の生駒なんとかっていう子。乃木坂の子は美人というよりカワイイって感じかな?」
「カオルさんの母親は秋田美人だったようです」
「へえ……、それで秋田美人とヨーロッパに何か関わりがあるの?」
「今拓実さんが名前を上げた女性に共通する点は何だと思いますか?」
「う~ん、色白……かな?東北で雪国だから。単純なイメージだけど」
「まさにその色白に意味があるんです」
「どういうこと?」
「秋田美人に色白が多いというのは広く知られている特徴で、なぜ色白が多いのかという理由も諸説あります。その中に大陸との交流が盛んだったのでロシア人が渡って来たという説があるんです」
「だからロシア人の血が……。そう言われてみるとそんな気がしてきた」
「秋田県には北方系に多いとされるB型やO型の血液型が多いことや、県民の一部には白人由来のウイルスを遺伝的に持っているという事実も説を後押ししてしていますが、はっきりと証明されたコトはありません。ですが……」
「ですが?」
「あざの存在がカオルさんの母親の祖先は大陸から渡って来た人種。つまり秋田美人のルーツはロシア人だという説を証明したことになります」
「なるほど。あざのあるヨーロッパの人間がロシアを経由して秋田に渡ったと……」
和哉は再び頷いた。
「実は今回に限らず悪魔復活の危機は、人類の歴史上これまでに幾度となく訪れました。ですがその度にある秘密結社が復活を阻止したと言われていました。人間と復活を望む悪魔との戦いはリリスが昇華した瞬間から何百年も続いているんです」
「秘密結社というのは?」
「神がリリスを昇華させた直後に彼女に関する全ての情報を人類の中の『賢者』と呼ばれる者たちに告げ、秘密裏に悪魔復活を阻止する術を伝授し継承させる秘密結社を作らせた。その者たちは何代にも渡って俗世とは隔絶された世界で生き続け、世の中に不穏な空気が漂えば、一致団結して表立って戦いを挑み、悪魔の力の封じ込めを遂行し、またその事実を後世に語り継いだと言われています」
ボクは黙って話を聞いた。
「でもそれは真実ではありませんでした。実は悪魔の魂を欺くための作り話だったんです。本当は僕のようにその時代時代に『選ばれし者』が神の啓示を受け、悪魔復活を阻止するため尽力するよう直接指示されるのです」
「その大役が和哉くんに……」
「はい、『神の啓示』を受けました」
「でもどうして現代ではカオルちゃんに白羽の矢が立ったの?西欧の方であざのある女性は幾らでもいそうな気がするけど」
「カオルさんの生い立ちは想像を絶する悲劇の連続だったと聞いています。不幸な人間ほど誰よりも幸せに飢えている人種はいない……」
「それで『悪魔のささやき』が彼女を悪魔の母に導いたってこと?」
和哉は黙って頷いた。
「詳しいコトは僕たちにも分かりません。でも藁をもすがる思いの彼女にとって魂を売ってでも願いを叶えてくれる奴らの誘惑は、皮肉にも神様のお告げのように感じたのかもしれません」
~誘惑はそれぞれが置かれている不遇な環境をその女性の願いを成就させる。~
「その願いを叶えることを条件に、カオルは悪魔と契約を交わしたんだね」
彼女は絶好のターゲットだった。
「彷徨える悪魔はいつまでも人間の男性を誘惑し続けられるよう、リリス同様カオルさんが胎内に精を受ける度に若返る特殊な能力を授けた。だから今の彼女は実年齢より若く見える……いいえ、実際に若い肉体にリフレッシュされているんです」
「なるほど……」
和哉の説明に一々合点がいった。不謹慎にもカオルの身体を想像してより一層股間が勢いを増している。
「但し、この能力には弱点があります」
和哉の顔を覗き込んだ。
「はい、実は長い間誰とも交わりがなく胎内に精が得られないと、そのまま人間と同様老化が進みます」
「というと?」
「人間と同じ寿命で死を迎えます」
「カオルさんは悪魔が授けたその能力で常人では考えられない年月を生き永らえているのが既に分かっています」
「えっ?長い年月?一体何年くらい生きてるの?」
「拓実さんは知らない方がいいです」
「どうして?」
「知ってしまうとカオルさんが今まで生きてた記憶を全て共有することになります。彼女の壮絶な人生を知ることで拓実さんの哀れみの心が闇に支配され、人類滅亡を阻止する気力が失われてしまうんです」
「for you… 高橋真梨子」
モニターには麻里奈が生まれる前の古い曲のタイトルが。
これは確か求愛の曲。そう言えば三曲ともベタなラブソングだ。それにしても彼女は二人の話に加わる気がないのか……?
「カズくん、もうダメ!」
麻里奈は突然唄うのをやめ、マイクを使って叫んだ。
「濡れてきちゃった。我慢できない!」
我慢できない……?
麻里奈がココに来た目的はやはりアレをするためだったのか?
「分かった。今相手するから」
相手する……?
和哉も最初からそれを承知していたようだ。
「早くキテ……」
目の前の第三者の存在も最早眼中にない。麻里奈はスカートの前を両手で捲り甘い声で夫を誘っている。ボクの目に飛び込んで来たのはショーツのない露わな下半身。彼女の陰毛は薄い。その奥には光る何かがつららのようにぶら下がっている。
「以上で『人類滅亡の危機』に関するレクチャーは終わります」
和哉は徐に立ち上がり手招きする麻里奈の許へ駆け寄った。
「終わりますって……、人類を救う方法は!?」
悲痛な叫びを無視して潤んだ眼をした麻里奈と和哉はモニターの前で見つめ合い、そして深い口付けを交わした。麻里奈の鼻息はかかり過ぎた競走馬のように荒く、貪るように和哉の唇を求めていた。彼女が全てを忘れて本能の赴くままに欲求を満たそうとしているのに対し、彼の目は何処か覚めていた。曲がりなりにも夫婦だから営み自体を楽しんではいるのだろうが、ボクの問い掛けに答えようとタイミングを見計らっているようにも見えた。
「僕のレクチャーはオマケみたいなもので、拓実さんが聞きたくなければ必要ない情報なんです。要は人類を救う方法だけ実践してもらえれば問題ありません」
「方法って……、まだ何も教えてもらってないよ」
「それは拓実さんには特に教える必要がないからです」
「教える必要がないってどういうコト?」
「実践するのは毎日ヤッテるコトなので」
「毎日やってる?」
「つまりセックスです」
「セックスって……カオルちゃんと?」
「いいえ、カオルさんではありません。ただ相手とは快楽を求めるセックスではなく言うなれば純粋に繁殖目的でしてもらいます」
「繁殖目的ってカオルは妊娠してるけど……」
まさか!?というか、相手はもう一人しかいないよね……。
「カオルさんではなく相手はここにいる麻里奈です」
「麻里奈と繁殖目的でセックス!?……」
「はい、拓実さんの種で麻里奈を妊娠させてください」
和哉は眉一つ動かさず、涼しい顔で言い放った。
(麻里奈を妊娠させる……)
言葉にならなかった。でも何かを期待する自分もいる。股間への血流が勢いを増したせいで緊張度は緩和されていた。人類滅亡の危機を目の前にしてもエロの力は偉大だ。しかも配偶者の実の娘との営み。
性欲が死の恐怖を凌駕した。
「但しそれには条件があります」
「条件?」
「僕がいる目の前でしてください」
開いた口が塞がらなかった。ボクにAV男優の真似事をしろというのか?
「あなたはカオルさんと交わった時点で、悪魔は彼らが復活を成し遂げるための対象として常に監視されています。拓実さんが復活を阻止しようと具体的な行動に出れば何らかの方法でそれを妨げるはずです」
あの時のカオルの膣内(なか)の凄まじいうねりはその表れなのだろうか?
「もちろん麻里奈との子作りも妨げるでしょう。こちらが具体的に何を企んでいるのか奴らには判っているので。でも僕はそんな行動を悟られないように結界を張り巡らします。拓実さんはその結界の中で麻里奈と励んでください」
「結界というのはバリアみたいなコト?」
「まあ、『当たらずといえども遠からず』といったところでしょうか?結界を張ると内部からは外部の様子を窺えますが、外部からは何も見えません。例えば大通りのど真ん中でセックスしていても誰にも気づかれません。今それを証明します」
夫本人に間男を奨励され、しかも夫以外の子供を作れの命令。
えっ……?
「ちょっと待って!そもそもどうして麻里奈がボクの子供を産まなきゃならないの?さっき『具体的に何を企んでいるか奴らにも判る』って言ってたけど」
和哉は突然思い出したように目を見開き、そして真剣な眼差しで口を開いた。
「その子が正に人類の救世主になるからです」
「救世主?」
「はい……」
和哉は天井を見上げ、しばらく思案していた。
「そう考えたら『救世主誕生』はレクチャーが必要ですね。相対する時の心構えもありますからね。では麻里奈とコトが済んだらお話します」
コトが済んだらって、そっちの方が大事なの?……。
「実は麻里奈にとってこれが大事なルーティンなんです。重要なイベントがある度に良くも悪くも手が付けられない程興奮状態になって欲望を外部に発散しなければイベントに於いていいパフォーマンスが発揮できないと訴え、オープンにセックスしたがるんです」
ボクの疑念を見透かすように和哉は自らの行動を釈明した。
「早くシテ。今日は排卵日だから身体が勝手に反応しちゃうの……」
♪あなたが欲しい~ ♪あなたが欲しい~
消さないままのカラオケのモニターに映るサビの歌詞がまさに今の麻里奈の心情を指し示している。
えっ!排卵日?……、麻里奈もカオルみたいに分かるのか……って、そんなコト感心している場合じゃない!
麻里奈は下半身を和哉に押し付け、彼の肩の辺りで右手人さし指で円を描き、恥じらいながらお強請りしている。麻里奈の沸騰した脳は完全にボクの存在を消している。二人の世界に没入しようとしている。
「ねえ、早くカズくんの……、いっぱい頂戴」
「今から和哉くんとセックスしたら君の子を妊娠しちゃうじゃないか!」
じゃなくて、ココで本当にするの?
麻里奈は意に介さず和哉を見つめている。
和哉はしたり顔でボクを見た。
「大丈夫です。たとえ僕が麻里奈の膣内(なか)に何度射精しても今日は妊娠しません」
和哉は狼狽するボクに向かって薄い笑みを浮かべると、滑らかで素早い動きの指先とは対照的に落ち着いた低いトーンで口を開いた。
それにしても『今日は…』ってどういう意味?
更に『何度も』するの!?
冷静に話す和哉の陰部は臨戦態勢を整えていた。麻里奈は和哉のジーンズの上から執拗に右手を上下に動かし摩擦を繰り返していた。
「話が途中になりましたが、これからこの場で普段の寝室と変わらない麻里奈との『営み』をやります。先程言ったように結界の実力を証明するのでフロントにドリンクと何か食べ物を注文して、拓実さんがそれを受け取ってください。僕たちがどんなに激しい行為をしても店員には僕らは見えませんし、全く気づきません」
「その間、ボクは何をすればいいの?」
愚問だとすぐに気づいた。手持ち無沙汰と気まずい状況を想像して思わず口から零れてしまった。麻里奈は欲望の赴くままただ夫を欲している。当たり前の話だが二人の間に割り込む理由はない。グループセックスが趣味なら参加もありだが『コト』が済むまでただ待つしかない。
「拓実さんは二人の行為を細かく観察して麻里奈が何処をどう攻めたらイカせられるか研究ください。でないと麻里奈が悪魔の復活を手助けしかねない状況に陥る場合があります」
「どういうこと?」
「今は細かい話が出来ないので……」
麻里奈は二人の会話をBGM代わりにでもしているように楽し気な表情を浮かべると、ジーンズのファスナーを手際よく引き下ろし、慣れた手つきで指を内部に侵入させ爆発寸前のモノを素早く外気に晒した。その先端に光るそのカウパー腺液を見て
バルトリン腺液が麻里奈の太ももを更に色濃く濡らしていた。
ボクにはもうどうすることもできない。
和哉の言う通り『コト』を進めるしかなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます