第108話 魔剣 

 俺は岩に突き刺さった魔剣の元へ行く。

 禍々しいオーラーが魔剣から出ている。

 選ばれし者しか取れない魔剣。

 俺なら魔剣を抜けるはず。

 どうも〜、選ばれし者で〜す。

 俺は剣を握った。

 思いっきり力を入れて引っ張る。

 どりゃーーーーーー。


 取れん。

 嘘だろう。

 またまたご冗談を。

 俺は選ばれし者だよな?

 だってジィジィも言ってたじゃん。

「きっと『成長する者』であるお前なら伝説の魔剣が抜けるはずだ」

 ココに来て選ばれし者じゃなかった、というパターンはないぜ。

 ちょっと固かっただけだよな?

 どりゃーーーーーー。


 いやいやいや。

 冗談がすぎる。

 取れない取れない言いながらも結局は取れるんでしょ?

 こんなところで時間を使いたくない。

 早く取らせてくれよ。


 どりゃ。取れん。

 嘘やろう。取れるはず。

 やっぱり取れん。

 取れん。取れん。取れん。取れん。

 もういい加減にしろよ。温厚な俺だって怒っちゃうよ。

 取れん。

 一旦休憩しよう。

 空が青いな。

 今日はいい天気だ。

 魔剣を取って、英二を倒して、ミクを救い出して最終回。

 こんな日は最高な最終回になりそうじゃん。


 どりゃーーーー。取れん。


「いい加減にしろよ。さっさと俺に抜かれろ」

 どりゃーーー。

 取れん。

「わかった。わかった。お前もココにいてぇーんだよな? ずっとココにいたもんな? でもココにずっといても成長しねぇーんだよ。俺と一緒に外に出ようじゃないか」

 どりゃーー。

 取れん。

「ハハハハハ。お前が学校に行きたくないのもわかるよ。でも、みんなお前のことを待ってんだぜ。ちゃんと俺が付いて行ってやるから。な? わかった?」

 どりゃーーーー。

 ピクリともしない。

「俺は選ばれた者じゃねぇーのか? おい。聞いてんのか? お前だよ。お前。さっきから岩に刺さって動かねぇーけど返事ぐらいしたらどうなんだ?」

「なんだって? 俺を引っこ抜いてみろ?」

 ちなみに魔剣は喋っていない。

「お前がそこまで言うなら引っこ抜いてやるよ」

 どりゃあああぁ。

 取れません。

 ココに来て自分が選ばれた者じゃないってことが判明しただけでした。

 では、また明日。


 そんな訳にはいかねぇーんだよ。

 俺は英二を倒すぐらいに強くなんねぇーといけないんだよ。

 力づくで引っこ抜く作戦に変更。

 これって選ばれた者が抜く剣じゃなくて、力自慢が抜く剣だよね? そうだよね?

 

 集中して闘気を体に集める。

 

 おりゃ。

 これじゃあ抜けない事はわかっていたんだ。


 それじゃあコレではどうだ?

 炎の魔力を体に覆う。

 スーパー小林光太郎。


「ありがとうございまーす。魔剣いただきまーす」

 力の限り引っこ抜く。

 1ミリも動かねぇー。

「抜けんのかーい」

「それじゃあ実力行使するだけぜよ」

 

 上空に羽ばたき、茶玉を連射する。

 岩を砕いて魔剣を取っちゃおう作戦。

 ダ、ダ、ダ、ダ、ダ。

 茶玉が放出する。

 土煙が辺りに立ち込める。


 しばらく土煙が落ちつくのを待った。

 俺は愕然とした。

 愕然というのは非常にびっくりする様のことである。

 つまり俺は非常にビックリした。

 小便チビってしまいそう。

 とりあえず地面に降りる。

 ゆっくりと魔剣に近づいて行く。

 そして俺は魔剣を拾い上げた。

 剣先が折れて柄の部分しかない魔剣。

 もう魔剣じゃない。これはガラクタである。しかも置物にもならないガラクタである。つまりゴミである。

 魔剣のオーラーも無くなっている。

 どの角度から見ても、ただのゴミである。


 どうしましょう? 見なかったことにしようか? これって伝説の魔剣なんだよね?

 在庫は他にあったけ?

「すみませーん。これの新しい機種ってありますか?」

 と俺は独り言を呟く。

「はい。こちらが新しい機種になっております」

 と俺は自分の言葉に自分で返事をする。

「えーーー、でもコレって柄の部分しか無いですよ? 私、剣先があるタイプが欲しかったんですが」

「今は剣先が無いタイプしか置いてないんですよ」

「へーー。指紋認証とかって?」

「フェイス認証になっております」

「ちなみに戦う時ってどうしたらいいんでしょうか?」

「こうやって振り回していただきまして、強いぞ、って誇示していただきまして、そのまま魔物がビビって、どこかに行っちゃうって感じですかね」

「行っちゃうって感じなんですか?」

「行っちゃえばいいな、って感じですね」

「ちなみに行かない時の事も教えてほしいです」

「この柄のココの部分で頭をコンと殴って戦っていただければよろしいと思います」

「こんなんで戦えるか」

 と俺は魔剣の柄を投げた。


 やってしまったのだ。

 1人ノリツッコミをやってしまった、って後悔している訳じゃない。

 魔剣を破損させてしまったのだ。

 コレで英二と戦うつもりだったのだ。

 

 こんな物に頼らず戦えつーことか?

 いや、戦わないっていう選択肢もありかも。

 ミクの居場所はわかっている。

 アイツにバレないようにミクを救出して逃げる。

 いいアイデアのように思えた。

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