第105話 最後の別れ

 お嬢とチョメチョメしたから腕が再生されている。

 羽だって綺麗に戻っている。

 全てお嬢のおかげでございます。


 完全防御カマクラの中。

 寝心地がいいように土で作ったベッドの上。

 お嬢は俺の腕の中にいた。


「最終回まで秒読みじゃないの?」

 とお嬢が尋ねた。

「ミチコみたいな事を言うな」

 と俺は笑った。

 最終回って言うのは俺の目的である幼馴染の女の子を助けに行くことである。

 これで縦軸は回収される。つまり物語で言えば最終回。

「みんなに別れを言いなさいよ」

「わかってる」

「田中も意外といい奴なんだからね」

「わかってる」

「純子ちゃんが悲しむわ」

「わかってる」

「どこにも行ってほしくない」

「……」

「永遠に最終回が来なければいいのに」

「終わらない物語なんて無いんだよ」

「いっぱいあるわ」

「少なからず俺達の世界ではエタらない。始まれば終わる。かならず終わるんだよ」

 彼女が体をギュッとした。

「……せめて必ずハッピーエンドにしてよ」

「どんな事があってもハッピーエンドで物語は幕を閉じるよ」

「……私は光太郎のこと、本当に、嫌いだったんだからね」

「今までありがとう」と俺は言った。「お嬢と出会えて俺は幸せでした。初めはツンツンした、どっかで見たことあるようなキャラクターだな、って思っていたけど、そんな事なくて、お嬢はバカで純粋で可愛くて、お嬢がいてくれたからトキメいていられました。俺はお嬢のこと大好きです。お嬢のことを一番にできずにごめんね。俺の物語が終わった後も、どこかで幸せにいてね」

「……なによ。それ」

 お嬢が呟いた。

「私、バカじゃないもん」


 お嬢と離れて、俺は田中の元に行った。

 田中は体育館で死ぬように眠っていた。

 体育館の中は避難民達が持つ、懐中電灯で灯されていた。

 俺は彼の近くに腰を下ろす。

 ずっと誰かの傷を癒し続けていたのだろう。

 しばらくして田中が目を覚ます。

「光太郎殿ではないか?」

 彼は目をこすりながら言った。

「どうしたのだ?」

「あぁ、明日にはココを出て行く」と俺は言った。

「ココにいればいいじゃん」

 俺は首を横に降った。

「幼馴染の女の子を助けに行くんだ」

「……えっ、最終回ってこと?」

「みんな最終回は意識してるんだな」

「僕、全然活躍してないじゃん」

「お前はキャラが濃いから、ちょっと出て来ただけで印象的だったよ」

「まだやってないギャグもあるんだよ」

「どんな?」

「今は思いつかないけど」

「いいよ。ギャグやれよ」

「今は1ミリも思いつかないんだよ」

「それじゃあな」

「ちょっと待って。光太郎殿、もう少し喋ろうぜ。お別れの挨拶みたいなヤツないのか?」

「お前は暑苦しくてウザくて、一緒に歩いているだけで、コイツと友達と思われるのが恥ずかしかったよ。今も周りの目が気になって仕方がねぇー。コイツとは友達じゃありません、というプラカードを作りたいぐらい。初めて出会った時からずっと田中中にはムカついていたよ。今までありがとう」

「酷くない?」と田中が言う。

「それが別れの挨拶なのか?」

「そうだけど」

「それじゃあ僕も別れの挨拶させてくれよ」

「どうぞ」

「毎週かならず見てました。日曜日の朝が楽しみで仕方がありませんでした。女の子達が頑張る姿を見ることができれば一週間頑張ることができました。次のシーズンになっても必ず見ます」

「プリ○ュアの話してない?」

「頑張れ。プリ○ュア」と田中が言う。

「やっぱりプリ○ュアの話してんじゃねぇーか」


 俺は妹のところに戻った。

 純子。

「お兄ちゃん」と彼女が俺を呼ぶ。

 俺は彼女の隣に座った。

 妹の肩に腕を回す。

 赤ん坊の頃から知っている妹。

「大切、大切」と言いながら、俺は彼女の肩をさすった。

「なに?」

「純子のことが俺は大切なんだよ」

「なんでそんなこと言うの?」

「……明日、ココを出ようと思う」

「私も行く」

「伝説の剣を取りに行って、ラスボスを倒して、お姫様を助けに行くんだ」

「もう少しで最終回ってこと?」

 俺が頷く。

「純子は連れては行けない」

「……イヤだ」

「お前が幸せでいてくれるだけでお兄ちゃんは嬉しい。お兄ちゃんはお前の幸せだけを願っている」

「それじゃあ行かないでよ」

「ミクを助けたいと思う。それに純子の生活も取り戻したいと思う。日本を元の地球に戻して、お前の生活を取り戻したい」

「私はお兄ちゃんがいるだけでいいもん」

 俺は首を横に降った。

「ココにいればいつ魔物に襲われるかわからない」

「お兄ちゃんが守ってくれたらいいじゃん」

「守れない時があったら?」

「……」

「純子を安全な場所に戻すのがお兄ちゃんの役目なんだよ」

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