第103話 魔王

 ミチコの夢を見た。

 少女は何かを俺に伝えていた。


『もうそろそろ小説を完結させてくれませんか? 予定では終わっているはずだったでしょ?

早くラスボスを倒して幼馴染を手にいれてください。私がメインヒロインの次の作品の連載を開始したいんです』


 目覚めた。

 意味がわらかない夢を見た。

 アイツは小三病だったからな。

 小三病というのは自分で設定を付けて生きている時期のことを言う。

 彼女は誰かが作った物語の1人のキャラクターという設定で生きていた。

 利発的なのに、バカな一面もある可愛い女の子だった。

 将来の夢は? って尋ねたらアニメのエンディングで踊ること、と答えちゃうような女の子だった。

 プリ○ュアを卒業して魔法少女になれない事は知っているのに別の何かにはなりたい時期だった。

 夢の中で出てきたミチコも小三病を引きずっていた。



 目の前にジィジィがいた。

 なんだったらジィジィが俺を覗き込んでいる。

 目の前のジィジィって気持ちが良いモノじゃない。

 白髪で顔面は皺くちゃ。

 きっと70は越している。

 そう言えば、このジィジィ俺を殴って気絶させてたよな。

 魔族バージョンになった俺に、そんなことを出来るなんて相当強い冒険者なんだろう。


「なんっすか?」と俺は尋ねた。

「おぉー、起きたか」

 目が開いていたのが見えなかったのか?

「大きくなったな」

 ジィジィが急にキモいことを言い出す。

 誰だよコイツ?

 初めましてだぞ。

 大きくなったな、って小さい時から知っているような口調じゃねぇーか。

「お前に言っておかなくちゃいけない事がある」

 深刻そうにジィジィが言う。

 しかも、そのトーンは死ぬ間際に息子に何かを伝えるトーンだった。

 知らないジィジィから言われたらキモいこと。

「我は全て間違っていた。地球から領土を持って来たら、この世界が豊かになると思っていた」

 なにを言ってんだ? 

「直子の言う通りだった。何も変わらなかった。奪い合う対象が変わっただけで、何も変わらなかった。奪い合いじゃなく、助け合うことができれば、この世界はもっと良くなったのかもしれない」

「ちょっと待って。ジィジィは一体誰だよ?」

 今、直子って言ったよね? 直子と言うのは前世のお母さんである。

「我のことか?」

 とジィジィがトボけながら自分を指差す。

「まだ気づかんのか? ナオヤ・シューベルトよ」

「っで、誰?」

「マジっすか? 我だよ。我」

「そんな我さん知らないっすけど」

「えっ、超バカじゃん。ナオヤ・シューベルトって名前を知っているってことは? みたいにならないの? あっ、ごめんごめん。前世の記憶戻ってなかった?」

「いや、前世の記憶は戻っているけど、ちょっとアナタの事はわかんないっすね」

「あの姿は直子も嫌っていたし、ココで見せたら他の人もビックリするから、できれば見せたくないんだが……」

「何を勿体ぶってるの?」

「一瞬だけだぞ?」

 本当に一瞬だけジィジィが魔族になった。二本の角が生え、翼が生えた。

「えっ?」

「ようやくわかったか」

「っで、誰?」

「マジっすか? もう全部喋る気、失せたわ」

「道で会ったりしたら名前とか自分から言わないタイプって嫌われますよ。実際に俺はジィジィのことを少しずつ嫌いになっています」

「我が誰か察してくれ」

「察することができないから、こんな感じになっているんでしょ? 初対面の人に自分が誰か察しろって相当な傲慢ですよ」

「わかったわかった。魔王、魔王です。我が魔王です」

「……魔王?」

「言っただろう。案ずるな、我はお主の味方である」

「そんなこと言ってたっけ?」

「64話か、65話ぐらいを読み返して見ろ。ちゃんと我は言っておる」

「っで、なんだよ? 何しに来たんだよ?」

「我に冷たいな」

「だって魔王って日本を異世界に移転させた元凶じゃん」

「我は間違っておったのだ。人間と共存できると思っていた。もっとこの世界が良くなると思っていた。だけどそうはならなかった。もう一人の息子であるダザイが魔王になったら、いつかは地球を全てこの世界に持って来るだろう。日本を戻すのだ。転送装置が魔王城にある。それを破壊すればいい」

「それじゃあ破壊してくれよ」

「それはお前がやるんだ」

「お前の責任だろうが。お前がやれよ」

「魔王城にダザイ・シューベルトが帰って来ている。ソイツを倒せ」

「おい、俺の話を聞いてたか? ジィジィが転送装置を壊せよ」

「魔王城に日本人の女の子が閉じ込められている」

 早く、それを言えよ。

「城はどこだよ?」

「ここから東にある」とジィジィが言う。

「東ってどっちだよ」

「東っていうのは東だよ」

「どっちに向かえば東なんだよ」

「朝目覚めた時に太陽がある方向に向かえばいい」

「早くそれを言え」

 俺は立ち上がって体育館を出る。

 太陽が夕焼けだった。

「こっちに戻って来い」

 とジィジィが叫んでいる。

「その腕でどうやってダザイを倒せるんだ?」

「足がある」

「五体満足な状態で倒せなかったダザイを足だけで倒せると思っているのか?」

 それじゃあ、どうしたらいいんだ?

 と思ったところで、すぐに妙案が思いつく。

 エッチなことをしたら欠損部分が回復するのだ。

「お主のことは、この世界から見ていた」

「まぁ、イヤラシイ」

「イヤラシイシーンはもちろん見とらん」

 ジィジィが言った。

「その欠損部分は再生できるんだろう」

「あぁ」と俺が頷く。

「そして我はお主に言わなければいけないことが他にもある」

「なんだよ?」

「魔王城を越して、さらに東に進むと大きな山がある。そこに選ばれた魔族しか抜けない魔剣が岩に刺さっている」

「そんなベタが最後に待っているのかよ」

「きっと『成長する者』であるお前なら伝説の魔剣が抜けるはずだ」

「その剣って何たらカリバーって名前かいな?」

「そうだ。スーパー魔剣誰でも倒せるぜカリバーだ」

「すげぇ、ダサい名前」

「この魔剣がなぜ、その岩に刺さったのか説明しよう」

「いらん、いらん」

「昔……」

 とジィジィが語り始めようとする。

「いらねぇーって言ってるだろう」と俺が言う。

「それじゃあ名前の由来だけでも」

「いらん。いらん」

「なんと、この魔剣を持った魔族は誰でも倒せるようになるのだ」

「そのままじゃねぇーか」

「ちなみに魔剣は聖獣が守っておる。攻撃系のスキルが効かない死ぬほど強い聖獣である。かならずお主なら倒せるだろう。そして世界最強になるのだ」

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