第102話 VSミチコを殺した魔物

 もう完全にお嬢が食べられたと思った。

 お嬢を襲っていた名前も知らない魔物。

 俺が出した青玉をソイツは避ける。

 魔物は軽快なステップで避けながらお嬢に近づいて行く。

 ダメだ、距離がありすぎる。

 

 走った。

 足が千切れてもいいと思うぐらいのスピードで走った。

 魔物は大きな口を開けて、お嬢に食らいついた。


「間に合った」


 お嬢が怒りとも、恐怖とも、憎しみとも、怯えとも思えるような表情で魔物を見ていた。


「アイツがミチコを殺した魔物」


 魔物を見る。

 ソイツは俺の腕を食べていた。

 あったはずの場所に腕が無くなっている。

 血が溢れ出している。


「コイツは俺が殺す」


 コイツがミチコを殺したのか。

 俺の好きな少女を殺したのか。


 腕なんて無くていい。

 コイツは生きて返さない。

 水道管を破壊したみたいに体の奥底から闘気が溢れ出した。

 

 黒い煙が俺の毛穴から溢れ出していく。

 体を炎のスキルで覆った。

 

「お前がミチコを殺したのか」


 怒りだった。

 

 腕が無いから足を使った。

 

 魔物が棘のついた尻尾で攻撃してきた。


 尻尾を蹴り上げる。


 尻尾だけが飛んで行く。


 怒りに任せて魔物の顔面を蹴り上げた。


 完全にモザイクが入るぐらいにぐちゃぐちゃになるまで顔面を蹴り上げた。


 くぅーん、と弱く鳴いたけど、それでも怒りは消えなかった。


 まだミチコは9歳だったんだぞ。

 

 魔物の血が地面に飛び散り、辺りを赤色に染めた。


 ぶどうを作るようにグチョグチョに踏みつける。


 きっと、すでに死んでいるけど、それでも俺は踏みつけた。


「光太郎」

 とお嬢の声。

「もう死んでるよ。もう死んでる」


 グチョグチョ。


「もういいよ。光太郎」


 グチョグチョ。


 まだまだ怒りが収まらない。


 ハイゴブリン達も俺にドン引きしているのか撤収を始めている。

 自分達より強い奴がいるからって、逃げてんじゃねぇーよ。


 怒りにまかせて逃げ惑うハイゴブリン達の顔面を蹴って行く。


 蹴る蹴る蹴る。


 俺のせいか?

 俺のせいでミチコは死んだのか?

 俺は何も守れなかったのか?

 母親も守れなかった。

 誰も守れなかった。

 アイツに負けた。

 ミクも取り戻すことができない。


 蹴る蹴る蹴る。


 生きているハイゴブリンがいなくなっても、沸騰した怒りを冷ますことができずに魔物の死体をグチョグチョと蹴り上げた。

 俺、怒ってたんだな。

 冷静な頭で思った。

 自分が怒っていることを認識している。

 めちゃくちゃ魔物に対して怒っていたんだな。

 いや、この世界に対して怒っていたんだな。


「やめろ」

 ジィジィに言われる。

 さっき体育館でハイゴブリンを倒していたジィジィ。


「うるせぇー」

 ドス。

 腹を殴られた。

 後は意識が無い。

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