第101話 無理ゲー

 えっ、もう公園の中にハイゴブリン達が入って来てるじゃん。  

 茶玉。

 茶玉ばっかり使ってしまうよね、俺。 

 使い慣れているというのもあるけど赤玉を使ったら火事になる。

 別に青玉でも水玉でもいい。

 青玉は氷の攻撃。水玉は水の攻撃。

 あれ? もしかして茶玉を使ったら後の土の処理が大変じゃねぇー?

 できる限り青玉を使おう。


 民間人というか、人間達はみんな避難しているっぽい。

 体育館を守らなくちゃいけないけど俺が前衛に立った方が良くねぇー?

 たぶん前衛で戦っていたら魔力不足に陥って殺される。

 前衛で戦う冒険者とバトンタッチして体育館を守ってもらいながら力を温存してもらう。

 俺は頭の中で将棋盤をイメージしていた。

 体育館が落とされたら俺達の終わり。


「キャーー」と悲鳴が体育館から聞こえた。

 俺は戻る。

 ヤバい。

 どこから湧いて来てるんだよ。コイツ等。

 体育館の扉はハイゴブリンに壊されていた。

 魔物が中に入っている。

 

 ココから青玉を撃てば殺せる。

 だけど青玉は魔物を貫通して、人間に当たるかもしれねぇー。

 ダッシュで魔物のところまで行って打撃で殺すか?

 いや、そんな時間がねぇー。

 10歳ぐらいの女の子がハイゴブリンに掴まれている。

 どうしよう?


 赤い炎がハイゴブリンを切断した。

 中心に線を引いたように、パックリとハイゴブリンが二つに割れた。

 新庄かなが炎を宿った剣を握りしめて立っていた。

 よかった。

「お嬢、体育館を守るぞ」



 作戦変更。

 俺が前衛に出た方がいい、と思っていた。

 だけど敵は色んなところから入って来ているっぽい。

 前衛もクソも無い。

 むしろ壁際で戦う冒険者を呼び出して、体育館の周りを囲って守るべきだ。



「お嬢、こっちの戦力は?」

「私と光太郎。それと3人の冒険者」

「少なっ」

「このハイゴブリンって、バーストした時のハイゴブリンだよな?」

「たぶん。私達が来る前までは、ココはハイゴブリンの植民地になっていたの」

 コイツ、俺と同じぐらいバカなくせに植民地とか難しい言葉を使っている。

「定期的に女の子を渡して、集めた食料を渡していたらしい」


 いや、流石に違和感あるでしょ。

 そんなに俺もバカじゃねぇー。


 ハイゴブリン達の狙いはわかる。

 ココを人間畑にしたいんだろう。

 育てて収穫する。

 すでに女の子を定期的に渡して食料も渡しているらしい。短時間で人間は育たない。まだ町化もできてないのに、女の子を奪っていけば徐々に人が減って、最終的には男だけ残る。

 それに食料も無ければ死ぬ。

 もしかしてハイゴブリン達がやろうとしているのは備蓄を少しずつ食べるって事なんだろうか?


 衝動だけで動いている魔物が、そもそもそんな事をするだろうか?

 誰かの知恵なのか?


「私が来てから女の子を渡すのを止めさせた。食料を渡すのを止めさせた」

「オーケー」

 それでハイゴブリンがキレて、もう備蓄を少しずつ食べるのは止めようみたいな事になったんだろう。

 先に奪った奴のモノになったんだろう。

 もしかしたら誰かの制御から外れたのかもしれない。

 俺は青玉でハイゴブリンを倒す。


「俺は向こう側を守る」

「じゃあ、私はコッチ側」

 本当は壁際で守る冒険者を戻したい。

 だけど2人しかいない状態なのだ。

 冒険者の元まで行けない。


 人間バージョンじゃあ攻撃力が弱いから魔族バージョンになる。

 羽がボロボロ。角も折れているっぽい。

 見た目は悪いけど、こっちの方が強い。


 どんどんとハイゴブリン達が増えて行く。

 俺にとってはクリボーと同じぐらいに弱い。

 だけどモグラ叩き状態で、1匹も逃してはいけないのだ。

 無理ゲーじゃん。

 俺にだって死角はある。

 せめて羽が健全なら空から守れたのに。

 つーかコイツ等何匹いるんだよ?


 やっぱり無理ゲーで、体育館から悲鳴が聞こえた。

 クソ。

 お嬢は遠くでハイゴブリンと戦っている。

 俺の陣地はハイゴブリンを処理済み。

 俺が戻るしかねぇー。



 体育館で七十代ぐらいのジィジィが、ハイゴブリンの頭を掴んでいた。

 首から下は床に倒れていた。

 首を千切ったらしい。

 もう1人、冒険者がいるんじゃん。

 すぐ近くでおばちゃん教頭先生が腰を抜かしておしっこを漏らしていた。


 人間達が悲鳴を上げた。俺のことを見ている。

 あっ、この姿を見せたらダメだったんだ。

 すぐに体育館から離れる。


 お嬢の近くに、ハイゴブリンではない別の魔物がいた。

 四足歩行の魔物。シルエットはライオンに近い。だけど大きさは象ぐらいある。人間の顔をしていた。教育指導の先生のような恐ろしい顔である。尻尾は黒くて先に棘がある。サソリの尻尾みたい。

 ココからでもわかるぐらいにお嬢が震えていた。

 その魔物が大きな口を開けて、お嬢に襲いかかった。

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