第99話 お嬢のパンチ
俺はお嬢のところに向かった。
ドラクエのように妹が俺の後を付いて来る。
内藤さんも付いて来ていた。
田中中は本当に疲れていたみたいで、泣きじゃくった後に倒れてしまった。
ずっと魔力を0まで使って、人を回復させて、倒れて、少し回復したら、また人を治してを永遠に繰り返しているらしい。
田中のところに人が集まるのは、少しでも彼に負担をかけないように集まっているらしかった。
プールの監視する高い椅子を引っこ抜いて来たらしく、そこにお嬢は座って壁の向こう側を見ていた。
内藤さんはパーティーメンバーを見つけたらしく、駆け出した。
「お嬢」と俺が言う。
彼女は俺に気づき、監視椅子から降りて来る。
俺の目の前に来た。
お嬢が俺の頬を殴った。
えっ、なんで?
「なんでシヴァを戻したのよ?」
そう言って、お嬢が俺を殴る。
彼女の目が真っ赤だった。
「なんでシヴァを戻したのよ?」
同じ言葉を繰り返して俺を殴る。
俺は殴られた。
「どういう事だよ?」
「ミチコ、死んだのよ」
うん、と俺が頷く。
「強い魔物に襲われて。2人でシヴァのところまで逃げたの。シヴァに助けてもらうために。でもシヴァは強い魔物を倒す前に消えたわ」
俺は殴られていた。
倒されて馬乗りにされていた。
「かなさん」
と妹が止めた。
「いいんだ」と俺が言う。
新庄かなは目から涙をボロボロと出して泣いていた。
俺はシヴァを戻して召喚した。
あの時、向こうがどういう状況か考えなかった。
「ごめん。それじゃあ俺のせいだわ」
全然、力の無いパンチが俺の頬に入る。
「アンタのせいなわけないでしょ。……私のせいよ。私がミチコを守れなかったの」
「俺がシヴァを戻したせいだ」
頬が痛くないのに、涙が溢れ出した。
「私のせいよ。弱い私のせいよ」
彼女がえ〜ん、え〜んと泣いた。
俺は大好きな少女を守れなかったんだ。
俺のせいでミチコを殺してしまったんだ。
俺がシヴァを戻して召喚しなければ今頃ミチコと再会できたんだ。
お嬢のパンチが止まった。
彼女は俺の胸で泣いていた。
スースーと寝息が聞こえた。
泣いているんじゃない。
寝ている。
「小林君」
と誰かが俺の名前を呼んだ。
内藤さんのパーティーメンバーだった。
三十代ぐらいの男の人。
「その子、ずっと寝ずに気を張ってたみたいだから寝かしといて。君が来て安心したんだと思う。その子、初めて寝たんだよ」
俺は地面に寝転がって、残っている片手で目を塞いでいた。
「パーティーメンバーが死んだんだってね。その事で田中君も新庄さんも自分のことを責めているみたいだから少しでも励ましてあげて。2人ともこのままじゃあ過労死しちゃう」
「はい」
と俺は頷いた。
俺の返事は酷く震えていた。
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