第95話 おっす、オラ小林光太郎

 おっす、オラ小林光太郎。

 今、オラは大ダメージを受けて洞穴の中にいるんだ。

 洞穴っていっても瓦礫で作られた空間だよ。

 鉄筋コンクリートの破片とか木片とか家具とかに囲まれている。

 ちなみに右腕は失っている。肘辺りから無い。

 自動回復だけじゃあ欠損箇所は戻らない。

 女性を抱かなくちゃダメだ。

 神田英二の攻撃からの身を守ったので羽だって欠損している。

 こりゃあ女性を抱かなくちゃ回復しねぇー。

 っで、近くに女はいないのか?

 すげぇー俺ってゲスだよな。

 近くに女はいる。

 今、缶詰を開けてくれている。

 内藤アリサ。

 過去に戻る能力を持った女性。

 鬼ヶ島に行く前に出会ったボロボロのお化けと同じ姿だった。

 ボムヘアーは金色に染まっていて、服はジーパンにネルシャツ。

 寒いのにジャンバー的な物はない。

 服はボロボロで破れていたり、血が付いていたりする。

「内藤さん」

 と俺が言う。

「あっ、起きた? 今缶詰開けてるから」

「鬼ヶ島に行く前に出会ったお化けと同じ服装してます」

 同じぐらいにボロボロだった。

 彼女が自分の服を見る。

「過去をやり直しても、ある一定は同じ結果になるのよ」

 と彼女は言う。

「それじゃあ内藤さんのパーティーメンバーも死んだんですか?」

 彼女が首を横に振る。

「私だけがアナタを追いかけたの」

 と内藤さんが言った。

「私の力なら、どうにかできるんじゃないかって思ったのよ。でも無理だった。何度やり直しても光太郎君の助けにならなかった。相手が強すぎた」

 俺は気づけなかったけど、あの戦いは彼女も参戦してくれていたらしい。

「傷、大丈夫ですか?」

 と俺は尋ねた。

「私は大丈夫よ。魔力を使い切るまでやり直しして、一番怪我が少ないルートまで逃げたから」

「怪我を治せますよ」

「治癒能力持ってるの?」

 きたきた。

 ココからは営業マンであるワシの見せ場じゃ。

「持ってます。ぼくの治癒能力は自分自身も相手も治る凄いやつです」

 ぼく、って一人称は寒気がする。

「へー、凄いね」

「そうです。凄いんです。奥さん。それに魔力だって回復するんです」

「奥さん?」

「あっ、ノリで言ってるだけなんで無視してください」

「……それじゃあ早くやって」

「わかりました」

「ちょっと待って」

「何?」

「無しで」

「何が?」

「聞いてない。エッチしたら治癒するなんて、聞いてない」

「まさか戻って来たんですか?」

「そうよ」

 と顔を真っ赤にさせて内藤さんが言う。

「どこまでしたんですか?」

「別にいいでしょう。私はアナタとそういう関係になりたくない」

「わかりました。先っちょだけで我慢します」

「先っちょも無理」

「匂いだけ嗅がせてください」

「無理」

「太ももに顔を埋めるだけ。それだけでも、だいぶ違うんで」

「無理なモノは無理」

 彼女が缶詰を俺の前に置く。

 自動回復が追いついていなくて体が痛い。

「俺って、どれぐらい寝てたんですか?」

 と俺は尋ねた。

「一週間ぐらいかな」

 と内藤さんは答えた。

 そんなに溜まっているのか。

 溜まっているって何が?

 教えてあげられない。

「一週間で傷が治ってない、ってどれほどの怪我をしてたんですか?」

「凄かったわよ。血まみれだし、くっ付いていた手足は変な方向に曲がっていたし、肋が折れて肺に刺さって息もできない状態だったわ。アナタに自動回復があって良かった」

「一週間、俺の面倒を見てくれたんですか?」

「当たり前じゃない。私がココから出たら魔物に襲われるから」

「ありがとうございます」

「いいわよ。これぐらい。だってアナタは私達を助けてくれたんだから」

 神田英二との戦いを俺は思い出していた。

 大精霊を4体吸収した英二。

 強くなった英二に俺は太刀打ちできなかった。

 きっと今の俺では何度やってもアイツには勝てない。

 そして戦いの最後に異世界に転移する、という声が聞こえたような気がする。

「ココは異世界なんですか?」

「わからないわ」

 彼女が洞窟から見える空を見上げた。

「ダンジョンのゲートが無くなっているのよ。夜になれば月が二つ出るの。ココは地球では無いと思う」

「俺、アイツを倒したい」

 と俺は言った。

「きっと俺が探している女の子も、この世界にいると思うんです。でもアイツを倒さなきゃ彼女に会えないような気がするんです」

 内藤さんが俺を見つめた。

「今のままじゃあダメだ。体が欠損している状態じゃあダメだ。俺の能力に淫欲というスキルがあるんです。エッチをすれば体力と魔力が回復するという能力です。一回のエッチで欠損箇所も治るんです。アナタが世界を救うんです。よろしくお願いします」

「ダメーー」と内藤さんが叫んだ。

 やっぱりヤラしてくれないらしい。

 回復したらココから出て、女性を探しに行かなくちゃいけない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る