第94話 俺は魔王になる ー神田英二視点11ー

 とりあえず休憩ターイム。

 一旦ココは身を引こう。

 まだまだ時間はあるのだ。


 泣いてないもん。

 これは涙じゃないもん。

 俺も考える時間がほしいだけだもん。


「ガラダ」と俺は叫んだ。

 すぐに1人の老紳士が俺の目の前にやって来る。

「お帰りなさいませ。ダザイ・シューベルト様」

「なぜ俺のところに早く来ない?」

 さっきのミクの話し合いも、お前がいたらサポートしてくれてたのに。

「私が行きますと邪魔になる可能性がございましたので、控えさせていただきました」

 コイツがサポートしてくれていても結果は変わらなかったんだろう。

「そうか。ありがとう」

 と俺は言った。

 ガラダが驚いた目をしている。

「ダザイ様が感謝の言葉を……」

「それでゴブリン達の様子はどうだ?」

 コイツは手下の魔物を見張らしているんだろう。

「不思議なことに、ゴブリン達は人間を襲わないようにしているみたいです」

「そうか」と俺は頷く。

 少しは言うことを聞いているみたいだな。

「ゴブリン達の不思議な行動をご存知なのですか?」

「俺が使役しているゴブリン達だ。命令は俺がした。人間を殺さず、犯さず、奴隷にしろ」

 うぅうぅ、とガラダがうねり始めた。

 どうしたんだ? コイツ。

「すみません」

 ポケットからハンカチを取り出して、目を拭いた。

「ダザイ様の成長が私は嬉しくあります」

「そうか」

「転生して戻らない期間、私は不安で仕方がありませんでした。見知らぬ世界が気に入って、もう2度と戻らなかったら? 実はダザイ様が成長すると思って転生を提案しました。成長して帰って来てくれたことに感激でございます」

 ずっと泣いている。

 バカなのかコイツ?


「転送装置はどうなってる?」

 と俺は尋ねた。

「完成しております」

「転送装置まで案内してくれ」

「かしこまりました」


 転送装置。

 色んな水晶が大量にくっ付いている。

 水晶畑みたい。

 複雑な術式が地面に書かれている。

 そして意識のない勇者が捉えられて水晶に魔力を供給している。

 勇者はエネルギーと思ってくれたらいい。


 水晶を覗くとダンジョンの光景が見えた。

 冒険者達が魔物と戦っている。


「これを壊せばどうなるんだ?」

「転移した領土が元に戻ります」

「人間も?」

「さようでございます。コチラに来たモノは全て元に戻ります」

「俺は?」

「元々、コチラの世界の住人であるダザイ様はココに残られると思われます」


 ミクもココの住人だよな?


 それじゃあコレを壊してもミクは地球に戻らない。


 コレを壊せばミクは認めてくれるだろうか?


「ダザイ様」とガラダが言った。

「立派な魔王になられましたら、どんな女性でもダザイ様に付いて行くと思います」

 俺は考える。

 たしかにトップオブトップは魔王である。

 魔王になって、この世界をより良い世界にすればミクだって振り向くだろう。

 魔王になるためには光太郎を殺さなくちゃいけない。

 ミクor光太郎。

 ミクの勝ち。


 俺、魔王。

 世界を良くするぞ。

 人間も魔物も共存させるぞ。

 きゃーーーー英二君素敵。ミクだって俺のことが好きになるはず。

 元に戻してほしい、と彼女が言った。

「日本から奪って来た領土って、元に戻すのは転移装置を破壊するしかねぇーの?」

「はい」

 壊したら、もう世界の領土を奪うことはできない。

 この世界は枯れている。

 その埋め合わせのために地球の領土が必要だった。

 

 枯れた世界じゃあ、キャー英二君素敵、はできないだろう。

 魔王として、この世界を良くする。


 魔王として、この世界を良くする?

 俺は何を考えているんだろうか?

 さっきまで魔王無理っす、って言ってたじゃないか。


 前世の思考と、今世の思考が混ざっている。


 前世なら全て奪ってやる、とバカみたいに考えていたけど、奪うだけじゃダメだと今世で理解した。


 もしかして、2つの思考が混じり合って俺は錯乱しているのかもしれない。


 俺が導き出した答えは、この世界に日本を作ればいいじゃん、ということだった。

 この発想、天才じゃねぇー?

 そしたら元に戻ったのも一緒じゃん。

 錯乱しているのか、最高の答えを導き出したのか俺にはわからない。

 でも今の俺にはコレしかないと思えた。


「日本を全て転移させる事は可能か?」

 日本人がいればミクだって寂しくないだろう。

「可能でございます。ただし時間がかかります」

「いいだろう。頼む」


 魔王になるために光太郎を殺す。

 そして最終的には現魔王が死ぬか、譲るかしないと俺は魔王になれない。

 先に弱っている魔王を殺しておくべきか?

 今、俺は何を考えた?

 ずっと魔族の姿になり続けていたら前世の思考になっている。


「魔王はどこにいる?」

「魔王様は、老衰でほとんどの力を失って城を後にしました。探すな、という命令ですので、誰も魔王様の居場所を知る者はいません」

「それじゃあ死ぬ場所を探している状態なのか」

 光太郎を殺すのが優先か?

 成長する者。

 すぐに光太郎は強くなるだろう。

 それよりも俺は強くならなくちゃいけない。

「4体の大精霊を吸収しに行く」

 と俺は言った。

 4体の大精霊を吸収した魔族は世界を滅ぼす力を得るという言い伝えがあった。

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