第93話 彼女を監禁 ー神田英二視点10ー

 ミクを牢屋に入れた。

 仕方がなかったんだもん。

 だって監禁しなくちゃ、逆に魔王城にいる魔族に殺されるだろう。

 外の世界に置いていたらゴブリンに犯される危険性もある。

 ゴブリンじゃなくても、他の魔物だっているのだ。


 でも牢屋の中はそれなりに豪華にしたつもりである。

 モフモフの大きなベッド。

 家具。着替えのドレスなんかも置いてある。

 一番豪華な牢屋をセレクトしたつもり。つまりスイート牢屋である。

 調理ができるようにキッチンも付いている。それにトイレは外から見れないように個室になっている。

 人間のお姫様を誘拐した時に作られた、スイート牢屋である。

 モフモフのベッドの上にミクは眠っていた。

 

 俺は牢屋の外で彼女の寝顔を見ていた。

 できれは近づいて抱きしめたい。

 だけど彼女は錯乱している。

 錯乱というのは思考が混乱していることである。

 どうやら俺と付き合っているのに、光太郎のことを想っていると勘違いしている。

 そう、これは勘違いなのだ。

 ミクは光太郎のことを好きだと勘違いしている。

 もしかしたら転生したショックか?

 もしかしたら転移したショックか?

 なにかしらのショックで彼女の頭は錯乱している。



 イタタタタタタ、と彼女がコメカミを抑えて起き上がった。

 そして俺と目が合う。

「おっはー」

 と俺が呟く。

「なにがおっはーよ」

 と彼女が尖った口調で呟いた。

 こんな喋り方をする子じゃなかったもん。

 錯乱の最中である。

「ココはどこ?」

「魔王城の牢屋だよ」

 彼女が俺を憎しみの目で睨んでくる。

「私をどうする気?」

「どうもしないよ。ミクがゴブリンに犯されるんじゃないかって心配で連れて来たんだ」

「牢屋に?」

「そう。ココなら安全だよ。だってココなら囚われの身だと思われるから魔族だって手出ししない」

「……元に戻して」

 と彼女が呟いた。

「転移させたんでしょう? 元に戻して。地球に戻して」

 異世界に転移した土地や人間は元に戻す事が可能なんだろうか?

「ちょっと考える」

 考えても答えは出ない。

 ガラダに聞けばわかるだろうか?

 ガラダというのは俺が子どもの頃から面倒を見てくれている執事である。

 一本角の老紳士。

「元に戻してよ」

 と彼女が泣き始めた。

「泣くなよ」

 と俺が言う。

「私、……光太郎のところに帰りたい」

 と彼女が言う。

「私、……前みたいに殺されるのイヤ」

「ミクと付き合ってるのは俺だろう?」

 彼女が泣きながら俺を睨む。

「アンタが暴走しないか身近で見ていただけよ」

「嘘だ」

 と俺が言う。

 彼女は錯乱しているのだ。


 前世の記憶が戻っていたとしても、俺と付き合ってから戻ったのか? それとも付き合う前に戻っていたのか?

 それで彼女の言葉の真意がわかる。

 付き合う前に記憶が戻っていたなら、俺が暴走しないように見ていたというのは本当なんだろう。

 手も繋いだことがない。それに観察するように俺のことを見ていた。


 でも、それって好きすぎるから緊張して、近づくことができなかったんじゃないか?


 付き合った後に記憶が戻っていたら、もう言い逃れはできん。

 記憶が無い状態なら光太郎より俺のことが好きなんだ。

 つまり本当は俺のことを求めているんだ。


「いつからミクは前世の記憶が戻っていたんだ?」

「産まれた時から」

「嘘だ」

「光太郎が何者なのか? 英二が何者なのか? 見た瞬間からわかっていた」

「嘘だ」

「アンタのことなんて好きじゃない」

 

 だいぶ錯乱してやがる。

 錯乱しまくってやがる。

 まずは深呼吸だ。


「俺のこと好きなんだろう」

「私を残忍に殺した人をどうやったら好きになれるの?」

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