第90話 この騒動は俺じゃない ー神田英二視点7ー


 アタイ憧れの高校まで向かっています。

 急げ急げ、遅刻しちゃうぞ。

 食パンをくわえるのは忘れちゃいました。

 ドジっ子のさらに上のドジっ子。

 もちろん制服なんて着ていない。

 だって高校に通ってねぇーもん。

 ダンジョンに入ってたいら月日が流れて試験を受けてねぇー。

 ドジっ子を通り越してマヌケである。

 俺は上空を羽ばたいていた。


 やべぇーぞ。

 地球に解き放ったゴブリン達が女性を襲っている。

 描写はできん。

 絶対にできません。

 俺はアイツ等のリーダーじゃございません。


 どうしたらいいの?

 今は動揺しすぎて、出来る限り見ないふりを決め込んでいる。

 正直に言うと怖い。

 あんなプロレスラーみたいなガタイの大きな性犯罪者のリーダーだと思われたくねぇー。

 やめてけれぇー。

 みんなやめてけれぇー。

 山に帰ってけれぇー。

 この町には、お前等の欲してるものはねぇー。

 と叫びたい。

 叫びたいけど、この町にはゴブリン達が欲しているものだらけなんだろう。


 うわー、男の人の頭蓋骨をゴブリン達が割ってるし。

 やめてよ。もう。

 見ているだけで気分が悪くなる。

 アイツ等にとって人間なんて、性奴隷にも食料にもできるハイブリットの生き物ぐらいにしか思ってないんだろう。



 ミクは大丈夫かいな?

 俺は急いで、ミクの元に向かう。

 もうそろそろ着いてもいい頃合いじゃねぇー?

 そうです。迷子です。

 見学も行ったことがあるけど1回しか行った事ねぇーもん。

 とりあえず最寄駅を探そう。


 あった、あった。


 もっと高く飛んで確認する。

 高校発見。

 ビューンと飛んでいく。


 ゴブリンが門をよじ登って入って行くところだった。

「待った、待った」

 と俺が高校に入りそうなゴブリンに言う。

「主人様」

「ココは手出しするんじゃねぇー」

「なぜ?」

 なぜ?

 そんな質問してくるなよ。

「お前はバカか」

 と俺は怒鳴る。

「お前等は人間を殺したり、犯して使い物にならなくする。これからのゴブリン村の発展のために人間という奴隷が必要なんだよ」

「わかりました」

「みんなにも伝えろ。人間は奴隷にするから殺したり、犯したりするんじゃねぇー」

「はい」

「行け」

 ゴブリンが去って行く。


 フーーー、これで一安心である。


 キャーーーと悲鳴が校舎から聞こえた。

 まさか?

 すでに校舎の中にゴブリンが入っていたのかよ。

 

 ビューン、と飛んで校舎に向かう。

 窓からゴブリンが女の子を襲っているのが見える。


 窓を突き破る。

 なにをしてんねん。

 バシ、と頭を叩く。

「えっ、主人様?」

 女の子がおしっこを漏らして、コチラを怯えながら見ていた。

「人間は奴隷にするから犯すな殺すな」

「はっ」

「お前は他の奴等にも伝えろ」

 俺に命令されたゴブリンが去って行く。


 視線を感じた。

 鋭く尖った視線。

 そちらを見た。

「ミク」

 と俺は言う。

 ポニーテール。

 小動物系の可愛らしい顔。

「この騒動はお前の仕業だったのか」

 ミクが言う。


 お前?

 

 そんな風に喋る子じゃなかったじゃん。

「俺じゃない。俺は関係ない」

「嘘付き」

「嘘なんて付いてない」

「私も殺したくせに」


 前世の悪行が胸を抉ぐる。

 やっぱりミクは前世の記憶を持っていたのか。

 泣き出したい気持ちになる。


「いつからミクは前世の記憶を?」

 彼女は俺を睨んだまま、

「ずっと」と答えた。

 ノーーーーーーーーーー。


「俺は昔の俺じゃない。この騒動だって俺じゃない」

「信じられない」

「止める。俺がコレを止める。だから信じてくれ」


 泣き出したい気持ちで校舎の窓から飛び出した。

 泣いちゃいけない、泣いちゃいけない。だって男の子だもん。


 ずっとミクは前世の記憶を所持したまま、生きていたんだ。

 俺のそばにいたのは警戒していたからなんだ。

 とにかく信じてもらおう。

 今の俺が、前世の俺じゃないってところを。


「人間は殺すな、犯すな」

 と俺は上空から叫ぶ。


 人間を襲っているゴブリンを見つけると止めた。

 そして説明した。

 ゴブリン達は犯したい、それだけで頭がいっぱいなのだ。

 だから俺はゴブリン達に説明した。

 説明したらわかってくれる奴等なんだ。

 そして他の奴等にも伝えろ、と色んなゴブリン達に伝えた。


 どういう事でしょう。俺に見つからないように、領土を超えて行くゴブリン達が大勢現れた。

 領土、というのは上空に浮かぶダンジョンゲート。

 どうやらあのゲートの範囲が、ゴブリン達の貰える領土らしい。

 途中、ゴブリンの長に会って、俺の考えを伝えた。すると俺をビビって領土の外で女を犯しているゴブリン達も大勢現れているらしい。


 俺は高校を守らなきゃいけないから、遠くまでは行けん。

 あんなに言ってるのに、今だに高校に入ろうとする奴等がいた。


 どうしたらいいんだよ?

 俺はゴブリン達の描写できないような犯罪行為を止めるのに時間を取られ、気づいた時にはすごい時間が経っていた。


 そして俺を1人の冒険者が殺しにやって来た。


 ソイツは鬼のお面を被って、白いモコモコの上着を来て、首には牙のネックレスをぶら下がっている。

 ソイツは土で作られた狼に乗っていた。

 ソイツは土で作られた槍を俺に飛ばしてきた。


 こんなに忙しい時に、お前は誰だよ?

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