第89話 待っていてくれ、俺のヒロイン ー神田英二視点6ー

黒い渦の中に入って行くゴブリン達。

「ご主人様は参加するのですか?」

 する訳ねぇーだろう。

「お前達の実力を見せろ」

 と俺は言う。

「かしこまりました」


 あんなに大量にいたゴブリン達がいなくなった。

 どうやら、この黒い渦は結界内の全てに広がっていくっぽい。

 結界。それは一つの市ぐらいの広さがあった。 

 12時間も耐えれば、ココと同じ広さの土地を地球から奪えるらしい。

 そんなに領土がほしいものか?

 

 この異世界は砂漠化が結構進んでいる。

 奪いつくした結果、枯れた地になっている。

 ココだって、結界の外に村があって、もう少し進めば砂漠なのだ。


 なんで大量のゴブリン達がいるのかはバカ長から教えてもらっていた。

 冒険者と交配したから増えた、というよりも、色んなゴブリン村が吸収合併して一つの村になったらしい。

 だから結界も市ぐらいの広さを保有している。

 生き残るために吸収合併していくって、なんか企業みたい。


 俺は黒い渦に飲み込まれないように羽ばたいて、結界の外に出る。

 女と子どもしかいなくなった村に帰った。

 別に女って言っても、あれっすよ。全然そんな気持ちにならないガタイの大きい緑色の女っすよ。

 シュ○ックの女バージョン。

 泥で歯も磨くし、体も洗う。


 家に帰ると俺はシュ○ックの女バージョン4体にお出迎えされる。

 俺の帰りを歓喜し、体をペタペタと触って来るけど完全に無視する。


 そしてフッと思ったのだ。

 俺がダンジョンに入って、どれぐらいの月日が経つだろうか?

 実は結構な月日が経っている。

 修行しとけ、と言っていたゴブリン達が『俺達これ以上はレベルも上がらんし、強くもなんねぇ』と思うぐらいの月日であった。

 その間も俺はウダウダと純文学みたいに思い悩んでいた。

 純文学をディスってる訳じゃない。好きな作品も結構あるし。

 悩みまくって、考えて、自分のスキルを使えるように俺も修行して、熟練度を上げていた。

 前世と同じぐらいには強くなっていた。

 むしろ前世よりも、ちょっと強いぐらい。

 

 たぶん半年以上が経っている。


 つまり俺は中学三年生でダンジョンに入ったけど、本来なら高校生に入学しているのだ。

 俺が高校生ってことは、ミクも高校生なのだ。

 同じ高校に行こうね、とミクと言っていた。

 ちょっと脱線するけど、この半年でミクって前世の記憶が戻っていたんじゃねぇ? と考えていた。 

 実は前世の記憶が戻ってないバージョンも考えている。

 つまり色んなパターンを考えているのだ。

 もしミクの前世の記憶が戻っていたら俺はアイツと2度と会えん。

 なんで、そう思ったのか?

 実はミクと手も繋いだことねぇー。

 プラトニックすぎる。

 何だったら付き合っているのに距離があったような気がする。

 気がする、というのは今思えばということである。

 光太郎といる時は楽しそうだったのに、俺といる時は別に楽しそうじゃなかった。

 だから2人でお出かけ、みたいな事はなかった。

 そういえばミクが俺を見ている目は、観察しているような感じだった。

 もしもミクの記憶が戻っていたら、俺から光太郎を守るために付き合っていたのではないか? 

 そう考えると全ての辻褄が合うような気がする。

 でも、それが真実なら、俺死ぬよ?

 めっちゃミクのこと好きだった。

 たしかに前世では殺しました。

 でも今世では好きすぎて手も握れんぐらいに好きだった。

 俺といる時のミクはつまらなそうだった。俺のことが好きだから緊張しているのかなデヘヘ、と思っていた。


 俺は彼女が本当に大好きだった。

 無邪気に笑う顔。←光太郎といる時に見せる。

 素直な性格。←光太郎といる時の彼女の性格。

 利発なのに、弱い部分もあって、守ってあげなくちゃいけなかった。

 そう言えば俺がミクのことを好きな部分は全て光太郎といる時だった。

 

 俺だけが1人で盛り上がっていたのかな? あの恋愛。

 そんな事を考えて、地球に戻る事ができなかった。

 ダンジョンに入って半年以上が経っていたら、彼女は高校生である。

 そしてミクが行く高校は俺が入ったダンジョンの近くにあった。


 ゴブリン達は性欲モンスターである。

 今もシュ○ックの女バージョンがよだれを垂らしながら、俺のことを触っている。

 もしかしたらゴブリンみたいな下級な魔物に彼女がヤられるかも、と思ったら心がざわついた。

 助けに行かねば。

 そして俺はメスゴブリンを退かして結界内に戻り、ゴブリン達を追って黒い渦に飛び込んだ。

 待っててくれ、俺のヒロイン。

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