第87話 魔王? 無理っす ー神田英二視点4ー

 アタシャね、異世界に帰ろうか? それとも地球に戻ろうか? と悩んでいた。

 自分のことをアタシャと一人称で呼ぶぐらいに俺はパニクっていた。

 もしも地球に戻ったら?

 俺は小林光太郎を殺すのか?

 殺したくない。

 殺したくないけど光太郎の記憶が戻ったら?

 もう俺達は友達じゃいられないだろう。

 俺はアイツの母親を殺し、大切な人を殺し、アイツ自身を殺しているのだ。

 なにやってんだよ昔の俺。


 それじゃあ異世界に帰るのか?

 異世界に帰っても楽しいことなんて無い。

 テレビもねぇ、ラジオもねぇ、車も一台も走ってねぇ、オラこんな村嫌だ。

 だからこそ、魔王になりたいと思ったのだ。

 最大の暇つぶし。

 そして魔王になったら好きなことができるんじゃねぇー?


 今でも魔王になりたいのか?

 わからん。


 それじゃあ質問を変えよう。

 魔王になったら、どういう魔王になりたいですか? 

 今までの魔王のやり方は間違っている。

 ありとあらゆるところから色んな物を奪って、君臨していた。

 そんなんじゃダメだ。

 だって俺が生きていた地球では、奪って君臨なんてしていなかった。

 地球のように魔物同士、魔族同士が支え合わなくちゃいけない。

 それを鬼ヶ島はしようとしていたのだ。

 異界から来た人間はしようとしていたのだ。


 異世界の人間族とも仲良くできるのか?

 

 俺が魔王になったら、全ての魔物、魔族、人間族が支え合うようにしたい。


 どういう政策をしたらいいのか?

 えっ、ちょっと待って、魔王になったら、めちゃくちゃ大変じゃねぇー?


 今までみたいに奪って奪って、全部俺のもんだグハハハハをやっていれば楽だろう。

 だけど、そんなんじゃダメってわかって、色んなことを変えたら、全てを変えなくちゃいけない。

 魔物達や魔族達のマインドを変えなくちゃいけない。


 俺は魔族のことをよく知っている。

 奴等は全て自分達のモノだと思っている。

 そんな奴等のマインドを変えれるのか?


 無理っす。

 魔王になりたくないっす。

 サッカー部のキャプテンでもしんどいのに、バカでエゴイストで自己中心の魔族のリーダーになんてなりたくないっす。

 でも俺以外の別の奴が魔王になって全部俺のモノだグハハをやったら異世界は良くならない。

 だから俺以外の奴が魔王になるのを考えるのも嫌だった。

 

 それじゃあ地球に帰るか?

 両親に会いたい。

 ミクに会いたい。


 そう思ったところで、「あっ」と声を漏らす。


 高田ミク。

 あの子ってまさか?

 いや、嘘だろう。

 嘘だって言ってくれよ。

 いや、嘘じゃない。

 完全に完璧に俺が殺した女の子である。

 ミクの顔と記憶の中の殺した鬼の女の子の顔が一致するのだ。


 帰れねぇー。


「ゴブリンの長をやっております」

 と1匹の魔物が喋りかけて来た。

「これからどうしましょう? ご主人様」

「今、考えてる」

「私の脳内に地球を侵略しますか? と声が聞こえています。我々の士気が地球を侵略するまで高まっている状態でございます」

「ダメに決まってるだろう」

 と俺は言った。

「私どもは地球を侵略するために魔族と契約しました」

 コイツ等の目的は地球の領土を奪うこと。

 奪うことでしか生きられないと思っている。

「お前等は弱い。地球には強い冒険者がいっぱいいるんだ。お前等のように弱いゴブリンなんて一瞬で殺される」

 と俺は言った。

「すみません」とゴブリンが頭を下げた。

「私達の命のことを考えてくださっていたのですね」

 潤んだ目でゴブリンがコチラを見た。

 見るんじゃねぇーよ。

「わかりました。これから私達は修行に入らさせていただきます」

 とりあえずコレで時間稼ぎはできたかな?

 それまでに俺はこれからどうすべきか考えをまとめなくちゃいけなかった。


「ところで」と俺は言った。

「お前、知性があるっぽいけど」

「ご主人様にステータスを上げてもらった時に知性も上がっております」

「そうか」

「もともと知性が低い魔物ゆえ、バカな奴等の方が多いですが」

 全員が知性が上がったわけじゃないらしい。

 だけど気を付けなくちゃいけない。

 使役している魔物でも知性が高ければ逆らってくることがある。

 地球を侵略したくない、というのは絶対に言わないでおこう。

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