第86話 ノリツッコミ ー神田英二視点3ー

 そして俺はダンジョンに入った。

 インスタントパーティー。

 だから誰と入ったのかは関係がない。

 大学生っぽいのが5人ぐらいいたと思う。


 初めてのダンジョン。

 お金が無くて防具はプロテクターとヘルメットだった。

 寒い季節で黒いジャンバーも来ていたと思う。

 スノボー初心者の格好と言えばイメージがしやすいかな?


 ダンジョンに一緒に入った奴は一瞬で捕まった。

 捕まったら、どこかに連れて行かれた。

 すげぇー強いゴブリン。

 俺ぐらいの身長だったと思う。

 それで俺が殺されたのか?

 殺されかけた。

 緑色のハルクの子どもみたいなゴブリンに集団でリンチされて、スキルの使い方もよくわからなくて、このまま死ぬのかな、って思った。


 死ぬ前に走馬灯って見るじゃん。

 アレが脳裏に過ぎった。

 あんな思い出もあったな。

 こんな思い出もあったな。

 俺が死んだらミクはどんな気持ちなんだろうか?


 そして、その走馬灯に知らない記憶が流れ込んで来た。

 俺が魔族であること。

 しかも魔王候補であること。

 それに魔王候補達を次々と殺したこと。

 ナオヤ・シューベルトを殺して、魔王になること。


 頭が混乱した。

 ゴブリンに殴られた痛みも無くなった。

 混乱した頭で、俺は考える。


 幸せな生活を送ってな、冒険者になってな、ゴブリンに殴られてますねや。このために転生して来たんや。そうそう、もっと内臓を抉るように殴ってくれなあきまへんでゴブリンはん。このためにワシは転生して来たんやから。

 そんな訳あるか、ドアホ。


 謎関西弁の謎ノリツッコミ、と共にボコボコに殴られている状態で立ち上がった。

 こんなバカな思考をしている時点で俺は光太郎に影響されている。


『魔族に覚醒しますか?』

 脳内で声が聞こえた。

 するに決まっている。


 俺はマヌケだった。

 何を今までして来たんだろうか?

 何を幸せな生活を送っているんだろうか?

 恋愛して、友情を育んで、青春を謳歌してた。


 俺はアイツを殺さないといけない。

 誰がナオヤ・シューベルトなのかは知っていた。

 殺さないといけないナオヤ・シューベルトの顔と光太郎の顔が一緒なのだ。


 俺はアイツを殺せるのか?


 不安が心を過ぎった。

 大切な友達だと心が認識している。

 でも俺はアイツを殺しに来たのだ。

 そのために転生したのだ。


 ゴブリン達は魔族バージョンになった俺を見て、驚いている。

 急に羽と2本の角が生えたら、そりゃあゴブリンだって驚くだろう。

 ゴブリンは俺から逃げて行く。


 俺は逃げ遅れた1匹のゴブリンの頭を掴んだ。


『使役しますか?』

 脳内に声が聞こえる。

 イエス。


 使役した魔物はステータスが向上する。

 ステータスが向上すれば見た目が変わる魔物もいる。

 ゴブリンは見た目が変わるタイプの魔物だったらしく、プロレスラーのボブサップぐらいの肉体になった。


「別のゴブリンを連れて来い」

 と俺は命令する。


 ゴブリンが、別のゴブリンを連れて来ると、ソイツの頭を掴む。

 そしてソイツも使役する。

 ボブサップ2号になる。

 ソイツにも別のゴブリンを連れて来てもらう。


 そんな風にしていると、すごいスピードでゴブリン達が俺の配下になった。

 つーか、このダンジョン、めっちゃゴブリン多くないか?


「なんでお前達は、そんなに繁殖してるんだ?」

 と俺は尋ねた。

「それは私どもが、冒険者と生殖しているからです」とゴブリンが頭を下げて言った。

 

 冒険者と生殖?

 すごくムカついた。

 殺してやろうか? と思った。


 いやいや、ちょっと待てよ。

 俺は魔族である。

 なのに人間が犯されてムカつくのは間違っているんじゃないのか?



「生きている人間がいるのか?」

「はい。ございます」とゴブリンが言う。

「生きている人間は解放しろ」

 俺は何を言っているんだ?

 人間なんて別にどうだっていいだろう。

「了解しました」とゴブリンが言う。

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