番外編 ずっとミチコは迷子だった
⑴ ミチコの涙
道端ミチコです。私立成城小学校に通う9歳です。ゴブリンバーストという痛ましい災害の時に小学校は消えました。
だから今はフリーの小学生という訳です。
フリーの小学生というのは一体どういうモノなんでしょうか?
小学校における私の立ち位置は委員長でした。
かりそめ委員長。
決して人より頭が悪い訳ではありません。
いつでも成績は1位でした。
勉強がわからない子がいたら教えてあげたいぐらいです。
そうです。教えている訳ではありません。教えてあげたいと思っているだけです。
なぜなら私には友達がいませんから。
冒険者ってそういうモノなのです。
あの子に近づいたらいけません、と言われるようなモノなんです。
ダンジョンが発生するようになって30年以上が経ちます。
冒険者は遺伝する事が多く、冒険者同士は生存本能から魅かれることが多いと近年ではわかってきました。
この冒険者同士が魅かれ合う、という特殊な能力から、冒険者は感染るモノと勘違いしている人が結構いてるんです。
だから冒険者差別があるんです。
私の場合は差別っていってもイジメではありません。
周りから人がいなくなるだけです。
しかも小学生で冒険者に覚醒する人間は珍しいから、得体のしれない存在として扱われます。
小学校では1人ぼっちでいました。
寂しいと思ったことはありません。
みんなの気持ちを察することができたからです。
冒険者に覚醒する前まで友達だった子達も私に近づいて来ません。
何度も言いますが、寂しいと思ったことはありません。
そんな私が委員長をやっているというのは可笑しいですが、次の学期になれば別の人がやると思います。
でも次の学期は来る事がありませんでした。
ゴブリンバーストで小学校が消えて無くなるからです。
私だけが学校を抜け出して生き延びました。
自分だけ良ければそれでいい、と私は思いません。
みんなも学校から出るように言ったんです。
お父さんは言っていました。
もしもダンジョンがバーストしたら逃げろ。
ダンジョンバーストで消滅した島がありました。
それも日本では報道されていません。
だから私達の知識にはありません。
なぜ報道されなかったのか?
それは私にもわかりません。
政治的なことなのかもしれないし、面白い不倫報道が重なってしまっていたから、そっちを報道するのが忙しくて、日本から遠い南の島の出来事は報道されなかったのかもしれません。
ダンジョンがバーストした時の知識を一部の人間を除いて日本人は持っていませんでした。
もしかしたら私立成城小学校の中で、その知識を持っているのは私だけだったのかもしれません。
ダンジョンバーストが起きると生徒達は帰り支度をして体育館に集められました。
私もランドセルを背負って、みんなと同じように体育館に向かいました。
これから緊急アラートが解除されるまでシェルターに避難することを校長先生が全校生徒に向かって言いました。
私の胸がバクバクしました。
そんな事をしたら、みんな死んでしまうと思ったからです。
お父さん曰く、ダンジョンバーストしたら、その近辺が消えるらしいからです。
消える、というのは消滅することなのか? それとも、どこかに転移することなのか? それはお父さんにもわかっていない事です。
私が何とかしなくちゃ、と思いました。
気づいた時には叫んでいました。
「ココから離れなくちゃダメです。シェルターに避難したらダメです。バースト近辺は消えてしまうんです」
私は委員長です。
委員長って列の一番前なんです。
急に叫んだ私を先生達が見ていました。
校長先生はしかめ面で見ていました。
急に叫んでしまったけど、情報を伝えることができたと思いました。
ジャージを着た三十代の怖い男の先生が私に近づいて来ます。
「何を言ってるんだ」
怒鳴られました。
「ちょっと来い」
腕を掴まれて体育館から出されて外に連れて行かれました。
「みんなを不安にさせるな。お前が嘘を言うことで他の生徒が迷惑するんだ」
と先生は怒りました。
「でも本当のことなんです」
先生が舌打ちしました。
そしてアイフォンを取り出し、ちょっと操作して、ある画面を私に見せつけました。
〇〇市のお住いの方はシェルターに避難してください、と書かれていました。
頭がグルングルンと動きます。
私の発言では生徒達を動かすことができないということがわかりました。
いくら本当の事を言っても先生に怒られるだけです。
そしてシェルターに避難してください、と緊急災害のホームページには書いてあります。
冒険者達を要請して魔物を全て殺すからダンジョンバーストが治る、と政府は考えているのかもしれません。
日本でも一度だけダンジョンバーストが起きたことがありました。
その時は全ての魔物を殺したら上空に浮遊していたダンジョンのゲートが消えたらしいです。
でも日本は冒険者の数が極端に少ない国でもあります。
それは日本が冒険者を育てなかった国だからです。
もしも今回、討伐できなかったら?
その可能性の方が私には高いような気がしたんです。
たまたま前回がうまくいったからって今回もうまく行くとは限りません。
家に残して来たお父さんのことが気になります。
お父さんは私のために仕事をしすぎて体を壊して、家にいます。
私は両親のおかげで冒険者になってからもダンジョンに入ったことがありません。
両親が私の代わりに罰金を払ってくれていたからです。
お父さんの事を考えると私は駆け出さずにはいられませんでした。
先生が私を捕まえようと追いかけて来ました。
でも先生は私を捕まえることができません。
なぜなら私は冒険者で特殊なスキルを持っているからです。
私のスキルは万有引力というものです。
ジャンプと同時に体重を0キロにしたら風船のように高くまで飛ぶことができます。
そして、ゆっくりと体重を増やして行き、体育館の屋根に乗りました。
「降りて来い」
と先生が叫んでいます。
先生には申し訳ないことをしましたが、私はシェルターに入る気がしませんでした。
別の屋根に飛び移り、私は家に向かいました。
ランドセルに携帯電話を入れていました。
子どもが持つタイプの携帯電話です。ネットで遊ぶことはできません。電話ができるだけのモノです。
お父さんから何件も着信が残っています。
私は民家の屋根の上でお父さんに電話をかけました。
呼び出し音が3回ほど鳴ってからお父さんが出ました。
「ミチコ」
と不安そうにお父さんが言いました。
「お父さん」と私も言います。
「ミチコ、今どこだ?」
「学校から逃げて来ました」
「よかった。〇〇市から逃げなさい」
「お父さんは?」
と私は尋ねます。
「こっちは、もうダメだ」
とお父さんは言いました。
私の家はダンジョンのゲートがある近くにありました。
「ゴブリンが大量にゲートから地上に降りて来ている」
空を見上げました。
さっきよりもゲートが大きくなっているような気がします。
ココからでは遠くてわかりませんが上空のゲートから何かが落ちて来ています。
「お父さんのところに行きます」
「ダメだ」
とお父さんは怒鳴りました。
なんでダメなんですか?
「こっちに来たらミチコが殺される」
「殺されてもいいです。お父さんのところに行きたいです」
「ミチコには生きていてほしい」
とお父さんは言いました。
「世界中の誰よりも愛してるよ。ミチコ」
涙がボロボロと溢れ出しました。
「私も愛してます。お父さん」
「逃げなさい」
電話がプツンと切れました。
涙が溢れすぎて息をすることが難しいです。
私は涙を腕で拭いました。
お父さんは世界中で誰よりも私のことを愛していました。
お母さんも世界中で誰よりも私のことを愛していました。
私は生きることを選択しました。
すぐにゴブリンがこっちにまで来ました。
たまたま鍵が付いていた車を見つけたので乗りました。
これがパーティーメンバーと出会う前の物語です。
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