第83話 VS魔王候補


 憎くて殺したい相手がいるのに頭の中は冷静だった。

 ココで戦闘を開始したらシェルターは破壊されるだろう。

 魔族バージョンになって浮上する。

 とりあえずココから離れよう。

 移動する。

 神田英二は付いて来ると思った。

 俺を殺しに来たのだと思ったから。

 なぜ俺を殺したいのか理由はわからない。

 前世でも殺された。

 空を飛びながら後ろを振り返った。

 バハムートに乗った神田英二が付いて来ていた。

 移動中は攻撃して来る気はないらしい。

 そういえば有名な漫画でも都心に出て来た敵と戦う時、空を飛んで移動していた。

 主人公は人や建物を破壊したくないから移動を要求した。

 敵は強い奴を戦いたいだけだから、それを了承した。

 漫画家さんは戦闘中に建物やモブを書かなくていいように、戦闘開始は何もない場所に移動しなくてはいけない、と聞いたことがある。

 後ろから敵が攻撃して来ないのは普通だと思っていた。

 実際、自分が主人公の立場で、敵を何もない場所に連れて行く時、攻撃されないか気にかかった。

 そういえば俺は英二にココから離れよう、的な事を言ったっけ? 

 言ってない。

 言ってないから、いつ攻撃されるか怯えてしまっている。

「ココから離れよう」

 と俺は空を飛びながら大声で叫んだ。

「言うの遅ぇーよ。もう移動してるじゃねぇーか」

 と神田英二が怒鳴っている。

 どうやら彼もわかっていたようだ。

 これで安心。

 ちょっと喋っただけだった。

 だけど仲良かったあの頃の事を思い出した。

 なんだよ。

 英二との記憶が蘇る。楽しく笑った日々。

 コイツのことは正直に言うとわからん。

 憎んでいるのに、ムカついているのに、言葉を交わしただけで、もうそこまで憎めなかった。

 空の上から荷物を持った4人の冒険者を発見した。

 どうやら4人は食料を見つけたらしい。

 彼等もコチラに気づいているらしく、目が合った。



 ココまで来たら大丈夫、というところまで来た。

 瓦礫の山だった。

「久しぶりだな」と英二が喋りかけて来た。

「あぁ」と俺が言う。

 コイツには聞きたいことがある。

「ミクはどうした?」

「魔王城で捕まえているよ」

「前世みたいに殺してないんだな」

「さすがにお前も記憶が戻ったのか」

 と英二が苦笑いした。

「俺はまぬけだった。せっかくお前を殺すために転生したのに、魔王候補の時の記憶を取り戻せずに人間として生きてしまった」

 俺様、と自分のことを呼んでいないらしい。

 たぶん前世では自分のことを俺様、と呼んでいたような気がする。

 記憶が戻って魔族になっても英二だった頃の影響を受けているのかも。

「そうみてぇーだな。ベ○ータ」

「孫○空みたいな喋り方をしてんじゃねぇーよ。それに俺は野菜の国の王子様じゃねぇーよ」

 神田英二じゃん。

 前世で憎んだ相手と、親友が同一人物として認識できない。

 いや、認識できるんだけど、俺はコイツを神田英二だと思っている。

「殺し合うんだな」と俺が言う。

「魔王候補同士だからな」と英二が言った。

「俺が勝ったらミクを返してもらう」

「俺が勝ったら日本ごと貰うぞ」

 と英二が言った。

「行け、バハムート」

 英二が乗っていたバハムートがギャーーーと雄叫びを上げた。

 俺は左手を差し出してリヴァイアサンを召喚する。

 蛇タイプの龍が現れる。

「君に決めた」と俺は叫んでいた。



 神田英二が黒い玉を放ってきた。

 一度、受けてスキルを手に入れるか?

 でも受けてしまったら負けそう。

 避けた。

 黒い玉が地面に落ちる。

 月にあるクレーターのように地球が凹んだ。

 危なっ。

 当たらなくて良かった。

 攻撃は避けて行こう。

 自動回復があるといっても体の欠損部分はエッチなことをしなくちゃ治らない。

 俺は赤玉を出す。

 英二が避ける。

 たぶんお互いココまで距離があったら放出系の攻撃は当たらない。

 近づいたのも同じタイミングだった。

 上空で俺達は向かい合う。

 英二のパンチの軌道が見える。俺にはカンフーの軌道というスキルがあった。

 パンチを受け止める。

 パンチ、パンチ、キック、キック。

 英二も俺の攻撃を受け止めるし、避けた。

 それでも初めの一発を当てたのは俺だった。

 彼が吹っ飛ぶ。

 俺は土と氷河で作った特製バッドを作り出す。

 英二が倒れたところに行く。

 そして特製バッドで攻撃。

 避けられる。

 打撃・強のスキルのおかげで強化された打撃。

 避けられて地面を叩いた。地面がボコッと凹んだ。

 大振りになったらスピードが互角だから避けられる。

「いいのかよ」と英二が言った。

「お前のリヴァイアサンやられているぞ」

 大精霊を見た。

 リヴァイアサンがバハムートに踏みつけられている。

 頬に強烈な痛み。

 俺は吹っ飛んだ。

 余所見しているうちに殴られてしまったのだ。

 英二が追いかけて来ているのが見えた。

 また黒い玉を撃ってきていた。

 すぐに立ち上がり、黒い玉を避ける。

 やっぱり放出系の攻撃は避けやすい。

 黒い玉が地面にぶつかりクレーターを作った。

「君に決めた」

 と俺は叫んでイフリートを召喚する。

 たぶんイフリートだけじゃあバハムートは倒せない。

 コイツは俺の一撃で負けた大精霊だもん。

 シヴァも呼び戻すか? それは可能か?


『可能です』

 と知識の声が聞こえた。



 シヴァ戻って来い。

 ミチコ達がいるシェルターを守っていたシヴァが消え、俺の体内にシヴァが戻って来た。

「君に決めた」

 シヴァを召喚する。

 綺麗なお姉さんが召喚される。

 温度が下がった。

「頼む、イフリートと一緒にバハムートを倒してくれ」

「了解しました」


 神田英二がニヤッと笑っていた。それは悪巧みをするような笑い方だった。

 俺は闘気を身にまとった。

 それを見て、彼も闘気を身にまとった。

 お互い、黒いオーラーが溢れ出す。

 俺は炎のスキルも身に纏う。

 体が熱くなる。髪も赤くなる。

 英二が驚愕していた。

 接近戦になる。だから防御力を高めたかった。

 炎を身にまとった上に、土のスキルも身にまとった。

 土のスキルを身にまとう時、イメージしないといけない。

 師匠が一度やっていたのを見たことがある。

 イメージするのは防具である。

 防具のように土が体を覆っていく。

 スピードは互角。

 だけど防御力も攻撃力も俺の方が上だった。

 明らかに俺が勝っていた。

 神田英二をボコボコに殴る。

 いつかの喧嘩のことを思い出していた。

 こうやって殴り合いの喧嘩を俺達は小学校の頃もしていた。

 だけど、あの頃は喧嘩しても仲直りができたのだ。

 今回は違う。仲直りをする気もない。

 負けた方が死ぬ。


 神田英二が瓦礫の下から這い出て来た。

 もう血まみれ。腕も折れているのかブラ〜ンと下がっていた。

 ごめん俺の方が強いわ。

 また俺は彼に攻撃するために近づいて行く。

 神田英二が笑った。

「ハハハハハ。お前、戦いに集中しすぎ」

「……」

「お前の大精霊どうなってるのか見てねぇーのかよ」

 大精霊を見た。

 俺が召喚した大精霊がバハムートに倒されて地面に伏していた。

 バハムートが羽ばたいた。

 強烈な風が来る。


『攻撃スキル、風が使えるように成長しました』

 

 という知識の声と共に、俺は吹き飛ばされる。

 俺が風のスキルで飛ばされている時、英二は大精霊のところに向かって行った。


 英二が呪文のような言葉を口にしていた。


 4体の大精霊が光の玉になった。

 その玉が英二の元に集まる。

 そして彼の体に入って行く。

 

 一瞬だけ光った。


 その光が消えた時、現れたのは4体の大精霊を吸収した化け物だった。


「4体の大精霊を身に宿した時、真の魔王の力を手に入れるのだ」

 と英二が言っている。


 バハムートの大きな羽。

 髪はマグマのように燃えている。

 リヴァイアサンのような尻尾が生えている。

 右手が凍っていた。


 英二が手を掲げた。

 一瞬で小惑星のような大きな黒玉を作り出された。

 それが俺に飛んで来る。

 大きすぎて避けようがなかった。


『攻撃スキル、万有引力が使えるように成長しました』


 英二ってミチコと同じスキルだったんだ、と初めて気付く。

 目の前は真っ黒で自分が生きているのかどうかもわからない。


『日本が転移します』と知識の声が聞こえた。

 俺は負けた。

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