第77話 神田英二の伏線
師匠は再生した右手を天にかざしていた。
天、と言っても完全防御カマクラの中だから暗闇である。
俺は彼女の手をスリスリした。
再生された師匠の手。
エッチなことをしすぎてステータスが向上しまくっている。
「光太郎」と師匠が俺を呼ぶ。
はい、と俺は返事をする。
「アイツはそこまで悪い奴なの?」
「アイツ?」
「あの魔族だよ。ゴブリンバーストの時に出てきた魔族」
「神田英二」
「私達が入ったSランクダンジョンにアイツが出てきたんだ」
と師匠は言った。
最強最強のパーティーは6人だった。彼女達が入ったダンジョンにはバハムートが出てきたらしい。最強の大精霊。
倒せるかどうかはわからない死闘。
そして最後に魔族が降臨して、バハムートを使役して襲って来たらしい。だからダンジョンから逃げて来た。その時は6人とも無事だったらしい。3人が死んだのは日本に戻って来てからだった。
「魔族には大精霊を使役する力があるんだって。そして4体の大精霊を集めたら最強魔王になるんだって。わざわざアイツは説明していたの」
知識の声さん。大精霊を使役できるのは俺のバク呑みのスキルだけじゃねぇーのかよ?
『強い魔族であれば大精霊を使役することが可能です。大精霊は強い魔族に従います』
俺のスキルって訳じゃなくて始めから魔族についている能力なのかよ。
『その通りです。ただしバク呑みのスキルによって、いつでも大精霊の召喚が可能です』
他の魔族は召喚できねぇーの?
『できません。使役するだけです』
それじゃあ4体の大精霊を使役したら、どうなるんだよ?
『大精霊の力を自分の体に宿すことができます』
合体ってこと?
『……』
無視か。
「伏線ですかね?」と俺は言った。
「伏線かもね」と師匠が笑う。
「光太郎にも伝えとけ、って言ってたよ」
「なんで?」
「……友達だからじゃない」
「なんすっかそれ?」
神田英二のことを考える。
ずっと親友だと思っていた。だけど違った。
前世のことを思い出す。
アイツが母親を殺し、好きな女の子を殺し、俺までも殺した。
友達って言われてもムカつく。
「俺、リヴァイアサンを倒して来ます」
「倒せるの?」
「たぶん」
「ねぇ、もう一回キスしようか?」
はい、と俺は言って師匠にキスをする。
彼女が俺を抱きしめる。
「死んじゃダメよ」と師匠が言う。
「はい」と俺は言う。
「リヴァイアサンは、アソコを寝ぐらにしているわ。たぶん同じ場所にいる」
はい、と俺は言う。
完全防御カマクラを解除する。
仄暗い世界。
「リヴァイアサンを倒したら俺は地元に帰ります。師匠はどうしますか?」
「私は仲間のところに戻るわ」
師匠の首筋にキスをした。
もう会えないかも、と思った。
彼女も思っているらしく、名残惜しそうに俺の耳をゴリゴリと噛んだ。
痛いけど我慢する。すぐに自動回復するし。
「いってきます」と俺は言った。
「いってらっしゃい」
羽ばたいた。
元気百億倍、小林光太郎。
いや、この魔族バージョンはナオヤ・シューベルトと呼ぶべきか? 名前なんてどっちでもいい。
俺は俺。
上空にいると地上が見える。
見渡す限り、建物が壊れてる。
魔物もウジョウジョいる。
ダンジョンバーストを止めるには魔物を全て殺さなくちゃいけない。
この大量の魔物を駆除なんて出来ない。
世界を守れそうにない。
正義のヒーローが世界を守れない、って思っちゃダメだろう。
えっ、俺って正義のヒーローなの?
ただの冒険者です。
ただの、じゃないかもしれない。
だって魔族の冒険者だもん。
俺にも作戦はあった。
大精霊は使役して、魔物を殺してもらう。
いい考えでしょ?
俺が一匹一匹魔物を殺していたら魔物駆除に3000年ぐらいかかっちゃう。
その間にも魔物達は子孫を残しているから、もっともっとかかるかも。
そんな時間をかけていたら向こうの世界に日本が移転しちゃう。
……日本が移転。
俺もわかっていた。
日本が異世界に移転するまで、どれぐらいの時間があるのだろうか?
ゴブリンバーストの時だって1日もかからなかったのだ。
日本が広くて移転に時間がかかっているとしても……広ければ移転に時間がかかるのかは知らねぇーけど、日本が異世界に移転するまでの期間はさほど長くないだろう。
つーか今すぐに移転しても、おかしくないのだ。
日本を守るのは無理ゲー。
それでも俺は自分ができることはやりたいと思っている。
すぐにリヴァイアサンが見えて来た。
蛇タイプの龍。
リヴァイアサンは体を巻き巻きうんこみたいに丸めて眠っている。
次回、リヴァイアサン戦。
強すぎるリヴァイアサン。もしかしたら負けるかも?
強いヤツを見るとオラ、ワクワクするぞ。
次回も絶対に見てくれよな。
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