第74話 お別れ

 人間バージョンに戻ると体が裂けそうに痛い。

 さすがに一気にレベルアップしすぎ。

 レベルと本来の筋力差が生じて体が悲鳴を上げていた。

 でも耐えれないものでもない。筋肉痛と同じである。

 完全防御カマクラを解除する。

 魔族バージョンを見られたせいで、少しだけ親子が俺に怯えの色を見せた。それは仕方のないことだろう。

 シヴァがいなくなったことで温度が急激に上がっていた。だけどシェルターの氷が一瞬で消えるわけがない。だからお嬢が氷を焼いて溶かしていく。

 シェルターの重たい扉を叩く。誰も出ない。

「チャイムあるわよ」とお嬢が、チャイムを押す。

 しばらくして30代のメガネをかけた男性が出た。

 彼は驚いていた。「早く、入りなさい」

 シェルターの中は、なんていうか、死臭っていうんだろうか? ちょっと血の匂いが充満している。

 避難所として作られているおかげでシェルター内は広い。体育館ぐらいの広さはある。

 それにLEDライトのおかげで明るい。

 明るいからこそ、負傷した人達の顔が見える。

 泣いている人達の顔も見える。

 苦しんでいる人達の顔も見える。

 たくさんの人達がシェルターの中にいた。

 誰も明るい顔なんてしてなかった。

「僕、ヒール使えます」

 と田中が30代のメガネの人に言う。

「そうか」とメガネの人が言った。「それじゃあ、こっちに来てくれ」

 田中が男の人と去って行く。

「小林さん」とミチコが言った。「小林さんには行くべきところがありますよね?」

 俺は〇〇小学校に行かなくちゃいけない。

 そこに母親と妹がいるはずなのだ。

「これから先、私達は小林さんの足手まといにしかなりません」

 小さな少女が言う。

「わざわざ金棒まで取りに行ったのに、私は役に立ちません。もっと強かったらお供するんですけど、ここでお別れです」

 お嬢が何も言わずに黙っていた。

「私達はココの人達をお守りします」

「死んだら許さないんだから」とお嬢が言った。

 ココでこいつ等とお別れなのか。

 30代の男性に連れられて行った田中を見た。

 彼は必死に重傷者にヒールをかけていた。

「それじゃあ、行くわ」

 と俺が言う。

「いってらっしゃい」とミチコが言う。

「バーカ」とお嬢が言う。

「いってきます」と俺は言った。

 もしかしたら2度と会えないかもしれない。

 2人にも、その予感めいたものがあって、別れを惜しむように、俺のことを見つめていた。



 シェルターを出ると俺は魔族バージョンになった。

 シヴァを召喚したい、と俺は思った。

 左手から出てくるような気がした。

『シヴァを召喚しますか?』

 知識の声が聞いてくる。

『あぁ』と俺は心の中で返事をする。

 左手からシヴァが出て来た。

 氷のドレスを着た綺麗なお姉さん。

 肌は白を通り越して青い。

 髪だって白を通り越して青い。

 近くで見ると幻想的だった。

 本当はエッチな命令をしたかった。……嘘です。これは嘘だから幻滅しないで。

『シェルターに人がいるんだ。守ってほしい』

 と俺は言った。

『かしこまりました』

 とシヴァが言った。

 大精霊のシヴァが守ってくれたら魔物がシェルターを破壊することはないだろう。



 俺は羽ばたいた。

 上空に浮上する。

 そして目的地に向かうために飛び出した。

 鳥が驚くスピードで俺は飛んで行く。飛行機が羨ましがるスピードで俺は飛んで行く。

 仲間と別れて少し寂しい。

 だけど、その寂しさも、すぐに消える。



 飛んでいると大きな龍と出会った。

 それはドラゴン系ではなく、昔話で出て来るような細長い蛇のような龍だった。

 龍は空を飛んで、3人の冒険者と戦っていた。

 俺が知っている人が冒険者の中にいた。

 最強最強。

 彼女が龍と戦っている。

 しかも、あんなに強いはずの彼女が龍にやられそうになっていた。

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