第71話 名探偵・道端ミチコ

俺達は地元に帰るために山を降りて行く。

 寒いからアイテムボックス(バク呑みのスキルで吸収していた)に入れていたコート類も出して俺達は着た。

 魔物と出会うかもしれないのでミチコには金棒を持って貰っていた。

「ところで、なんで新庄さんの腕が治っているんですか?」

 説明がムズイ。

 っというより、説明したくない。

 魔族バージョンになったら淫欲の本来のスキルを使うことができる。それはエッチなことをする相手の体力と魔力も回復させることができる。それを説明してしまうと俺達が何をやったのかミチコにバレてしまう。

「えっ」とお嬢がギコちなくミチコを見る。

「何言ってるの? 食べられてないわよ」

「なんでそんな嘘をつくんですか? ムシャムシャ食べられてましたよ」

「えっーと。そうね。本当は田中に治して貰ったの」

「本当ですか?」

「僕の凄さを理解できたか?」と田中が言う。

 コイツ嘘だろう。俺のスキルで治したのに、手柄を自分のモノにしようとしている。

 つーか、咄嗟に嘘が付けるタイプなんだ。すげぇーよコイツ。

「田中が欠損部分を再生できるだけ、ヒールの熟練度があるとは思えません」

「本当にぼくが治したんだって」

 すげぇーよコイツ。嘘を付いているのにムキになっている。

「なぁ?」と田中が俺を見る。「お嬢の手を治したのは僕だよな?」

「そうだな」と俺が言う。

「みんながそこまで言うなら信じるしかありませんね」

「まぁ、僕がお嬢の腕を治したっていうのは、嘘なんだけど」

「……」

 ミチコがお嬢を見る。

「私は田中に治されたのよ」

「僕が治したんだ」

「わかりました。そこまで言うなら信じましょう」

「僕がお嬢の腕を治したっていうのは、嘘なんだけど」

 ミチコがお嬢を見る。

「私は田中に」とお嬢が言ったところで、「もういい」と俺は言う。「何回やるんだよ。このノリ」

「どうして欠損部分を直すことができたんですか? ちゃんと教えてください。欠損部分を直すことができたら、すごい優良なスキルですよ」

「そんな優良じゃないと思うぞ」と俺が言う。

「お嬢は治せたけど、ミチコが体の一部を欠損したら時間がかかる」と俺が言った。

「小林さんのスキルだったんですね」

「……」

 俺は返事をしない。

「ちなみに私の体が欠損したら、どれぐらいかかるんですか?」

「今、ミチコはいくつだ?」

「9歳」

 9歳ってことは、高一ぐらいからエッチなことができるとして7年か? いや、ちょっと待てよ。7年後、俺は24歳だから高一は犯罪じゃねぇ? せめて18歳になってから。

「9年かかる」

「9年!」とミチコが驚く。「戦闘で使えるようなスキルじゃないですね」

「そうだ」と俺が言う。

「僕なら、どれぐらいかかる?」

 とデブが言う。

「お前は一生治せねぇーよ」

 田中とできるか。しかもオーガズムを感じさせないと欠損部分が治ねぇーんだぞ。

「それじゃあ、どうして新庄さんは、この短時間の間に治ったんですか?」

「別にいいでしょ」とお嬢が顔を真っ赤にして言った。

「なんで顔が真っ赤なんですか?」

「……寒いからよ」とお嬢が言う。

「名探偵、道端ミチコの登場です。一つ一つ疑問を整理しましょう」

 とミチコが言い出す。

 おい、整理するな。

「まずはお嬢の腕が治っていたという謎。その謎について2人は隠そうとしている」

 山道を歩くたびに雪と砂が混ざったザクザクという音がする。

「田中のヒールでないことは判明しています。田中ごとぎが欠損部分を再生できる訳がないので」

「それじゃあ名探偵ミチミチは誰が犯人だと?」と田中が言う。

「田中はちょっと黙っていてください」

 とミチコが言う。

 田中には辛辣だな。

「どうやら体の欠損を再生させるスキルは小林さんのスキルみたいです」

「私なら9年かかかる。田中なら再生できない。新庄さんは短期間で腕を再生させている。それはなぜか?」

「もういいでしょ?」とお嬢が言う。「ミチコ黙りなさい」

「小林さんのスキルで回復系と言えばエッチなことをしたら魔力を回復スキルでしたっけ?」

 俺とお嬢が固まる。

 もうミチコが確信に近づいて来ている。

「あっ」とお嬢が叫んだ。

「アソコに人がいますやん。子どもが倒れてますやん。行かなあきませんやん」とお嬢が言う。

 動揺しすぎて関西弁になってるぞ。

「ホンマや。アソコに人おるわ。子ども怪我してるやん。行かな」と俺が言う。

 俺も動揺しすぎて関西弁になってる。

「二人とも謎の関西弁になってますよ」とミチコが言う。

「何を言ってますのミチコはん。ウチ等ずっとこういう喋りかたやないの」とお嬢が言う。

「ワイ等は何も動揺なんてしてへんで」

「動揺してるんですね」

「ちょっと僕先に行ってくる」

 と田中が言って、斜面を降りて怪我をしている人の方に向かう。

 40代のお母さんとミチコぐらいの歳の男の子。

 2人とも怪我をしているらしい。

 田中は2人に駆け寄り、「ヒール」と2人の怪我を治していく。

「ワイ達も行こう」と俺は言った。



「ありがとうございます」とお母さんが田中に深々と頭を下げていた。

「良かったです」と田中が言う。

 田中が役に立ってるじゃん。ちょっと感動。使えないデブだと思っていた。

 2人は避難所まで行くまでに魔物から逃げて、ココまで来たらしいのだけど、怪我をして動けずにいたらしい。

 そこに俺達が通りかかった。

「俺達が避難所まで送ります」と俺は言った。

 お母さんが深々と頭を下げた。

 とりあえず避難所まで行く事になった。

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