第68話 物語が進まないように私は願う ー新庄かな視点②ー
最強最強も私は嫌いだった。
大っ嫌い。
光太郎はエッチなことをしたら魔力が回復する。
ずっと修行をしているってことは最強最強とエッチなことをしてるって事だよね?
私、一度だけ見たもん。
光太郎が師匠のおっぱいを揉んでいるところ。
それを見た時、心の中がモヤっとした。別に師匠じゃなくても私でいいじゃん。
言葉にできないけど悔しくて、「師匠のおっぱい触るぐらいなら私のおっぱい触れ」と光太郎に言えなくて我慢していた。
何を我慢していたのかサッパリわからん。
師匠のおっぱい触るな、って言う権限が私には無いような気がした。
私は光太郎のパーティーメンバーで、それ以上でも以下でもない。だから何も言えない。
それに私は光太郎のことを嫌いだし。
だけど我慢ができずに修行中に師匠に言ってしまった。
「光太郎におっぱい触らせるのを止めてください」
「お前に言う資格はないっしょ」と師匠に言われてボコボコに殴られた。
師匠は怖い。最強最強は強いくせに、手加減なんてものをしない。だから本当にボロ雑巾になるまで殴って来る。
殴られた後、痛くて泣いているのか、悔しくて泣いているのかわからなかった。
強くならないと光太郎が取られる、と思った。
別に光太郎は誰のモノでもないんだけど。
彼と師匠は2人の時に何をしていたんだろう? そんな事を考えるとモヤモヤした。
胸が苦しい。
別に好きとかじゃない。
正直に、あのババァをブチ殺してやりたかった。
ブチ殺すために私は修行を頑張った。
私なんかよりも光太郎は強くなっていた。
修行の最中に入ったダンジョン。
彼は自分がリーダーであることを認識するようになっていた。みんなを守ることを最優先させていた。そう言えば鬼ヶ島に入った時だって、自分だけ桃太郎と戦って、私達を逃がそうとしていた。
大っ嫌いだけど、カッコいいところはあった。
鬼ヶ島に行く前に学校でダンジョンバーストが起きた。あの時、オークが大量にダンジョンから落ちてきた。こんな表現でいいのかな? 異世界から召喚された、って表現した方がいいのかな? 別にどっちでもいいや。空に浮かぶ黒い渦からオーク達が大量に落ちて来た。
2人で学校の生徒を守った。
その時に私は覚醒したのだ。
闘気が使えるようになったのだ。
みんな、もっと褒めてくれたっていい。
色んなサイトで動画が出回っているらしいけど、誰も私のことを直接褒めてくれない。
覚醒したけど、最後に魔力不足になって私は倒れた。
見たこともない大きなオークが現れた。
絶体絶命のピンチ。
だけど彼が何とかしてくれる、と思った。
その時に私は彼にキスをした。
あんまり言うことじゃないけど、ちょっとだけ舌も入れてあげた。
彼の背中に腕を回して、できる限り彼と密着させてキスをした。
誰かが見ている、と思った。だけど別にどうでもいい、と思った。
これは好きだからキスしたって訳じゃなくて、魔力を回復させるためのキスなんだから。
彼の柔らかい唇。
舌同士が触れ合ってヌメッとした感触があった。
クソババァに奪われたくないと思った。
私のモノにしたいと思った。嘘嘘。こんなキモスキル持ちの男を好きになる訳ないじゃんバーカ。
彼は大きなオークに向かって行った。
光太郎なら倒してくれる、と思った。
そして私が思った通り彼は倒してくれたのだ。
そしてサキュバスの件。
鬼ヶ島で宿屋に泊まった。
寝ている時にサワサワするな、って思っていたら変なおじさんみたいに光太郎が私の体を触っていた。
そりゃあキモいでしょ。
本気で殺してやろうか、と思った。
顔面陥没パンチを何度も食らわせてやった。
自動回復があるから大丈夫とは思っていたけど。
彼が部屋から出て行った。
今になって思えば、サキュバスのところに行くぐらいだったら触らしてあげてもよかったのかもしれない。
別に触って欲しいってわけじゃない。
触らしてください、と100回ぐらい土下座してお願いするなら膝小僧ぐらい触らしてあげてもよかった。
寝込みに襲うなんて最悪だった。
次の日に路上で倒れている彼を見つけた。
彼がサキュバスのところに行ったと発覚した時、すごいショックだった。
なんか心の中に穴が開いたような気がした。
私がいるのに、と思った。
いや、私は光太郎に何もさせてあげないんだけど……。
でもキスとかしたよね?
光太郎は私のこと好きじゃないの?
なんで他の女のところに行くの?
すごく嫌だった。
なんか凹む。
プライドが傷ついた。私は自分のことをバカにされているような気もした。
すごく悔しくて、熱いものが目から零れ落ちた。
光太郎にとって私は何なの?
あのキスも、ただの魔力回復のためのモノだったの?
めっちゃムカつく。
殺したい。殺してやりたい。
たまたま出会った別の冒険者から、光太郎が桃太郎一行に混じっていたことを聞いた時、ちょっと笑えた。
アイツ、本当にバカだな。
サキュバスにスキルを騙し取られてやんの。
それを返してもらうためにお金を稼がないといけなくなって、桃太郎一行に混じっていたらしいのだ。
なんで、その詳細を、その冒険者が知っているのかというと、そのパーティーメンバーの1人が同じことをやったらしい。
男ってバカだ。
サキュバスはスキル取りますよ、という前情報も合ったのに。
しかも夢を見せられるだけで本当にやっていないらしい。
本当にバカだ。
バカすぎる。
だから土下座を1万回したら許してあげようかな、って気持ちにはなっていた。
なっていたのに、あの話はムカついた。
あの話、というのは鬼ヶ島城で光太郎が語った前世の記憶。
そうそう私はネームド鬼という人間っぽい鬼に捕らえられて、魔物の言語がわかるようになる薬を飲まされて城まで連れて来られた。
最初は話の意味がサッパリわからなかった。
光太郎が鬼ヶ島の主人である、とネームド鬼は言うのだ。
それを今の若い衆がよく思っていないらしい。弱い主人なんていらない、と彼等は考えている。魔物って強さで序列が決まるらしい。弱い奴の下になる、というのが死んでもイヤなのだ。
だから光太郎は殺されるかも。私達も被害に合うかも。だからネームド鬼は私達を保護してくれたらしいのだ。
急展開で話に付いていけなかった。
だけどミチコは頷いていた。
「そういうことですか。やっぱり小林さんは魔族だったんですね。『成長する者』が固有スキルと仮定した時に、もしかして魔族じゃないかと思ったんですよ」
と自慢気に言っていた。
でも私は光太郎の魔族になった姿を見るまで信じなかった。
光太郎の前世の話に幼馴染の女の子が登場した。
その時、私は自分がメインヒロインじゃないことを悟った。
物語に、全然登場しない女の子がメインヒロインだった。
その子は前世でも魔族に連れ去られて、現世でもオークバーストで異世界に連れ去られていた。
その子は光太郎のためなら何でもする、と言っていたらしい。
光太郎の物語は、その子を連れ戻す物語なのだ。
もしかしたら私は光太郎の物語に入り込む余地がないのかもしれない。
そう思った時に、この人のことを大嫌いにならなくちゃ、と思った。
もともと光太郎は私のことなんて何とも思っていない。
私も光太郎のこと好きじゃない。むしろ大っ嫌い。死んでほしい。ムカつく。キスまでしたのに。初めてのキスだったのに。
でも光太郎が私のことを好きと言ってくれたら、私だって彼のことを好きになっていた。
だけど彼は別の好きな人がいる。
もう物語が先に進みませんように、と私は願うしかないのだ。
光太郎が誰のものにもならないために。
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