第67話 光太郎のことが大嫌い ー新庄かな視点①ー

 新庄かな視点を誰が読みたいのかはわからないけど、私の視点で1話だけ書かせてもらう。もしかして2話になってしまうかも。

 その時は別に読み飛ばしてくれてもかまわない。だって別に読んでほしいなんて思わないもん。

 ミチコが私視点で語る回がほしい、と言ったから、私が語っているわけじゃない。私には死ぬ前に語りたいことがあった。

 死ぬ、って言葉に引っかかった?

 その前に語りたい事について。

 もちろん大嫌いな光太郎について語りたい。

 大大大大嫌いな光太郎。

 あんな奴、死ねばいいのに。

 あんな奴、いなくなればいいのに。



 死ぬ、と書いたのは別に嘘じゃない。

 私達はダンジョンゲートを抜けて現代の日本に帰ってきたはずだった。

 はずだった。

 だけど、そこは私達が知るような日本じゃなかった。

 空は黒かった。

 この黒いのはダンジョンバーストした時に、空にゲートがかかる。そのゲートが空一面にかかっていた。見渡す限り暗黒に染まった空。

 太陽の光はかすかに溢れていて、視界は薄暗闇だった。

 世界はどうなってしまうんだろう?

 そう思うよりも先に、私の目の前に大きな口が現れた。

 私達がココから出てくるのを待っていたように、大きな何かが私を丸呑みにしようとしている。

 動くよりも先に、思ったのだ。

 あぁ、私は死ぬんだ。

 このタイミングで死ぬんだ。



 だから死ぬ前に、私が光太郎のことをどう思っていたのか、ぶっちゃけます。

 大嫌い。

 まずは出会いから語った方がいいのかな?

 出会いはスライムダンジョンに入る前だったと思う。

 仮設ハウスでインスタントパーティーを結成した。

 そこに小林光太郎がいた。

 そういえば田中もいたような気がするけど、アイツのことはどうでもいい。

 田中が嫌い、とかいうレベルじゃなくて、どうでもいい。

 見た目はヒョロくて、お調子者のように口角が上がっていて、いかにもダンジョンで死にますよ、という顔をしていた。

 同じ高校だから知ってた。

 クラスのムードメーカー、というかお調子者。そんなポジションに彼はいた。

 初めの印象は最悪だった。こんな奴とダンジョンに入るなんて。

 だって私はダンジョンで生き残りたかったのだ。

 私の家は母子家庭だった。お母さんと2人きり。

 お父さんも冒険者で、私が小さい時に死んでいる。

 私を産んだことを母は後悔しているような気がした。

 お母さんは、まだ30代半ばで綺麗な人だった。

 私さえいなければ再婚もできたと思う。

 だけど私が二十歳になるまではしない、と言い張った。

 私がダンジョンに入って行くことを心配していた。毎日、毎日、神社に行って私が生き残るように願っていた。

 私はお母さんのことが嫌いだった。

 だってお父さんと結婚しなければ、私は冒険者の遺伝子を貰わずにダンジョンになんて入らずに済んだのに。

 私さえ産まなければ、お母さんは、もっと幸せな人生を送れたのに。

 私のことばかり心配してばっかりだった。

 だからお母さんのことが嫌いだった。

 お母さんはお母さんの幸せを追い求めるべきだ、と私は思っていた。

 だけど私がダンジョンで死んだら、お母さんは自分のことを責めるだろう。

「冒険者に産んでごめんね」とお母さんは謝った。

 冒険者になってしまったことは仕方がないことなのに。

 そんなことで謝るお母さんが大嫌いだった。

 お母さんのせいじゃないんだ、と私は言った。

 私はダンジョンで生き残りたかった。大嫌いなお母さんを1人ぼっちにしたくなかったし、私がダンジョンで死んだらお母さんは自分のことを責める、と思ったから。

 だから生きなくちゃいけなかった。

 強い仲間を探していた。

 中学三年生から冒険者をしている。

 たまたま優しいパーティーに拾ってもらって……中学生の女の子が1人では生きていけないだろうから、という理由でパーティーに加入していたことがあった。

 中学を卒業するまでには追放され、それからは強い仲間を探していた。

 私は上手く相手に気持ちを伝えられなくて、パーティーメンバーを怒らしてしまったのだ。パーティーにいたおかげでレベルもそれなりにあったし、ランクもDだった。

 だからインスタントパーティーでも死ななかった。

 インスタントパーティー。その場限りのパーティーということ。信頼できる仲間ではないし、仲間同士の連携も取れない。

 死ぬことはなかったけど、何度も危険な目にあった。

 だから強い仲間を探していたのだ。

 強くて、怒ったりしない仲間がほしかった。

 

 

 初めてスライムダンジョンに光太郎と入った時、コイツは死ぬだろうな、と経験で思っていた。

 だって戦い慣れていないもん。

 ちなみに田中も死ぬと思っていた。

 初見ダンジョンで、どんな魔物が出てくるのかはわからなかった。

 強い魔物が出てきたら、すぐに撤退するつもりだった。

 誰が死んでも私だけは生き残ろうと思っていた。



 まぁ、スライムダンジョン、って言ってしまっているから、出てきた魔物はスライムなんだけど。

 スライムって言ったら低レベルでは強い部類に入る。

 だって攻撃しても自動回復するし、スライムに吸収されたら体が溶ける。

 初見ダンジョンで出会ったら絶対に逃げないといけない魔物だった。



 でも逃げれなかった。

 私と光太郎はスライムに囲まれてしまった。

 そこで彼の力を見た。

 光太郎はスライムを吸収したのだ。

 こんなスキルを見たことがなかった。

 しかも彼はスライムに溶かされた手を自動回復させた。

 光太郎がスライムを全て退治した時、この人とパーティーを組もうと思った。

 この人とパーティーを組めば、このクソッたれダンジョンに入っても生き残れるはず、と思ったのだ。

 


 パーティー結成の前に、ある事件が起きる。

 ゴブリンバースト。

 私はお母さんを探すために〇〇市に向かった。

 彼は幼馴染の女の子を探すために〇〇市に向かった。

 この幼馴染の女の子。むちゃむちゃ嫌い。なにコイツ。物語に全然出てきてないくせに、メインヒロインになってる。意味がわからん。消えたらいいのに。

 ゴブリンバーストは私からお母さんを奪って行った。

 最後にお母さんと電話で喋ったことは今でも覚えている。

「かなが大丈夫ならお母さんは平気なのよ」

 とお母さんは言った。

 〇〇市に母はいて、もしかしたら消滅するかもしれないのに。

 お母さんは大丈夫、と言ったのだ。

「お母さんはかなのことを愛しているよ。ずっとずっと愛してるよ。幸せになってね、かな」

 お母さんが幸せじゃないと、私は幸せじゃないのに。

 そのことをお母さんは知らないのだ。

 知らないから私の幸せを母は願うのだ。

「お母さんはかながいてくれて世界一幸せだったよ。どうかお願い。生きてください」と母は言った。

 力が尽きて、私はゴブリン達と戦えなくなった。

 光太郎の固有スキルにエッチなことをしたら魔力が回復するというモノがある。

 光太郎は魔物を吸収すれば、その魔物の固有スキルを覚えることができるらしく、ゴブリンを吸収して、キモスキルを手に入れていた。

 私はお母さんに会いたかった。

 だから全てのゴブリンを倒してほしかった。

「お願い。光太郎。全部殺して」

 彼ならできる、と思った。

 光太郎に願いをたくして、私は彼にキスをした。

 私の初めてのキスだった。

 私は泣いていて、それがキスと同時に口に入って来て、すごく酸っぱいキスだった。彼の柔らかい唇が私の唇に重なる。彼の鼓動が、私に伝わる。

 私達は最強最強というAランク冒険者に助けられて、生き残ることができたけど、〇〇市は奪われた。お母さんは奪われた。

 母親を失った悲しみと初めてのキス。

 最強最強が作り出した狼の土人形に乗って、私は彼の背中を抱きしめて泣いていた。

 彼の背中に悲しみが溶け込むように、泣いていた。

 同い年でヒョロいくせに、大きな背中だった。

 やっぱり話が長くなってしまった。

 別に読まなくてもいいけど、次も私視点の物語である。どれだけ光太郎のことが嫌いかという話です。

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