5章 日本崩壊
第66話 日本に帰還
エンマ曰く、日本の全土をこの世界に転移させようとしているらしい。もしかしたら色んなところでダンジョンバーストが起きている状態なのかもしれない。鬼ヶ島にいるかぎり詳細はわからない。
ある事を俺は思い出していた。鬼ヶ島に入って来る時に見たお化け。あれは冒険者だった。女性冒険者が傷だらけで俺を呼んでいたのだ。〇〇小学校に来てほしい。
〇〇小学校というのは俺が卒業した小学校でもある。あの小学校はシェルターが完備されていた。だから近隣の住民の避難所にもなっている。そこに俺の現在の母親と妹がいるらしい。
色んな謎がある。
だけど、もし鬼ヶ島を出て日本が崩壊しているのなら俺達は〇〇小学校を目指すべきだと思った。
すぐには出発しなかった。もちろん日本は気になる。だけど不慣れな体なのだ。魔族になって力が強くなって体をうまく扱えなくなった。だから1日だけ修行の時間を貰った。
ちなみに魔族のまま日本に帰ったら、みんなをビビらせてしまう。嫌だな、っと思っていたら『人間バージョンに戻すことができます』と知識の声が教えてくれた。
人間バージョンに戻す。魔族バージョンになる。その繰り返しを鏡の前でやった。
世界びっくり仰天人間でも見るようにお嬢が俺の事を見ていた。
どうやらお嬢は俺のことを避けているみたいで、一定の距離から近づいて来ようとしない。
鬼ヶ島にも道場がある。そこをちょっと使わせてもらった。
もともと鬼達が訓練するような場所だったらしいのだけど、今は特に使われていないみたい。
道場というより体育館に近い。
ミチコも金棒の練習を兼ねて修行をするみたい。
なぜか田中も付いて来ていた。ミチコが怪我した時のため、とデブは言っている。
「小林さん。大きな岩を出してください」
とミチコが言った。
彼女は戦闘服の魔法少女の青色のような服を着て、手には禍々しい金棒を持っていた。見るからに魔力が宿っているのがわかる武器で、金棒から紫色のオーラが溢れ出している。
それを少女は綿菓子でも持つように軽々しく持っていた。
重量は200kgぐらいあるらしい。今の鬼は持てるモノが少なく、倉庫に眠っていたらしいのだ。
「ちょっと待って」
と俺が言う。
俺も戦闘服の学ランのような服を着ていた。破れたところはエンマに縫ってもらっていた。魔族バージョンになったら羽が生えるから、その部分だけ穴を開けて、ほつれないようにしてもらっている。
最強最強がやっていたように道場を土のスキルで強化していく。建物の内側に土のバリアーを張っていくような感じ。
魔族バージョンになったら魔力が枯渇することがない。
ちょっと大きめの倉庫ぐらいのサイズのダイヤモンドよりも硬い岩をミチコのために出してあげる。
ミチコが金棒で叩き始めた。
そういえばスキルの詳細ってわかるのようなったのかな?
『お答えできます』
聞きたいスキルがあった。
淫欲のスキルの詳細を教えて。
『性的なことをして興奮状態になると体力と魔力が回復し、一時的にステータスが向上します。魔族バージョンの時には相手の体力と魔力を回復させ、ステータスを一時的に向上させることもできます』
なんで魔族バージョンの時には力を与えることができるんだよ?
『淫欲の本来のスキルはお互いの体力と魔力を回復させ、ステータスを向上させることですが、人間バージョンでは全ての力を使い切ることができません』
そういえば炎のスキルでも人間のバージョンでは体にまとわすことができなかった。全ての力を人間では使えないのか。
一応、全ての持っているスキルの詳細を知識の声で聞いた。
バク呑みのスキルが凄かった。進化したスキルは優秀みたい。
『バク呑み。物質を吸収した時には保管ができ、生物を吸収した場合にはステータスを向上させます。肉体を持たない精霊を吸収した場合には召喚することができるようになります』
バク呑みしただけでステータスが向上するのかよ。
精霊には会ったことがないから召喚ができるって言われてもピンと来ないけど、ステータスが向上するって強すぎる。魔物を呑み込めばレベルアップするようなもんである。
それから俺は魔族バージョンになって色んなスキルを出してみた。
魔族バージョンになれば銃弾のスキルも使わずに赤玉も茶玉も水玉も発射させることができた。無駄な手間が省けた分、発射までのスピードが早い。
それに闘気を使ってスーパー小林になれば、さらに強さは倍増である。
「のちに彼は魔王として恐れられることをまだ誰も知らなかった。それはまた別の話である」
これはナレーションじゃないっすよ。暇を持て余した田中が俺の修行しているのを見ながら呟いただけっすよ。
「のちに彼女は爆乳委員長と呼ばれ、童貞が見たら気絶する服を着ることを誰も知らない。それはまた別の話である」とも呟いていた。
ずっと思っていたけど将来爆乳委員長って、どんなキャラなんだよ? 爆乳、と言った時点で委員長キャラが崩壊しているような気がするんだけど。
ミチコも金棒でダイヤモンドよりも硬い岩を割っていた。
次の日には俺達は日本に戻るためにダンジョンゲートに向かっていた。
鬼ヶ島から船に乗って浜辺に向かう。
船に乗っている最中に、海から乙姫が顔を出した。
彼女が手を振った。だから俺も手を振り直した。
「なによ。バカ」とお嬢が呟いた。
俺に言っているような、独り言のような口調だった。
すぐに乙姫が海の中に消えていく。
町に辿り着く。
行き交う鬼達が深々と俺達に頭を下げていた。
鬼ヶ島で俺が魔族化して桃太郎を倒した噂が広がっているのだろう。
ネームド鬼達は俺達のことをニッコリと笑って手を振ってくれた。
だから俺も手を振り返した。
町を出て、しばらく歩いていると桃太郎一行に出会った。
「お疲れ様です。主人様」
と桃太郎が頭を下げる。
猿、犬、雉も頭を深々と下げていた。
「そんな頭を下げなくても」
「あの時は失礼なことをして、すみませんでした」
「いいよ。気にしなくても」
と俺が言う。
「そうだ。桃太郎さん。俺にスキル攻撃をしてくれませんか?」
と俺が言う。
「そんな事、主人様にできません」
「真性のマゾなのよ」とお嬢がソッポを向いて言った。
なんでコイツはずっと不機嫌なんだよ?
「スキル攻撃してもらえたら俺はスキルを手にいれることができるんだよ」
「そうなんっすか? 真性のマゾなんですか?」
「マゾじゃねぇーよ」
「あれ? 言葉通じるの?」と俺が言う。
「魔物と言葉を通じる薬を飲んだって言いませんでしたっけ?」とミチコが言う。
そう言えばエンマとも普通に喋っていたよな。
桃太郎が鞘から日本刀を抜いた。
それは刀じゃなかった。木刀である。
「いきます」
ボコ。
『攻撃スキル、打撃・強が使えるように成長しました』
「もっと弱くしてください」
人間バージョンだったので、めちゃくちゃ痛い。
腕が曲がっている。でも自動回復で腕が元に戻って行く。
『それはできないと思われます』と知識の声が言った。『打撃・強は武器を使った打撃技を全て五倍の力にするスキルです』
「すみません」と桃太郎が土下座する。
「大丈夫です。もう戻りましたんで」と俺が言う。
しばらく歩いてからゲートに辿り着く。
黒くて禍々しい渦を俺達は通った。
そこは俺達の知らない日本があった。
数日前の平和な日本は、もう無かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます