第63話 魔族覚醒!
魔族に覚醒するかどうか? と脳内で尋ねられている。
鬼の足の裏が鼻の先まで迫っている。
死が近づいているらしく、スローモーションで動いていた。
するよ。するに決まってるじゃん。
魔族に覚醒しなかったら鬼にやられるじゃん。
『了承しました。魔族に覚醒します』
脳内に声が響く。
体の奥底からエネルギーが溢れ出す。
腕時計のように付けていた魔力ブレスレットがバリンと壊れた。
測れないぐらいに魔力量が上昇していることが自分でもわかった。
背中がムズムズする。
何かが背中から生えてきそう。
頭だって痛い。
『魔族に成長しました』
『魔族に成長したことによって、魔王候補に参加しました』
『魔族に成長したことによって『スキルの声』が『知識の声』に成長しました。スキルの詳細がわかるようになりました』
『魔族に成長したことによって全てのスキルの制限が解除されました』
『魔族に成長したことによって、闘気が使えるように成長しました』
俺は鬼の足を掴んで吹っ飛ばした。
力が漲っている。
桃太郎達が俺のことを見て震えていた。
俺は立ち上がった。
体から黒い煙みたいなモノが溢れ出している。
闘気が俺の体を覆っている。
スキルの制限が解除されたって言っていたけど、どういうことだろう?
『スキルを体に覆うことができるようになりました』
と脳内に声がする。
そうか。この声も成長して『知識の声』になったのだ。
返事をしてくれるようになったらしい。
さっそく炎のスキルを体にまとわせる。
足元から炎を出す感じ。
ボーボーと燃えていく。
闘気の黒い煙と炎が絡み合って行く。たぶん俺の髪も赤に染まっている。
桃太郎と猿と雉に向かった。
一歩、踏み出しただけで彼等の目の前まで飛んだ。
俺は前世のことを思い出していた。だけど、まだ回想シーンには行かないよ。もう少ししたら回想シーンに行くから、ちょっと待ってね。
急に目の前に現れた俺に桃太郎達が驚いている。
「お前を倒したら、俺が主人であることを認めてくれるんだっけ?」
桃太郎が何かを言おうとした。
だけど、その前に俺は桃太郎の頬を殴った。
ただ殴っただけ。
それなのに海岸の端まで飛んで行った。
雉の着ぐるみを着た鬼を見る。体を震わせて怯えている。
軽く蹴った。
やっぱり海岸の端まで飛んでいく。
あと猿も同じように飛ばした。
背中に違和感があった。
背中に手を伸ばすと羽が生えていた。
飛んでみる。
バサバサ、と黒い羽が動く。
頭にも違和感があった。
触ってみたらツノが生えていた。
本当に魔族に戻ってしまったらしい。
城の門の前。
俺は空から降り立つ。
赤鬼や青鬼が怯えながら俺を見ていた。
本当に俺のことを知らないらしい。
一部の魔物以外は、もう俺のことや前世の母親のことを覚えていないらしい。
俺を見ただけで力の差を理解しているのだろう。誰も襲って来ようとしなかった。
俺は体を覆っていた闘気と炎のスキルを解いた。
門を開けて中に入る。
住み慣れた城だった。
「エンマ」と俺は叫んだ。
エンマが慌てて俺の前にやって来る。前世で俺の執事をしてくれていた鬼である。両手には未来と過去を見ることができる鏡を持っていた。
昔と同じように少年のような顔をしている。だけど目尻にシワがあった。背は幼稚園の年長さんぐらい。
「ナオヤ・シューベルト様」
エンマが俺の前にやって来て膝を着く。
「帰りを待ちわびておりました。本当にお待ちしておりました。お帰りなさいませ」
「あぁ」と俺は言う。
「お強くなられましたね」とエンマが言う。
「俺の仲間は?」
「コチラにいます」
エンマに付いて行き、一番大きな部屋に向かった。
「お食事を用意しております」とエンマが言った。
扉を開けると丸いテーブルに食事が用意されていた。
大きな焼けた肉を俺は見た。
もう遅かった。
鬼は人間を食べることがある。
もしかしたら捕まった仲間が食べられているかも、と思っていた。
「田中」と俺は言った。
「お前、こんな姿になってしまって。丸焼けじゃねぇーか」
「僕、ココだけど?」
と後ろから声が聞こえた。だから振り返る。
田中、お嬢、ミチコが立っていた。
3人が驚いている。
「前世は魔族だったのです」とエンマが俺の代わりに説明してくれる。
「えっ、僕が魔族だったの?」と田中が言う。
「お前じゃねぇーよ」
「ってことは私が魔族?」とお嬢が言う。
「お前じゃねぇーよ」
「消去法です。私が魔族だったんですね」
「もういいよ」と俺は叫ぶ。
「どうやら本当に小林さんみたいですね。エンマさんから話は聞いていましたが驚きです」とミチコが言う。
「どういう事なのか、ちゃんと教えてよ」とお嬢が言った。
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