第62話 VS桃太郎一行と再戦

 死んだのか?

 死んでねぇーのか?

 ゴホンゴホン、と咳き込む。

 どうやら気絶して、波に流されて浅瀬まで来ていたらしい。

 足が着く。

 足が着くってどれだけ素晴らしいことか。生きている、って感じ。

 マジでヤバかった。

 サザン◯イズでも死なない主人公が宇宙に行って、死と再生を繰り返すシーンがあったけど、あれってマジで地獄。

 俺も海の底で死と再生を繰り返した。

 死と再生のデットヒート。どっちか勝つかのか競争が始める。

 明らかに死に近づいていたと思う。

 自動回復するスピードが明らかに遅かった。

 たぶんエッチなことしてステータス向上してなかったら、死んでたんじゃないかレベル。

 ギリセーフ。

 沖を見ると乙姫が手を振っていた。

 もしかして彼女が浅瀬まで連れて来たんだろうか?

 愛してるよ。乙姫ちゃん。でも声に出しては言わない。本当に愛しているという訳じゃないからだ。俺はゴミ人間です。よろしくお願いします。

 俺は乙姫に手を振る。

 彼女は海の中に潜って行った。

 バイバイ、夏の思い出。

 ごめんなさい。今、夏じゃねぇーし、現実世界は冬だし、ダンジョンの気温は春だし。全然、夏じゃないけど、ニュアンスが良かったから夏の思い出って書いちゃいました。

 浜辺に到着。

 黒い服から海のしょっぱい水が滴り落ちる。

 外は晴天ではなく、もう夕暮れ時で、オレンジ色だった。

 竜宮城に行った時って夜だったよな? もしかして夕暮れじゃくて朝日?

 時間が過ぎるのが早くて、夕暮れ?

 わからん。

 でも空はオレンジ色だった。

 ちゃんと鬼ヶ島に到着してるっぽい。

 だって階段があって、その上には禍々しい城がある。絶対に悪者が住んでいるっぽい城。基本的な色合いは赤。差し色に黒。門構えは鬼の口。これが鬼の住処じゃなかったら何なんですかね?

 俺の手には玉手箱があった。

 ちゃんと持っていた。あざーっす。

 早速、紐解いて行こう。

 中を開けたからって、お爺さんになったりしませんよね?

 だってスキルって言っていたもの。

 でも、なんか玉手箱開けるの怖ぇーーー。

『桃太郎さん、桃太郎さん、お越しに付けたキビダンゴ一つ私にくれないか?』

『やりましょうやりましょう。これから弱い主人様の征伐に、ついて行くなりやりましょう』

『行きましょう行きましょう。あなたについてどこまでも。家来になって行きましょう』

 

 うわー聞いたことある。

 俺、バイトしてたもん。

 知ってる。


 海辺を歩く、桃太郎一行と目が合った。

 バイト先の先輩に挨拶するように、「おはようございます」と元気に挨拶した。

 詳しく言うなら、「おーはっす」と言って頭を下げている。

「お前が弱い主人様だったんだな」

 と桃太郎が言った。

 先輩、そんな怖い顔しなさんな。

「俺等に弱い主人様なんていらねぇーから」

「いやいや、主人様なんて勘違いっすよ」と俺が言う。

「殺されたらココまでだと思え。俺達を倒したら主人様だと認めてやろう」

「認めんでいいから戦うのはやめましょうよ」

 俺、絶対に桃太郎一行に勝てないもん。

「犬、行け」

 ワンワン、と着ぐるみを着た犬が俺に向かって来る。

 やべぇー。なんだよ?

 バイト先だと思っていたら俺を殺しに来た。最悪じゃん。

 しかも犬。俺も犬をやってたんだけど。

 どうする? 逃げようにも海辺だぜ? 逃げるような場所はねぇー。

 犬。めっちゃ早い。

 ちなみに犬役だからって、4本足で走ってるわけじゃない。二本足で猛ダッシュでコッチに来ている。

 俺も逃げる。

 逃げるけど一瞬で追いつかれる。

 犬の着ぐるみを着た鬼の、ただのパンチ。

 でも本気に殴ってきやがった。

 ダンジョンに入った時に食らった攻撃とは違う。

 本気のパンチは俺の胸を貫通して、肺をエグッて、背中まで突き抜けた。

 ただの一発のパンチでコレですか?

 片方の肺が潰れて息ができん。

 口に血の味がする。

 痛すぎて痛みはない。

 だけど寒さを感じた。

 犬役の鬼が腕を引っこ抜く。

 そして俺の体に何発も拳を当ててきた。

 全て背中まで貫通。

 俺のお腹は蜂の巣状態。

 これで生きている方が奇跡だよ。

 再生が始まっているけど、追いついていない。

 砂浜に倒れた。

 生きてぇー。

 生きてぇーよ。

 お母さんのことや妹のことを考えた。

 ミクにも会いたい。

 アイツ等はどうしているだろう。アイツ等っていうのは田中とお嬢とミチコのことである。

 捕らえられているんだよな。

 俺が助けなくちゃいけないんだよな。

 涙がボロボロと溢れ出した。

 犬が俺の顔面を踏みつけようとした。

 これ踏まれたら完全に顔面が抉れて脳みそが溢れて死にますよね。

 俺は玉手箱の紐を解いた。

 やっぱり玉手箱から煙がもくもくと出て来る。


『攻撃スキル、銃弾が使用できるようになりました』

『攻撃スキル、炎が使用できるようになりました』

『攻撃スキル、土が使用できるようになりました』

『攻撃スキル、水が使用できるようになりました』

『攻撃スキル、植物を操るが使用できるようになりました』

『攻撃スキル、バク呑みが使用できるようになりました』

『攻撃スキル、カンフーの軌道が使用できるようになりました』



『玉手箱の効果、【過去を取り戻す】が発動しました。魔族に覚醒できます。魔族に覚醒しますか?』



えっ、なんて?

魔族に覚醒?

犬の足が目の前まで来ていた。

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