第58話 またサキュバスのところに行く俺は最低でクズ人間

 もう冒険者は来なかった。冒険者は1日1組みぐらいしか来ないらしい。

 せっかくのスキル獲得チャンスだったのに、もう派遣のアルバイトは終わる。

 意外と待ち時間が多いチョロバイトで、がっかりである。

 もっとドンパチしたかった。そうじゃないと俺スキル無し。

「お前エンマ様のところに行けよ」と待ち時間に桃太郎に言われた。

 俺達は草木に隠れたベンチに座ってのほほんとしていた。

 小さい鳥も近づいて来ている。

「エンマ様って誰ですか?」

「ココじゃあ一番強い人だよ。この町の代表だよ。ずっとお前のことを待っていたらしいからな」

「エンマ様。おっかねぇー鬼っすよ」と雉が言う。

「どこにいるんですか?」

「鬼ヶ島に決まってるだろう」と桃太郎。

「そもそも待ち人って何ですか?」

「知らん」と桃太郎。



 夕暮れまで桃太郎一行と一緒にいると、それなりに仲良くなって、ちょっと仕事帰りに飲みに行こう、って事になった。高校生だけど異世界だから別にいいのか? 冒険者ギルドで桃太郎一行とお酒を飲んだ。

 お酒の味は、よくわかんねぇーけど、シュワシュワしていてほろ苦かった。

 魔物達が俺を見て頭を下げていた。なんで魔物が俺を見たら頭を下げるのかは不明。

 桃太郎一行とお別れして、受付のお姉さんにお金を貰う。銀貨8枚。飲み食いした分を2枚取られる。おごりじゃねぇーのかよ。

 冒険者ギルドを出ると外は仄暗かった。もう道にロウソクが灯されている。

 たしか5枚でサキュバス買えるだったけ?

 行こうかな? いやいや、行っちゃダメでしょ。お金を貯めてスキルを買い直すんだ。どんだけ時間がかかるんだよ。

 銀貨を握りしめてフラフラとサキュバスのところに向かってしまう。

 別にサキュバスを買うつもりはないよ。ちょっと俺のスキルがどうなっているか見に行ってみようかな? って思ってるだけ。

 俺のスキルがどうなってるかな、ってどういうことですか? そんなの俺が見ることができる訳ねぇーじゃん。

 きっと俺、このお金でサキュバス買うな。

 絶対にダメ。買ったらダメ。今日1日の意味が無くなるじゃん。

 サキュバスのところに向かう道中、4人の冒険者パーティーと出会う。

 今朝も出会った奴等である。幽霊女もいる。

 4人が俺に気づき、取り囲んだ。

「アナタ、光太郎?」と幽霊女が言う。

 はい、と返事をすると頬を叩かれた。

 なんで?

「今日。ミチコちゃんと新庄さんと出会って一緒に行動していたの」

 2人はいない。

「アナタ最低ね」

 ……。

「リーダーなんでしょう?」

「他のパーティーに口を出すな。用件だけ言って、俺達は帰るぞ」と男の冒険者が言う。

「2人はネームド鬼に攫われた。鬼ヶ島にいるみたい」

 ……攫われた?

「私達はココにエーテルを買いに来ただけだから、もう帰る。自分のパーティーなんだから、もっと大切にしなさい」

 頭が真っ白である。

 助けに行かなくちゃ。

 でも俺スキルない。

 そもそも鬼ヶ島ってどうやって行くんだろうか?

 とりあえずスキルを取り返さなくちゃ。

 4人の冒険者が去って行く。町に残る気はないらしい。

 


 トボトボと目的も無く歩いた。

 目的も無く? あまりにもショックで目的を見失っていた。

 それでも足が勝手にサキュバスのところに向かって行ったらしい。

 サキュバス嬢を見た時、俺は思った。俺めっちゃクズだ。死ぬべきだ。

「あらお兄さんじゃない」とサキュバスが、ちょっと困惑したように言った。

「あっ」と俺が言う。「何度もごめんなさい。俺のスキルを返してください。お金は後で必ず返します」

「それがその……」

 エッチなお姉さんが困った。

「乙姫ちゃんに売っちゃった」

 えっ?

「お兄さんのスキルがほしいって乙姫ちゃんが言いに来たのよ」とサキュバスが言う。「お兄さん、いつお金が溜まるかわかんないじゃん。だから、その、売っちゃったのよ」

「……」

「仕方ないでしょう。金貨20枚で買うって言うんだもん。他のサキュバスもみんなお兄さんのスキル売ってたみたいだし。私だけ頑なに持っていても……」

「……」

「気を落とさないで。なんだったら一回サービスしとくから」

「……」

 本当にやべぇじゃん。

「竜宮城に来るように、って乙姫ちゃんが言ってたよ」

「竜宮城って?」

「海の底だよ。ほら町に海辺があったでしょ? アソコから潜って行けるから」

「……海の底ってどうやって行くんですか?」

「そんなの私に聞かれても知らないわよ」

 ノォーーーー。俺のスキル。俺のスキル返せよ。サキュバス嬢に言いたかった。だけど言うのは我慢した。

「ほらお兄さん落ち込まない。してあげるから、行こう」

「もういいです」

 どうせ行っても騙されるだけなんだ。

 もういいです、と言いながらもサキュバス嬢に手を握られて、俺はトボトボと地下の部屋に付いて行ってしまった。



 俺のバカ。

 なにやってんだよ俺は。

 ゴミだな、俺は。

 サキュバス穣と別れて、俺は海辺に向かった。

 海辺はロウソクの明かりもなく、禍々しいほどに暗かった。

 ザワー、ザワー、と押し寄せては引く波。

「スキルを返してください」と海底に向かって半泣きになりながら叫んだ。

 自分があまりにもバカすぎて、惨めすぎて、押しては返す波に俺は何度も叫ぶ。

 竜宮城は海の底。

 俺は黒くて禍々しい海に足を付ける。

 もしかしたらマーメイドが引っ張って連れて行ってくれるのではないか?

 海の中に入って行く。

 誰も来なかった。

 結構、深くまで入ったせいで、海の塩辛い水が口の中に入る。

 慌てて海辺に戻る。

 俺は死ぬこともできないのか。いや、死のうと思っていたわけじゃないんだけど。

 真っ暗な闇の中。

 俺は月夜に照らされ、ビショビショになりながら押しては引く波を見つめた。

 ガサガサ、と近くで音がした。

 暗くて気づかなかった。だけど近くに何かがいる。

 亀?

 大きな亀が近くにいた。

 竜宮城って浦島太郎だよな?

「お前が連れて行ってくれるのか?」

「お待ちしておりました。ナオヤ・シューベルト様」と亀が言う。

 亀喋るじゃん。

 亀に似ている魔物か?

「海で溺れていた俺を見てたか?」

「はい。見ておりました」

「海に入る前に言えよ」

「何をしているんだろう? と思いながら見てました」

「……絶対に他の奴には言うなよ」

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