第57話 VS冒険者

 掲示板に貼られていた依頼は禍々しいものばかりだった。

 冒険者の討伐。勇者一行の討伐。

 人間を殺すものばかりではない。

 他の領土から攻めて来た魔物の討伐まである。

 魔物同士でも領土が違えば敵なんだろう。人間も同じで領土が違えば敵なんだろう。つまり攻撃してくるモノは倒してくだせぇー、という依頼ばかり。

 無能状態になっている俺にとっては無理な依頼ばかりだった。

「これしかないか」と俺は一つの依頼を手に取った。

 ため息をつく。

 依頼書を受付のお姉さんに持って行く。

「桃太郎一行の犬役が休みなので、その代わりをするお仕事ですね」

「はい」

 と俺は返事をする。

「この依頼、もう時間がありません。今すぐ町の入り口に行けますか?」

 はい、と俺は言う。

 冒険者ギルドから出て行く時、他の魔物はずっと俺に後頭部を見せて黙っていた。コイツ等は何をしているんだろうか? アホなのだろうか?



 町の入り口。

 桃太郎一行が待っていた。

「遅せぇーぞ」と桃太郎に怒鳴られる。

 桃太郎と言っても、桃太郎に扮した鬼である。

 しかもネームド鬼と違って、バリバリの鬼の姿である。

「小林光太郎と言います。よろしくお願いします」

「なんだ人間か?」

 と桃太郎。

 どうやら昨日、俺を襲った事は覚えていないらしい。

「はい」

「コイツ、あれっすよ」と雉が言う。

 雉と言っても、雉の着ぐるみを着ているだけの鬼である。

「ネームド鬼達が言っていた待ち人っすよ」

 じーっと桃太郎が俺を見る。

 歯がギザギザで怖いよ。

 目だって、鬼のような目じゃないが。いや、鬼なんだけど。

「待ち人ってなんだ?」

「知らないっす。あんまりネームド鬼達は教えてくれないっす」と雉が言う。

「そんな事より、今日はコイツに特攻してもらいましょうぜ」と猿が言う。

 猿も着ぐるみを着た鬼である。

「それは別にいいんだけど、なんか気にくわねぇーな。殴っておこうか」と桃太郎が言う。

 なんで殴るの?

 つーか待ち人って何だよ。

「ネームド鬼達に怒られますよ」

 ガツン、と桃太郎に頭を殴られて地面に倒れる。

 俺に自動回復がなかったら、頭蓋骨が割れて死んでいた。

「死んだんじゃないっすか?」と雉。

 俺が起き上がる。

「おぉーー」と猿。

「気にくわねぇー」と桃太郎。

「あの」と俺は言う。

「なんで冒険者を襲うんですか?」

「それは人間が魔物を殺すからに決まってるじゃねぇーか。だから初回限定で人質を取って、町の連中の安全を確保してんだよ。ルールさえわかれば人間だって魔物を襲わねぇー」

「教えていただき、あざぁーす」と俺が言う。

 そう言えば1日で消えてしまったけど墨汁で1と頬に書かれていた。それが初めて町に来ました、ということを示しているんだろう。

「いいから早く、これ着ろ」

 と桃太郎に言われて、犬の着ぐるみを渡される。

 とにかく臭い。

 魔物の汗もあるんだろうけど、本当に獣をツギハギして作られた着ぐるみだった。

 おぇーー。

 俺は服の上から着ぐるみを着た。

 暑い。

 


 桃太郎一行になった俺達はゲートに向かった。

 猿が持っていた水晶から声が聞こえた。携帯電話の役割を持っている魔具なんだろう。

「冒険者が着ました。人数は4人です」と水晶から声が聞こえる。

「了解」と猿が言う。

「お前が行け」

 俺は駆け出した。

 冒険者4人?

 最高である。

 俺はこの依頼を受けた時に思いついていた。

 冒険者に攻撃されたら、スキルを手に入れる事ができるじゃん。

 この好機、逃すまい。

 4人はすぐに見つかった。

 そして俺は足を止めた。

 えっ、と声が漏れた。

 すげぇー驚いた。

 だって4人パーティーの1人に見覚えがあったのだ。

 鬼ヶ島に入る時に出会った幽霊がいたのだ。

 目の前に現れて、鬼ヶ島から出て来たら〇〇小学校に来て、と言って消えた女の人。短髪の髪は金髪。今は防具を来ていて4人とも冒険者っぽい服装をしていた。

「なにコイツ?」と幽霊が言った。

「俺のことを覚えてない?」

「知ってるの?」とパーティーメンバーの1人の男が言った。

「知らないよ。こんな奴」と幽霊が言う。

 ? ? ? ?

 俺は首を傾げる。

「コイツ桃太郎の着ぐるみ着てるぞ」とパーティーメンバーの1人が言った。

 あ、そうだ。スキル攻撃を受けて、スキルを覚えなくちゃいけないのだ。

「俺は桃太郎一行です。アナタ達と戦います」

「私達ここ4回目なんだけど」

 えっ?

 それじゃあ戦ったらダメなのか?

 いや、そんなの関係ない。

 今はスキル攻撃を受けたい。

「どりゃあーー」と言って俺は4人に拳を握って向かって行く。

 蹴りでしたわ。金髪の女に蹴りで飛ばされましたわ。遠くまで飛ばされちゃった。めっちゃ強い。

 わざわざスキル攻撃を受けるために、隙だらけにしていたけど、こんなに飛ばされるとは思ってなかった。

 その隙に桃太郎達がやって来る。

「おぅ。お前らか」と桃太郎。

「コイツ何なの? 襲ってきたんだけど」と幽霊が言う。

「臨時のアルバイト」と桃太郎。

「人間じゃん」

「お金がねぇーだろう」と桃太郎。

「サキュバスにでもやられたのかな」と男の冒険者が言った。

「お前みたいな奴がいるんだな」と冒険者達が笑ってる。楽しそうで何よりである。

 そしてなにより俺は惨めだった。

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