第56話 異世界の冒険者ギルド
とにかくサキュバス嬢にスキルを返してもらおう。
むしが良すぎないか?
だってサービスを受けて対価としてスキルを奪われて、返せってむしが良すぎる。
定食屋さんに行って、ごはんを食べてお金を払って店を出て、しばらくしてからお金を返してくれ、と言いに行くようなもんである。
でもスキルを返して貰えなかったら、俺はあのパーティーには戻れない。鬼ヶ島にも行けない。棍棒も貰えないし、田中も返してもらえない。俺はずっとココで彷徨うことになる。
むしがいいのはわかるけど、スキルを帰してもらわなくちゃ、俺は何もできないのだ。
サキュバス穣は昨日と同じテーブルに座っていた。
俺は近づいて行く。
見よ。これがジャパニーズ土下座。
俺は地面に額を当てる。
「すみません。スキルを返してください」
「あら。お兄さんじゃない」とサキュバスが言う。
「むしが良いのはわかっております。スキルを返してほしいです。何でもします」
「魔物に何でもする、って言っちゃダメよ」
とサキュバスが言う。
「その額に床を当てる行為は、なんなのかしら?」
「これはジャパニーズ土下座です。我々がいる世界では、これをすることによって相手に気持ちが伝わるのです」
「スキルは預かっているだけよ」
預かっている。
「代金と引き換えにスキルは返してあげる」
「いくらですか?」
俺、この世界のお金を持ってねぇー。
「一つのスキルにつき、金貨10枚」
「金貨10枚!」
たしか銀貨10枚で金貨1枚だから、銀貨で言えば100枚。
「そんなお金……」
「お兄さんの精気、美味しかったから8枚にまけといてあげる」
「……」
「大丈夫よ。お兄さんでも出来る仕事あるから」
とサキュバス嬢が言う。
「そこの冒険者ギルドに行って、お金を稼いでこればいいのよ」
「……」
「預かっているスキルを売買することは滅多にないから大丈夫よ。何日でも待ってあげる」
「……」
「お兄さんのことが好きだから特別に私たちのスキルの内容を教えてあげる。私たちのスキルって奪うことができるだけで使うことはできないの。使えるのはスキル所持者だった本人だけ。だから必ずお金さえもらえれば本人に返すのよ」
「金貨10枚で全部のスキルを返してくれるんですか?」
「私が持っているスキルは一つだけよ。後は別のサキュバスがお兄さんの精気と一緒にスキルを奪って行ったのよ」
そう言えば花びら大回転……。
「それじゃあ……」
「全部回収には70枚ね」
クスッと笑う。
「私は8枚でいいから、68枚ね」
「ちなみにですが、お金でエッチなこともできたんですか?」
「もちろんよ」
「お値段は?」
「私を買いたいの?」
「参考までに」
「銀貨5枚」
クソ。安いじゃねぇーか。
「私達も精気を貰わないと死んじゃうから安いのよ」
「なんで、そんなスキルが高いんですか?」
「だってスキルは絶対に返してもらわないと困るでしょ? だから高くするのよ。商売よ」
「……」
「お兄さん、超美味しかったわ」
何が美味しかったんだよ。
最悪である。
でも銀貨5枚か。
また来よう。
嘘である。
俺だって、そんなバカじゃない。
「金貨68枚ですね」
「頑張って」
クソ、金貨68枚って日本円でいくらだよ?
金貨1枚を1万円って換算するなら、68万ぐらい?
そんな大金すぐに稼げるわけないじゃん。
でも日本の冒険者の報奨金は高い。68万ならFランク2回も攻略すればおつりがくる。
大丈夫。こっちも高いはず。
異世界の冒険者ギルド。現代の日本の冒険者ギルドと全然違う。
酒場と冒険者ギルドが隣接している。中に入ると酒場のテーブルが10席ほどあって、魔物達が酒を飲み交わしていた。荒くれ者感がある魔物達。たぶんコイツ等も冒険者なんだろう。
受付に行く。受付にはネームド鬼のお姉さんが2人いた。
2人とも20代前半でグラビアアイドルと言っても過言じゃないぐらいに綺麗なお姉さん。
「どうしてアナタがここに?」と受付のお姉さんに言われる。
「仕事をください」
バハハハ、と後ろから声が聞こえる。
豚の顔をした魔物が俺のことを見て笑っていた。
「サキュバスにやられたか? 人間がココに来る時は、大抵サキュバスにやられているんだ。バカだコイツ」
ココでサキュバスの話をするんじゃねぇー。受付のお姉さんとのフラグが消えてしまうだろう、とか思う。受付のお姉さんとのフラグって何だよ。俺は女で痛い目みて、パーティーに戻るためにスキルを返してもらわなくちゃいけないんだろう。そのために仕事をしに来たんだ。
「人間様がココで仕事なんてバカじゃねぇーのか?」
次は牛の顔をした魔物が言う。
「俺達が冒険者狩りを教えてあげようか? ブヒブヒ」と豚の顔をした魔物が言う。
「人間はココから出て行け」と他の魔物が言う。
「そうだ。人間はココから出て行け」
俺、盛大に冒険者ギルドで罵声を浴びせられている。
帰ろうかな?
そりゃあ、そうだよな。
だって、いつも討伐している魔物のギルドだもんな。
でもお金がほしい。お金が必要なんだ。
「この町は全ての魔物、亜人、人間を受け入れる町です。黙ってください」
受付のお姉さんが言う。
それでも俺をバカにする笑い声は消えなかった。
「とりあえず、冒険者の登録をお願いします」
受付のお姉さんが水晶玉を差し出す。
現世の日本でもランク付けは水晶玉だった。あれってコッチの技術なのか?
水晶玉に手を当てる。
受付のお姉さんが唾を飲む。
「おかえりなさいませ。ナオヤ・シューベルト様」
えっ? 今全然違う名前を言われたんだけど?
ナオヤ・シューベルト? 誰だよ? その外人。
もう1人の受付のお姉さんが涙をボロボロと流している。
なんで泣いてんだよ?
「えーっと。間違いなんじゃ?」
お姉さんが首を横に振る。
シューベルト、と後ろの魔物達が囁きながらざわついていた。
「間違えじゃございません。ナオヤ・シューベルト様」
「俺、小林光太郎ですが」
「はい。存じております」
存じてんのかい。それじゃあ外人みたいな名前で呼ぶなよ。
「冒険者カードを再発行させていただきます」
カードを渡される。サイズは免許書ぐらいのカードである。
「カッコで書かれた部分が現在のナオヤ・シューベルト様の名前になっております」
名前 ナオヤ・シューベルト(小林光太郎)
固有スキル 成長する者/自動回復/淫欲/木登り/大ジャンプ
スキル ???
レベル 74
種族 魔族(人間)
なんだよ。これ?
魔族。(人間)
いや。俺、人間だし。
ナオヤ・シューベルトって誰だよ。
再発行って?
でも、やっぱり、と思った。
この町に入って来た時、俺は懐かしさを覚えた。
俺は以前にココに来たことがある。
後ろを振り返る。
笑っていた魔物達が俺に膝をついて、頭を下げていた。
何してんだよコイツ等?
俺は依頼が貼られた掲示板に向かった。
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