第55話 精根尽き果てて
バカなことをした俺は精根尽き果てて路上で倒れていた。
夜の闇は消え、朝が来ようとしている。
地面の冷たさが気持ち良い。
全て出し尽くした。もう灰の状態である。
エッチなことをしたのに魔力が湧いてくる感じはなかった。
サキュバスでは淫欲の固有スキルは発動しないのか?
そういえばスキルが使用できなくなりました、みたいなことを脳内で聞こえたような。
ためしに銃弾を指先に込めてみた。
参っちまったぜ。全然、銃弾が指先に込められない。
地面の隙間から雑草が生えていた。植物を操るスキルで雑草を成長させようとした。
参っちまったぜ。一ミリも雑草が成長しねぇー。
こりゃあえらいことになってしまった。
これから、どうしたらいいんだろうか?
もちろん炎も土も水も出せなかった。
とりあえず炎のスキルだけでも覚え直さなくちゃ、と思った。
俺の攻撃スキルは全部で7つあった。
【銃弾】【炎】【土】【水】【植物を操る】【バク呑み】【カンフーの軌道】
攻撃スキルは全て使えなかった。
バク呑みで吸収したモノも取り出せなくなっている。
やべぇーじゃん。
鬼ヶ島編、もうオワタ。
固有スキルは奪われていないか?
固有スキルというのは、魔物が生まれた時から持っている特有の性質である。俺は魔物を吸収する事によって、固有スキルというモノを持っていた。
親指を噛んで傷を作った。
傷が治っていく。
どうやら自動回復はあるらしい。
俺が持っている固有スキルは【自動回復】【淫欲】【木登り】【大ジャンプ】である。
ちょっと邪魔くさいけど立ち上がってジャンプした。10メートルぐらい軽く飛ぶ。
うん。大ジャンプは大丈夫。近くにあった木を登ってみる。猿のように簡単に登れた。
ちょっとした動きで疲れてしまった。
休憩。
どうやら固有スキルは奪われていないらしい。
サキュバスが奪えるのは攻撃スキルだけみたい。
なぜかサキュバスには淫欲が効かなかっただけ? かもしれない。
地面で寝ていると誰かに蹴られた。
顔を上げると、そこにはお嬢とミチコがいた。
「なにしてんのよ。こんなところで」
「寝てるんだよ」と俺は言う。
「こんなところで寝なくてもいいじゃない」
「お前が追い出したんだろう」
「何があったんですか?」
「襲って来たのよ」
「最低ですね」
「行くわよ」
「ちょっと待ってください。新庄さん」とミチコが言う。
「何よ」とお嬢が言った。
「外にいたって事はサキュバスの攻撃を受けている可能性があります」
お嬢が固まった。
どういう心情なんだろうか?
俺も固まった。
やべぇー。昨日あんなことやこんな事をしたことがバレてしまうんじゃねぇー?
「小林さん。スキルを出してください」
「こんな町なかじゃあ無理」
「出せないって事ですか?」
「出せるよ」と俺が言う。
「それじゃあ10秒以内に土団子を作りなさいよ」
とお嬢が言う。
10、9、8、7、6、5、4、3……。
どうしたらいいんだ? この状況。
2、1.
「何で出さないのよ」
震えた声でお嬢が言う。
「……そういう気分じゃないんだ」と俺が言った。
「これはヤバい状況になりましたね。もしかして他のスキルも使えないんですか?」
「なんで俺が土を出せない前提なんだよ」
「そこにある雑草をいつもみたいに成長させてください。10秒以内に」とミチコが言う。
10、9、8……。
「出せないじゃない」とお嬢が泣き出す。
なんでお嬢が泣いてんだ?
「本当に何してるのバカ」
お嬢にお腹を蹴られる。
「新庄さん。やめてください」
「だってコイツ、他の女と」
と新庄かなは言って涙を腕で拭った。
えっ、なんで泣くの?
俺が他の人と何かをしていたらお嬢は傷つくの?
もしかしてお嬢って……。
「小林さんも早く謝ってください」
俺は立ち上がって逃げていた。
2人は俺を追いかけて来なかった。
町を全力で走る。
どうしたらいいんだよ?
スキルも無くなった。
仲間も傷つけた。
お嬢に合わせる顔がないと思った。
そういえばお嬢の初めてのチューの相手って俺だった。
いつも魔力切れ、と言ってエッチなことをしてもらっていた。
嫌いな奴にできないよな。
俺は気づかなかった。
もしお嬢が俺のことを好きで、他の人とエッチなことをしてほしくないと思っても、俺はする。
師匠とも関係を持っている。
全てスキルのせいにして、俺は女性を求めた。
最低である。
バカと罵ってほしい。
それに俺は好きな女の子もいる。
ミク。
根拠はないけど彼女は異世界のどこかで生きている、と俺は思っている。
好きな女の子がいる。それでも俺は他の女の子を求める。
魔力切れで生死に関係するから。
だけど、それだけじゃない。
女性を求めずにはいられない体になっている。
こんな奴をお嬢はわざわざ好きにならなくてもいいのに……。
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