第52話 思い出を売る

「なんでゲームの攻略本がこんなにあるんですか?」

「お金が無かったから、ゲームを買ってもらえなかったんだ。だから中古の本屋で攻略本を買って、やった気になってたんだ」

「意外と悲しい理由でした」

「この漫画、巻数抜けてるわよ」とお嬢が言う。

 それは有名少年漫画だった。

「お金がないから全巻、集めることはできなかったんだ。中古で買える分は買って、抜けている巻数は文脈で読み取って読んでいたんだ」

「意外と悲しい理由でした」とミチコが言う。

「このフィギア足が無いじゃないの」

 それは某有名漫画のフィギアだった。

「友達が壊れたから捨てる、っていうから貰ったんだ。唯一、俺が持っているフィギア」

「なんか悲しくなってきますね」

「スーパーファミコンあるじゃない」

「子どもがゲームしたい、って言うからお母さんが知り合いから貰って来たんだよ。今時スーファミなんてしないのに」

 その他にも数日ダンジョンに入るかも、と思っていたから缶詰やらカップラーメンやガスコンロやテッシュやets、使えそうな物を持って来ていた。

「それじゃあ鬼ヶ島編巻いて行きましょう」とミチコが言う。

 おー、と俺達は返事をする。



 すげぇー巻かせていただきます。巻いちゃうよ。オイドンは巻くのが大好きなんだ。収録時間もギリギリだし……収録時間ってなんだよ? 読者の人が飽きないように巻けるところは巻いてスピード感を出していくよ。たぶん、こういうのってわざわざ書くべきことじゃないと思うんだけど、そういうのも書いていくよ。気づいたらボスを倒して終わってるよ。ごめんなさい、それは嘘。

「売れた。売れた。まさか、こんなに異世界の物が売れるなんて思わなかったな」と俺が言う。

「まだ何も売れてませんが」とミチコが言う。

「売れたってことにして物語を先に進めようぜ」

「そんな横着なことできませんよ。早く売ってください」

「ミチコが鬼ヶ島編を巻けって言ったんだろう」

「早く終わらして家に帰りましょう、って意味です」

「売れたってことにしようぜ?」

「売れたってことにしてもお金は手に入らないじゃないですか? バカなのですか?」

「そういうことじゃなくて、……わかるだろう? 物語を端折っているだけ、っというか、文章にすることでもないから時間を飛ばしているだけ、っていうか、そういう事ができるでしょうが」

「小林さんの言っている意味がわかりません。小林さんしか言葉が通じないんですよ。早く大声を出して、異世界の物を売ってください。声を張っていらっしゃい、いらっしゃい、って言ってください」

「いらっしゃい、いらっしゃい」と俺は大声を出した。

 恥ずかしい。恥ずかしいでやんす。

「異世界の物を売ってるよ。お値段は安いよ」

 そして1時間後。

「売れた、売れた。こんなに売れるなんて思ってなかったな」

「何一つ売れてませんよ。そして1時間も経ってませんよ。5秒ぐらいしか経ってません」

「やめろ。もういいだろう。売れたってことにして話を進めるんだよ」

「何をゴチャゴチャ言ってるのよ? 早く売りなさいよ」とお嬢が言う。

「お前達もなにかしろよ」

「私達はゴミを並べて値付けしています。小林さん、早くお客さんを呼んでください」

「ゴミって言うなよ。俺の思い出達だよ」

「ゴミみたいな思い出ですね」

「うるせぇー」

「早く、売ってよ」とお嬢が言う。

 新庄かなはイライラしているらしく貧乏揺すりしていた。

「わかったよ」と俺が言う。

「いらっしゃい。いらっしゃい。お値段安くしておくよ。お土産に異世界の商品はどうですか?」

 本当に1時間後。

 すみません。巻いちゃうよ、なんて言っちゃって。ちょっと巻くのをミチコのせいでミスりましたが、今回は本当に巻いちゃいます。気づいたら異世界の商品が売れちゃって、売れちゃって、困るぐらい売れちゃいましてね。

「本当に売れたな。異世界の物って、こっちでは人気なんだな」

「だから売れてませんよ。そして1時間も経ってませんよ。5秒ぐらいしか経ってませんよ」

「殺しますよ」と俺はフ◯ーザのものまねをして言う。

 このシーンを俺は巻きたい。早くエロシーンや戦闘シーンに行きたいのだ。

「あの」と誰かに声をかけられる。

 見ると人肌をした鬼だった。角が2本生えているだけで、人間と変わりなかった。

 20代前半の男の人。そういえば年老いた鬼を見かけない。もしかして見た目と年齢が違うのかもしれない。

 たしか直子という日本人に名前を付けられたネームド。

 カラフルな着物を無理矢理、洋服にしているような服をしている。ごめんなさい。描写が下手くそで。この町特有の服装なんだろう。カラフルな甚平、と言えばいいのかもしれない。甚平が思いつかなくて着物を無理矢理、洋服にしたような服と描写してしまった。甚平がカラフルだったら日本っぽさみたいのが無い。海外の南国系の服って感じ。

「これって売っているんですか?」

「もちろん、売ってますよ」

「これ買っていいですか?」

「スーファミ? テレビゲームっすよ?」

「部屋に飾っていてもオシャレかな、っと思いまして」

「お目が高い。現代の日本で置き物として流行っているものなんですよ」

 俺はミチコを見る。

「これはいくらなんだね? ミチコさん」

「銀貨5枚です」

 鬼のお兄さんが銀貨5枚を差し出した。

 俺が受け取る。

「頑張ってください。応援してます」と鬼のお兄さんに握手を求められた。

 この町では日本人の冒険者は受け入れやすいんだろうか?

 それから人間バージョンの鬼さんばっかり集まって来て、商品が爆売れしまくった。

「巻いていいよな?」と俺はミチコに尋ねた。

「似たような会話の連続なので、巻いてOKです」

 ってことです。

 巻いちゃうよ。俺達の商品は爆売れした。気づいたら売っていた商品はなかった。

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