第51話 お金がねぇー

 野宿するのも危ねぇーてんで、宿を探しに行くことになった。

「それじゃあアンタはなにか? 宿を探して金額を確認してから、金儲けを考えろって言ってるのか?」

「なんで小林さんは急に江戸っ子になったんですか?」

「野宿は嫌よ」

「たしかに危険すぎるとは思うけど、お金って言うもんがねぇー。知ってるかい? ココじゃあ日本円なんて使えねぇーんだ」

「やめてください。その口調」

「わかるわよ。でもアタチ達は強くない。野宿すれば死んじゃう可能性もある」とお嬢。

「一人称がアタチになってます」

「困ったもんだねぇ。本当に困ったもんだよ。アタチ達には鬼ヶ島は早かったんじゃないのかい」と俺は言う。

「小林さんも一人称もアタチになってます」

 本当に困った。

 とりあえず宿屋らしき看板があったので、そこに入ってみる。

 受付の人? は人間っぽいけど角が2本ある。

 人間バージョンの鬼である。

 人間バージョンの鬼ってなんだよ? 人肌の鬼である。20代前半に見える男の人で、服装も人間っぽい。ベストと蝶ネクタイ。

 背中をお嬢とミチコに押される。

「わかってるよ。喋りかけるから押すなよ」

 人間バージョンの鬼さんが俺のことを見て目を丸くしている。

 ほら、怪しんでるじゃん。やめろよ。

 そして人間バージョンの鬼さんが微笑んだ。なぜか、その微笑みは泣きそうで、いかに俺達が迷惑なのかがわかる。

「すみません。お伺いしたいのですが」と俺は言う。

「なんでしょうか?」

 優しい口調。

 その口調を聞いただけで、襲ってこないということがわかる。

 この町では襲うのは禁止されているから、襲って来ないことは知っているんだけど。

「宿を借りるのはいくらくらいかかりますか?」

「一部屋、銀8枚です」

「銀8枚だって」

 ミチコがメモに書き出す。

「どうやったらお金を稼げるのかも聞きなさいよ」とお嬢が言う。

「そんなこと聞けるか」

「なにかお困りでしょうか?」と人間バージョンの鬼さんが尋ねてくる。

「お金を持っていなくて……」

「それでしたら」と受付の鬼さんが何かを言おうとした。

 それでしたら、の続きは「帰れ」に決まってるじゃん。

 俺は言葉を遮るように「どうやったら、お金を稼ぐことができますか?」と質問をする。

「えっ?」と鬼さんが困惑する。

「……異界の物は人気なので、露天で売れば、すぐにお金はできると思いますよ」

「ありがとうございます。こんなに親切にしていただけるなんて……ハハハハハ」と俺は頭をかきながら笑う。

「いえいえ。なんでも聞いてくださって結構ですよ」

 なんていい人なんだろうか。

 人。

 この人は、人だよ。

 むしろ俺達はなんで魔物を退治していたんだろうか?

 魔物の中でも、こんないい人がいるんだ。

「あの気になっていたんですけど、どうして人間に近い鬼がいるんでしょうか?」

 と俺は疑問に思っていたことを質問をした。

「昔、ココを統治してくださった直子様に名前をつけられたネームドが、直子様に近い姿になっているんですよ。鬼っぽい子達は最近生まれて来た子達なんです」

 と受付のお兄さんが言う。

「……直子」

 ずっと引っかかる。

 お兄さんが急に俺の手を握った。

 わぁ、びっくりした。なになに?

「急にBL」とお嬢が言う。

 俺だって急に手を握られてビックリしている。

 お兄さんは何かを言いたげで、でも言うのを躊躇って、「頑張ってください」と言った。

 いや、普通に言えよ。

「はい。頑張ります」と俺は言う。「お金ができたら、また来ます」

「お待ちしております」

 宿屋から出る。



「アンタが言うには日本のもんを露天で売ればお金になるってことだね」

「日本から何か持って来てますか?」

「お金が必要になって、モノを売ることになることを俺は予想してた」

「絶対に嘘ですね」

「色んなモノが俺の四次元ポケットには入っている。いるものから不必要なモノまで。魔物の死骸も入ってる」

「なにか嫌な四次元ポケットね」

「ドラ◯もんだって四次元ポケットに使えなくなったゴミをいっぱい入れていただろう。それと同じで部屋を掃除した時に出たゴミまで入れといた」

「……」

「鼻をかんだチリ紙がいくらで売れるか楽しみだ」

「不安になってきた」とお嬢が言う。

「とりあえず色んな店に行って物価を確認しましょう」



 1時間ぐらい色んな店の値段を見て回った。

 銅貨、銀貨、金貨が流通されている。

 日本の感覚で言えば銅貨が百円単位。

 銀貨が千円単位。

 金貨が一万円単位。

 だから宿屋は八千円ということになる。

 八千円を稼ぐのは相当なことになる。

 それとウンイドーショッピングをしていると……そんないいもんなんてしてねぇー。急にカッコ付けてごめんなさい。色んな店に行き、色んな物の値段を見ている時に、魔物の言語がわかるようになる薬を発見した。

 魔具だと思っていたけど、薬だった。

 ネットには魔具って書かれていたらしいけど、ネットを信じすぎるのも危険すぎる。

 ポーションとか、エーテルとか、その類と同じように言語薬として売られていた。

 言語薬。いい薬です。

 コンニャクじゃなくて本当に良かった。それだけが救いです。

 そういえば魔物によって使う言葉は違うはず。だけど種族関係なく魔物なら会話ができた。

もしかしたら、俺が見た夢が前世の記憶で……もしかしたらじゃねぇー。あれは前世の記憶なんだよ。昔々に言語薬を飲んで魔物の言語を習得しているのかも。

 そういえば亜人系とは会話できるのかな? 出来るような気がする。気がするだけで出来ないかもしれない。エルフのお姉さんに喋りかけてみたい。タイミングがあったら喋ってみよう。

 それと人間バージョンの鬼さんは優しい。めちゃくちゃ優しい。やっぱり異界の人……たぶん直子というのは日本人だと思う。日本人に名前を付けられたせいなのか?

「それじゃあ小林さん。四次元ポケットの中のゴミを出してください」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る