第50話 エッチなお姉さん
「誰かに尋ねてみましょう」
と俺の後ろにピッタリと付いているミチコが言う。
まずは情報収集。
俺も聞きたいことがいっぱいある。
鼻孔をつく甘い匂いがした。
その匂いに誘われて歩く。
地面はレンガを埋め込んだタイルになっている。
青空。白い建物。床タイル。種族が違う魔物や人間や亜人。
なぜか人間っぽい鬼が俺のことをチラチラと見ている。
人間っぽい鬼。ほとんど人間と同じような姿。だけど角が2本生えている。
この町に冒険者が来ることは珍しいのだろうか? それとも俺達は変な服装なのか?
この町の住人の服装は、種族によって違った。
男はズボンだけ履いているのもいたり、冒険者っぽい服装をしているのもいる。水着のように胸と下半身を隠しているだけ、という女性もいる。
ベストとネクタイを着けた獣人もいたり、裸の魔物がいたりする。裸の魔物は毛皮があるタイプである。色んな服装や文化がごちゃ混ぜになっている感じだった。
露天商が見たこともない果物を売っていたり、ペンダントを売っていたり、薬を売っている。
白い建物もお店が多いみたい。お土産屋や薬屋や食べ物屋や本屋もある。
観光名所みたい。
甘い匂いの元に辿り着いた。甘い匂いの正体は女性だった。
その女性はパラソルの下のテーブルに座っていた。
春の陽気の暖かさ。寒いわけじゃないけど彼女は水着のような露出が多い服装で、足を組んでいた。少し化粧をしているみたい。髪は金髪で、ギャルっぽかった。
「すみません」と俺は声をかけた。
そういえば魔物と喋るのは初めて? 昔ハーピィーと喋ったことがあるけど。つーか彼女は魔物なんだろうか? なにか細長い尻尾みたいなものが生えていて、クネクネと揺れている。獣人の尻尾じゃなくて、悪魔のような尻尾だった。
「私になにか聞きたいことあるの?」
エッチなお姉さんが言った。
彼女は俺の体を舐め回すように見た。そしてヨダレを垂らさないように唾を飲み込んだ。
「あきらかにサキュバスじゃないですか。なにを声かけているんですか?」とミチコが言う。
「話を聞くんだよ」
「いいわよ。こっちの椅子に座って」
とエッチなお姉さんが椅子を差し出す。
俺だけ椅子に座る。
ミチコとお嬢が俺の後ろでソワソワしているのがわかった。
「アナタはこの町が初めてみたいね」
エッチなお姉さんがハァハァと息を出しながら、俺の太ももを触って来る。
お嬢が俺の頬をつねる。
「なんだよ」
「何を触られているの?」
「知らねぇーよ」
「彼女?」とエッチなお姉さんが尋ねた。
「嫉妬しているだけです」
「興奮する」とエッチなお姉さんが言った。
何に興奮しているんだろうか?
「この町はなぜ色んな種族が交わっているんですか?」
フフフ、とお姉さんが笑った。
「不思議よね。この町の中だけ人間も亜人も魔物も殺し合いをしちゃいけないのよ。昔、異界の女性が統治していた町なのよ。その人の思想が今でも根強く残っているのよ」とエッチなお姉さんが言った。「アナタと同じ。異界の人間。その女性の名前を取って『直子の町』って言うのよ」
直子の町。
胸がざわついた。
何かを思い出しそうな、そんな予感があった。
「桃太郎に連れ去られた冒険者がどこに行くのか聞いてください」とミチコが言う。
後ろから貧乏揺すりが聞こえる。
お嬢がイライラしている。
「桃太郎に連れ去られた冒険者がどこに行くのか知っていますか?」
「初めてココに入る冒険者は人質にされるみたいね」とお姉さんが言う。「鬼ヶ島じゃないかしら」
「鬼ヶ島ってどこにありますか?」
「町の浜辺からでも見えるわよ」
エッチなお姉さんが指差す。
「ありがとうございます」
「遊んで行かない?」
後ろの2人がイライラしている。
「また今度」と俺は言う。
「私はずっとココにいてるから」
「はい」
最後は頬にチュとキスされる。
お嬢に強く頬をつねられて、立たされた。
「なんだよ」
「なにデレデレしてるの? キモい。死ね」
「お別れの挨拶だよ。こっちはフランクなんだよ」
「もう絶対にエッチなことしてあげない」
お姉さんが手を振って来る。
俺も手を振り返す。
エッチなお姉さんが俺に胸の谷間を見せて来た。
いいな。ムズムズするな。
「スキルを奪われるってネットで書いてましたよ」
「へー」
「聞いてますか?」とミチコが言う。
「早く鬼ヶ島に行って、棍棒を貰って帰りましょう」とお嬢が言う。
「田中さんのことも忘れないでください」
「時間があれば田中も取り返してあげてもいいわ」
「それで鬼ヶ島はどこにあるって言ってましたか?」とミチコが尋ねる。
「あっちって指差してたけど。町に浜辺があるらしい。そこから鬼ヶ島が見えるみたい」
エッチなお姉さんが言うように、プライベートビーチみたいな町専用の浜辺があった。
暖かいと言っても春の陽気である。なのに結構な人が遊んでいた。
見とれちゃうな。だから薄着の人が多かったんだ。あの獣人の女の子なんてTバックじゃないか。お尻からビョンと出ている尻尾がキュートすぎる。
またお嬢に頬をつねられる。
「なんだよ。さっきから」
「なに見てるの?」
「別にいいだろう」
「キモい死ね」
「なに嫉妬してんだよ」
「嫉妬なんてしてないわよ」
とお嬢が怒鳴る。
へいへい、わかりましたよ。
海の向こうに島があった。離れているというわけではない。
「舟、出してください」
人が少ないところで俺は舟を出す。
海まで押す。
押しては引く透明な海。
舟を海に入れた瞬間。
海の中から手がニョッキと出てきた。
ミチコが船に乗り込もうとしていたから、俺は彼女を止める。
「乗っちゃダメだ」
無人の舟がすごいスピードで沖に行く。
そして沈んでいく。
「マーメイド?」とお嬢が尋ねるように呟いた。
たぶん海の中にいたマーメイドが舟を引っ張って沈めたのだ。
呆然と消えた舟を見つめた。
とりあえず砂浜に俺は座った。
2人も俺の隣に座る。
これからどうしよう? 目的の場所に行けない。
太陽が沈んで行く。
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