第48話 VS桃太郎と仲間達
どうする?
どうしたい?
リーダーとして、どうするべきか?
もしこのまま4人で戦っても負ける。
田中を肉壁として差し出しても一撃で殺されてしまったら自動回復もしないだろう。
殺されるなら仲間を差し出すわけにはいかない。
俺の攻撃でダメージを食らわす事ができるだろうか? ダメージがあったとしても倒すことはできないだろう。
あの威圧感。体が震えるぐらいに恐怖している。桃太郎と戦ってはいけない、とミチコは言っていたのだ。あんなのと戦えるわけねぇーだろう。それにミチコは何て言ってたっけ? ヒロインがさらわれる。他のみんなは殺されてヒロインだけがさらわれるのか? 鬼もゴブリンやオークみたいな性モンスターなんだろうか?
お嬢を鬼に近づけさせてはいけない、と思った。お嬢の接近攻撃は力差がありすぎて危険すぎる。それにこのパーティーのヒロインは誰がどう見てもお嬢なのだ。
少しでも俺が桃太郎達を足止めできたら、三人がダンジョンゲートから抜けることができるかもしれないのだ。
それしかないように思えた。
4人で戦えば4人とも死ぬ。
俺が足止めできたら俺が死んだとしても3人は生き残れる。
リーダーとして1人でも多く生き残れる道を選択しなくてはいけない。
師匠は後悔していたのだ。仲間を助けれなかったこと。
きっとパーティーメンバーを死なせてしまったら俺も後悔する。
「3人はダンジョンのゲートに向かって逃げろ。俺がコイツ等を足止めする」
「えっ?」とお嬢。
「小林さんは?」とミチコが震えながら尋ねた。
「俺なら大丈夫」
「そう言ってくれるのを待っていた」と田中が言う。「サンキュー」
震える声でデブが言って立ち上がった。
「ダメだ。田中。まだ逃げるな」
俺が桃太郎達の餌食になっている時に逃がしたかった。
犬鬼が田中の元に走って行く。
「茶玉」
とんがりコーンのように尖らした岩の銃弾を犬鬼に撃った。
結構な魔力を入れたつもりだったけど、犬鬼はグーパンチで茶玉を粉砕させた。
そして犬鬼が俺に方向転換する。
「一応、武器を持って行け」と俺は言って、呑み込んでいた10tハンマーを手から出す。
「はい」とミチコが言う。
2人が立ち上がって走って行く。
俺は植物を操るスキルを使って、犬鬼の足に雑草を絡ませた。
距離があるから魔力消費も多い。
左につけていた魔力ブレスレットを見る。70の残量。
ブチブチブチ、と束にした雑草を何でもないように犬鬼が歩きながら千切って来た。
『町の交通手形を出すから逃がすなよ』と桃太郎が言った。
町の交通手形? なんじゃそれ?
『わかってますよ』と雉鬼が言って、飛んだ。
飛んだんじゃない。跳躍したんだ。つまり凄い勢いでジャンプしたのだ。雉鬼が俺を飛び越え、後ろの方に向かった。
そっちは3人が逃げている方だった。ヤバい。でも今、犬鬼から視線を外したら殺される。
とにかく目の前の敵を倒さなくちゃ。
銃弾を人差し指に作り出す。そして炎を詰め込む。魔力は最大限にする。これがダメなら、もう俺の攻撃は効かないだろう。
魔力残量は20になった。
「赤玉」
人差し指から大きな炎の塊を発射させた。
犬鬼に命中する。
でも魔物は倒れなかった。
無傷で犬鬼が立っていた。
絶望だった。
「汝、田中中が命じる爆発しろ。手榴弾」
なにかの呪文? みたいのが近くから聞こえた。
そして野球ボールぐらいの大きさのモノが投げられた。それが犬鬼に当たって、バフンと爆発した。
「お前、助けに来たのかよ」と俺が言う。
「そんな訳ないじゃん。どうすんだよ、コレ? 僕、死んじゃうよ?」
後ろを振り返る。
雉鬼と戦っているのはお嬢とミチコだった。
あの鬼から田中は逃げて、こっちに来たんだろう。
瞬間移動したように気づいたら犬鬼が田中の目の前にいて、拳を振り上げていた。
田中がコレを食らったら死ぬんじゃねぇー?
盾になるようにデブを守った。
スキルも使っていない普通のパンチ。
両腕で止めた。
腕がバリバリバリと煮込んだ豚骨のように簡単に壊れる。
後ろにいた田中と一緒に飛ばされた。
ズリリィィー、と地面を擦るように着地する。
俺は田中を下敷きにしてしまう。
「大丈夫か?」
と俺が尋ねる。
「大丈夫な訳ないだろう。どうすんだよ?」
田中が焦っている。
犬鬼が、凄いスピードでコチラに来ていた。
「赤玉」
魔力を詰め込みすぎて最後の赤玉だった。
それでも鬼には食らわなかった。
田中だけでも守らなくちゃ、と思った。そもそも何で俺はコイツを守らなくちゃいけねぇーんだ? いやリーダーだからだろう。せめてお嬢やミチコを守って死にたかった。
『そっちはどう?』と犬鬼が尋ねた。
『雑魚』と雉鬼が答える。
『コイツが一番強いのか』と犬鬼が言った。
『他の奴等を守ろうとしてたからソイツがリーダーっぽい』と桃太郎が言う。
『それじゃあコイツがヒロインっすか?』と犬鬼がデブを指差して言う。
『そんなデブじゃねぇーだろう』と桃太郎が言う。
『でも、めっちゃ守ってるっすよ』と犬鬼が言う。
「大丈夫か? 小林」と田中が言った。
「魔力切れ」
「このダンジョンに女の子はいませんか?」
「お前だけでも逃げろよ」
「逃げれるわけねぇーだろう。足が遅いんだから」
ハハハ、と俺は笑った。
逃げない理由がムカつく。
「僕がキスしても魔力回復するのか?」
「しねぇーよ」
「試そう」
「キモっ。やめろ」
キスされた。
一ミリも魔力は回復しなかった。
『やっぱりヒロインじゃないっすか。キスしてるし』と犬鬼が言う。
目の前に桃太郎が立っていた。
見えないぐらいに早かった。
『ヒロインを預かる。もし町で魔物に危害を加えた時はヒロインを殺す』と桃太郎が言った。
『初めてココに来る人なんだから、魔物の声なんてわかんないっすよ』と犬鬼が言う。
『まぁ、一応、儀式みたいなもんだよ』
桃太郎が小袋からキビ団子を取り出す。
恐怖で腰が砕けて動けなくなった田中の口の中にキビ団子を突っ込んだ。
「ふぁすけて」と田中が俺に手を差し出した。
魔力切れで俺は動けない。
キビダンゴを食べて田中が気絶する。もしかしてキビ団子じゃなくて眠り薬なんだろうか?
田中が桃太郎に抱えられた。
『おい。猿。通行手形を発行しとけ』と桃太郎が言った。
猿が筆を持って俺の前に来る。
その筆で、頬を撫でられた。
桃太郎御一行は田中を連れて去って行った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます