第47話 戦隊レンジャーは桃太郎達から隠れる

 鬼ヶ島ダンジョンがある場所は俺達が住んでいるところから結構離れていた。新幹線に二時間乗って、そこからタクシーに乗り換えて山のふもと。

 雪が積もっていた。

 ダンジョンゲートの前。黒い渦。

 俺はダンジョンに普段着で行くつもりだった。防具を付けていたらスピードが落ちる。だから着慣れた服で行きたかった。

 だけど師匠が服を用意してくれていたらしく、出発の日に使用人の方から渡された。

 さっき軍が管理している受付所で男だけ先に着替えさせてもらった。女の子達は今着替え中である。

「お前、学生さんみたいだな」と田中が言う。

「別にいいだろう。気に入ってるんだよ」

 たしかに田中が言うように俺の服装は学ランに似ている。

 ボタンも金色で学生服に似せて作っているのかもしれない。

 素材はジャージっぽいけどゴムみたいに伸びる。もしかしたら巨人に変身しても破れない仕様になっているのかもしれない。でも巨人に変身する予定はない。色んなスキルを覚えるので、どんなことをしても破れにくい素材になっているのかもしれない。

 一応、急所にだけは防具が付いている。自動回復するので防具は最小限に留めているみたいだった。

 貰った黒いスニーカーも雪の上で滑らないし軽い。なにせ動きやすかった。

 でも寒い。

 上から布団のように分厚いジャンバーを羽織った。

「お前は黄色レンジャーみたいだな」と俺が言う。

「意外と気に入ってんだぞ」と田中が言った。

 黄色のヘルメット。顔面が安全ガラスで覆われている。デコに安全第一と書かれていた。もしかしたら安全第一がコイツのトレードマークなのかもしれない。初めて出会った時もこんなヘルメットを装着していた。

 ヘルメットの黄色に合わすように防具も黄色になっていた。

 ガッツリと防具で固められているのは、そもそもコイツはスピードも遅いから防御重視になったんだろう。自動回復があるといってもコイツの場合は魔力を消費する。コイツが攻撃されれば仲間を癒すことができない。めちゃくちゃハイポーションを持って来ているからコイツが癒せない場合はハイポーションを使うんだけど。

 黄色い肩掛けバックもかけていた。その中には手榴弾が詰まっている。

「誰がどう見ても、僕の勝ちだな」

「黙ってカレーでも食っとけ」

「黄色レンジャーがカレー好きって偏見なんだが」

「田中ってカレー好きじゃなかったっけ?」

「超好き」

 なんかムカつく。

 女性陣が仮設ハウスから出て来る。

 まずはミチコを描写しよう。

 青色のセーラー服。服のあれこれの名称を知らないから簡単な描写になってしまう。申し訳ない。スカートにはフリルも付いている。その上に固そうな防具も付いていた。少女戦隊みたい。

 そしてお嬢。

 赤い着物? 着物にしては動きやすそう。帯は黒色。靴はスニーカ。これも黒色。腰につけている日本刀の鞘も黒。黒の差し色があるおかげで赤が強調されていた。

「お嬢、防具は?」と俺が尋ねた。

「中に仕込まれているわ」

 彼女が肘を突き出してくる。

 触ると硬い。

「動きにくくねぇーのか」

「そんなことない。着物に見えているだけで、中はズボンになっているのよ」

 スカートをめくるように着物を捲った。

 俺は三人を見て、首を傾げた。

 統一感が無い。

 統一感が無いのが逆に統一している。

「俺達、戦隊っぽくなってねぇー?」

「気づきました? 私の提案です。師匠がダンジョンに入る時の服をプレゼントしてくれると言ってくれたので私が選びました。小林さんが黒。田中さんが黄色。私が青。新庄さんが赤です。あと1人メンバーにいれましょう? いい感じになります」

「恥ずかしいことするんじゃねぇーよ」

「ピンクがほしいですね。今なら紫でもアリですね。やっぱり2人ほしいですね。ピンクと紫」

「なんか恥ずかしくなってきたわ」とお嬢が言う。

「何を言っているんですか? 新庄さんと小林さんのおかげで英雄として注目を集めています。これから私達はメディア露出があるかもしれません。その時にパッケージとしてわかりやすくしているんです。簡単に言うとフォルムでわかるようにしているんです。なんだったら色だけでわかるようにしているんです」

「ミチココンサルだったのか」と俺は溜め息をつく。

「色んなスキルを覚えて強くなる謎の男、小林光太郎。謎だから黒色にしました。冷静沈着な将来爆乳委員長、道端ミチコ。だから青にしました。キレやすい炎の魔剣使い、新庄かな。だから赤色にしました。そしてただのカレー好き田中中。だから黄色にしました」

「やっぱりカレー好きだから黄色だったんじゃん」と俺が田中を見て言う。

「どおりで黄色が馴染むと思ったよ」

 新庄がミチコの頭をチョップする。

「痛い」

「ミチコが興奮するとツッコミ役がいなくなるじゃない」

「申し訳ございません」

「それじゃあ行こうか?」と俺が言った。

「何度も言ってますが、わかっていますよね? 私が使う魔具を持って帰って来れば、このダンジョンの目的は達成です」



 俺達はダンジョンの中に入った。

 ダンジョンの中は天気だった。

 どこの世界なのかはわからない。

 だけど晴れた空は日本と変わらない。

 春の陽気。

 着ていたジャンバーは呑み込む。

 そういえばジャングルだとか洞窟だとか湿地帯だとかが多くて、ダンジョンの中の空を初めて見たような気がする。

 地球と同じで太陽も一つである。

 ミチコが言っていたようにダンジョンを抜けると道に出た。

 砂利道。

 道を外れると雑草が生い茂っていた。

 とりあえず、しばらく真っ直ぐ歩く。

 そして俺達は立ち止まった。

 この感覚、知っている。

 最強最強に出会った時と同じ感覚である。

 全身がサブイボで覆われる。

 これ以上、道を進んではいけないと警告音が鳴る。

 4人で顔を見合わせる。

 みんな同じような感覚に襲われているんだろう。

「こっち」と俺は言って、道から外れた。

 どんな敵なんだろうか? 

 でも絶対に会ってはいけない。

 必死に雑草の中を歩いた。

 わかる。どんどんと何かが近づいて来ている。

「隠れよう」と俺は言った。

 みんなをうつ伏せにさせて、植物を操るスキルを使って雑草で俺達の体を隠した。

 心臓がドキドキする。

 土の振動で何かが近づいて来ているのがわかった。

 遠くの方で歌が聞こえた。


『桃太郎さん、桃太郎さん、お越しに付けたキビダンゴ一つ私にくれないか?』


 なんで桃太郎の歌を唄っているんだろうか? 日本の情報を知っている魔物なのか?

「なんの音?」

 とお嬢が言う。

「歌っているんだ。桃太郎の歌を」

「声を出さないでください。絶対に見つかってはいけません」


『やりましょうやりましょう。これから冒険者の征伐に、ついて行くなりやりましょう』

 桃太郎さんの歌が近づいて来る。


『行きましょう行きましょう。あなたについてどこまでも。家来になって行きましょう』

 桃太郎さんの歌がさらに近づいて来る。

 隣のミチコが震えている。 

 顔を上げて、雑草の隙間から歌声の主を覗いた。


 そこにいたのは鬼だった。

 怒りで顔を真っ赤にさせ、角を二本生やしている。歯の一本一本が釘のように尖っている。ビー玉のような丸い目玉には狂気で満ちていた。

 その鬼が桃のハチマキをして、シマシマの着物を着ている。そしてピンクのチャンチャンコみたいなモノを着ていた。腰には日本刀。それと小袋。たぶんキビダンゴが入っているんだろう。

 その後ろを歩いているのも猿や犬や雉じゃない。鬼だった。

 本物の大猿をはいで作ったような着ぐるみを着た鬼。

 土佐犬の顔以外はツギハギして作った犬の着ぐるみを着た鬼。

 何十匹の雉の羽を体に巻き付けた鬼。

 奇妙な鬼である桃太郎御一行は、迷わずにコチラに向かって来ていた。俺達がココにいることを知っているように。

 完全に完璧にレベル不足である。

 こんな奴等と戦って勝てるわけがない。

 他の三人を死なせないようにするのも無理じゃねぇー?

 早く戻らなくちゃ。

 そう思った。 

 だけど犬がコチラに向かって走って来ていた。

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