4章 鬼ヶ島
第45話 準備
オークとの戦いでレベルが一気に上がってしまったので生活に支障が出てしまう。
コップを持っても割れたり、扉を壊してしまったり、力の調節がバカになっている。
それに筋肉だって痛い。
ステータスが向上すると筋肉も自然に付くけど、ステータスとの誤差が出来てしまう。その微調整を筋トレで補わなくてはいけなかった。
鬼ヶ島に行くまでに水玉も使えるぐらいに熟練度を上げておきたい。
師匠は海外のチームと戦術の訓練をするために、どこかの国に行ってしまった。Sクラスダンジョンに入る時に日本に戻って来るらしいけど、俺達が鬼ヶ島に入っていたら会えないかもしれない。
道場を使用する許可を師匠から貰っていた。お嬢とミチコはココに住んでいるらしい。どれだけでも住んでいいらしい。
俺とお嬢が道場で腕立て伏せをしていた。
2人とも青いジャージを着て、白いシューズを履いている。寒い季節なのに暑くて汗をかいていた。
「ココにいたんですね。ちょうど良かったです」
道場に入って来たミチコが言う。
彼女は紺色のワンピースを着ていた。つねに小学校の制服を着ていて哀れに思った使用人の方がミチコの服を用意してくれたらしい。
相変わらず彼女は三つ編みのおさげで、小三の委員長って感じだった。
「なんだよ?」と俺が尋ねた。
「小林さんに吸収してほしいモノがあるんです」
吸収、というスキルは進化して【バク呑み】というスキルになっていた。
だけど吸収の頃に入れていた武器や薬は取り出せる。同じ四次元ポケットだけど仕様が少し変わったと思ってくれたいい。
スキルの説明書が無いので、詳細は使いながら理解していくしかないけど、バグ呑みは魔物を呑み込んでも経験値を貰えるらしい。少しのレベル差なら吞み込めるみたい。何より吸引力が上がったように思う。手に触れていなくても呑み込むことができた。
「外に来てもらっていいですか?」
俺は置いていたタオルを掴んで、デコから滴り落ちる汗を拭った。
「いいよ」
「新庄さんもお願いします。ついでに鬼ヶ島について説明させていただきますので」
「そういうのってパーティーメンバーが全員そろって……まぁ、アイツは別にいいか」と俺が言う。
「そうよ。パーティーメンバーが全員そろって……別にアイツを数に入れるだけ無駄か」とお嬢が言う。
「そんなことはありません。鬼ヶ島がどういうところなのか、すでに田中さんには説明しています」
「無駄なことを」と俺が言う。
「そうね。河川敷の石にレストランのマナーを教えるくらい無駄なことをしているわね」
「2人にとって田中さんって何なんですか?」
「肉壁」と俺が言う。
「踊れない。笑えない。食べれない、お肉」とお嬢が言う。
「最低な評価なんですね」とミチコが苦笑いする。
俺達は道場を出て庭に向かう。
「そういえば動画見ましたよ」
と歩きながらミチコが言った。
「動画?」とお嬢が首を傾げる。
オークの群れと戦っている俺達の姿がネットに流出していた。1日で何百万再生されているらしい。
「凄いじゃないですか。ニュースにもなっていましたよ。今じゃあ2人とも英雄です」
「英雄か」と俺が呟く。
あんまりピンと来ない。テレビも見ていなければ、動画も恥ずかしくて見るのをやめてしまった。
「最悪」とお嬢が言った。
「こんなご時世ですから、市民を守るために戦う冒険者を祭り上げたいんですよ」
「その」とお嬢が耳を真っ赤にして呟く。「あのシーンは動画に流れていないのかしら?」
「あのシーンって?」とミチコが言う。
「あのシーンって言えば、あのシーンじゃない。光太郎の魔力を回復させるために……ミチコならわかるでしょ?」
「大丈夫ですよ。そんなシーンは今のところ投稿されていません」
今のところ、とお嬢は呟く。
たしかにキスしているシーンが投稿されたら恥かしすぎる。
もしミクが生きていたとして、日本に戻って来て、ネットに俺達のキスシーンが残っていたらイヤだもん。
もっとお嬢はイヤかもしれない。付き合ってもいない男とのキス。
でも俺達がキスしたのは巨大オークが出て来た時だった。だからみんな巨大オークに視線を向けていたのかもしれない。
木で作られた船が庭に置いてあった。
「小林さんには、これを吸収してほしいんです」
「の◯太くん、無理を言っちゃダメだよ。ぼくの四次元ポケットにも入らないモノがあるんだよ」
「そうですか。残念です」とミチコが落ち込む。
「ごめん。嘘。嘘。呑込めるよ」
俺は船に左手をかざした。俺の左手に船が吸い込まれていく。
「でも、どうして船なんだよ?」
「島があるんですよ」
俺達が首をかしげる。
「まずは今までのダンジョンとは別モノと考えてください。すごく広い領土なんです。鬼ヶ島に辿り着くのも難しいとされています」
とミチコが言った。
「ダンジョンゲートを通ると道に出るらしいです。そこから浜に出て、船で鬼ヶ島に行かなくてはいけません」とミチコが言う。
「鬼はAランク以上あると言われているので絶対に戦ってはいけません。我々の目的は私が使える魔具を持って帰って来ることです」
「どんな魔具が鬼ヶ島にあるんだ?」と俺が尋ねた。
「棍棒です。全ての鬼が持っているらしいです」
「戦わなくちゃ棍棒は手に入らないんじゃねえーのか?」
「小鬼がいるみたいです。ソイツから奪って逃げて帰って来ましょう」
「すげぇー姑息な作戦だな」
「ちなみにBランクダンジョンになっているのは、このダンジョンは冒険者に交友的らしいです」
「へーーー」
「交友的と言っても殺されないだけで、さらわれたりするみたいなんですけど」
それって交友的って言えるのか?
「桃太郎と絶対に戦ってはいけない、とネットには書かれてました」
「桃太郎?」
「桃太郎がいるみたいです。強さはAランク以上。戦えばパーティーのヒロインを一体さらって行くらしいです」
俺はお嬢を見る。攫われるとしたらお嬢か?
「町もあるみたいです」
「町?」と俺とお嬢が驚く。
ミチコが頷く。
「魔物や魔族の町で賑わっているらしいです。そこで魔族の言語がわかる魔具が売っていたり、エーテルが売っているみたいです」
「エーテル?」
「魔力の回復薬ですよ。人間の世界では開発がされていない薬です。こっちで買おうと思ったら何百万っていう金額になります」
「もうエッチなことしなくて済むじゃない」とお嬢が言う。
ミチコは首を横に振った。
「魔族のお金を新庄さんは持っているんですか?」
「持ってない」
「そうでしょ。しかも言葉も通じない」
「でも魔族の言語がわかる魔具があるって」
「それを買うためのお金は? モノを売ればいい? どうやって?」とミチコが言う。
お嬢が俺を見る。
「光太郎が魔物の声がわかるわよ」
「わかるから向こうで商売ができますか?」
「……」「……」
「殺されることはないみたいですが冒険者にとって治安は最悪みたいです。できることなら町に寄らないでおきましょう」
とミチコが言った。
「そして私達が今まで行ったダンジョンと違う最大の点は別の魔物がいることなんです。鬼の配下がダンジョン内にいるんです。町に行ったらサキュバスという魔物がいてスキルを奪われるらしい、とネットで書かれてありました」
「サキュバスがいるのか?」
「インキュバスもいるみたいですよ」とミチコが言った。
インキュバスというのはサキュバスの男バージョンである。
「ちなみに海にはマーメイドとマーマンもいるらしいですよ。海に落ちら海底まで引きずられるらしいんです。気をつけてください」
「怖ぇーな」と俺は言う。
海なんて絶対に戦えないじゃん。死にゲーじゃん。
でもサキュバスがいるっていうのは楽しみ。
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