第44話 急成長する俺。覚醒するお嬢。

 オークの耳は尖っている。この耳が元エルフと言われる理由かもしれない。エルフは美形なのにオークは醜い。悪魔に魔法をかけられたにしても醜すぎる。きっと息だって臭いんだろう。悪食で有名なオークである。何でも食べているせいで大きな口から吐いている息が黄色に見える。5メートル以上も離れているのに生ゴミの臭いがした。

 口から犬歯が飛び出している。いや、あれは犬歯ではない。犬歯は上の歯。だけどオークの歯はイノシシみたいに下の歯が飛び出している。

 ほぼほぼ全裸で申し訳程度の腐った木で作られたようなパンツだけは履いている。だから股間は見えないけど、ギンギンである。描写できねぇーよ。どうなってんだよ。ゴブリンもそうだけど、なんで性欲モンスターはデフォルトでギンギンなんだよ。

 斧を持っている奴と素手の奴がいる。割合で言えば素手の方が多い。

 正直に言います。弱いと思っていた。沢山いても楽勝でしょ、と思っていた。俺TUEEEをやってしまって申し訳ございません、と思っていた。みんなの前で強くなった俺を見せられる、とウキウキすらしていた。

 だけど、全然、そうじゃなかった。

 10の魔力を突っ込んだ茶玉がオークに受け止められた。

 ちなみにCランクダンジョンの魔物では10も魔力を突っ込めば殺すことができた。つまりコイツ等はC以上。

 赤玉を使おうと思った。だけど引火する恐れがあるから使えない。水玉は熟練度を上げ切れていないから論外である。

 何百匹のオークが空から落下していた。

 隣のお嬢が長期戦になることを見越してか、魔力を抑えて体を燃やしている。日本刀も炎の魔剣になっていた。

 エッチなことをしなくちゃ俺は魔力を回復できない。

 全校生徒がいる前で、そんな恥ずい事はしたくない。それに戦いの最中に魔力切れです、ちょっとお嬢こっちまで来てエッチなことしようぜムフフ、という時間も無いかもしれない。

 近くの女の子に俺のスキルを説明して魔力を回復させてもらう、っという手もあるけど、きっと説明しているうちに攻撃される。

 魔物の量が多すぎる。できる限り魔力を抑えて戦わなくちゃいけない。もしかしたら勝てないかもしれない。勝てなくても近くの冒険者が来てくれるまで持ちこたえなくちゃいけないのだ。

 デモをしているのに近くの冒険者は来てくれるのだろうか? 師匠なら来てくれるかも。でも師匠の家はココから何駅も離れている。

 もしかしたら俺達で百体以上もいるオークを倒さなくてはいけないのか?

 とりあえずコイツ等の力がどれくらいか確認しよう。

 もし吸収で飲み込めるのなら俺よりもレベルが低い。

 吸収というスキルは自分よりもレベルが高い魔物は飲み込めなかった。

 逆に言えば吸収で飲み込めなかったら百体もいるオークなんて倒せるわけがない。

「お嬢はみんなを守ってくれ」

 と俺が指示を出す。

 二人が離れれば生徒を守る人間がいなくなる。

 どうやら生徒達はオークが出現している反対側の出口から出ているようだった。

「私も戦う」

「みんなが逃げ切れるまで守ってほしい」

「でも」

「俺が魔力切れしても、どうにかすれば俺は回復できる。でもお嬢は魔力切れしたら、もう戦えない」

 彼女がポクリと頷く。

 俺は走る。

 できる限り、魔力を温存して戦わなくちゃいけなかった。

 カンフーの軌道、というスキルを発動させる。このスキルは1分間に魔力消費量は1である。さほど魔力は使わないけど体術系である。

 オークがパンチを出す軌道がライトに当てられたように見える。俺はそれを見ながらオークのパンチを避けて魔物に触れた。

「吸収」

 ……。

 最悪である。

 吸収できない。

 俺達よりもレベルは上。

 オークが腕を振り上げた。

 俺はカンフーの軌道を発動させながらパンチを避け、指に銃弾を詰め込んだ。

「茶玉」

 魔力を40突っ込んだ。

 左手に付けていた魔力ブレスレットには69の残量が表示されている。

 こんな戦いをしていたら、すぐに魔力切れをしてしまう。

 強い魔物が大量にいる状態で魔力の補充なんて、できる訳がない。

 どうやって戦うんだよ?

 外にいてコチラに気づいていなかったオーク達もワラワラとこちらに近づいて来た。

 レベル66に成長しました、という声が脳内から聞こえた。

 いい知らせは一体倒すことができた、ということだろう。

 悪い知らせは経験値が多いということだろう。経験値の多さはコイツ等が強いことを示している。

 

 腕を掴まれた。


 気づいたらオークに取り囲まれていた。

 ブヒブヒ、という鼻息が聞こえた。

 オークの大きな手が俺の腕を握る。ボギボギボギ、と骨が砕け散る。

『美味しそう』とヨダレを垂らしてオークが言った。

 パックン。

 俺の右手がオークの口の中に入った。

 バギン、と骨を砕く音。

 ギャーーーと俺は叫んだ。

 そして骨つき肉を食べるように俺の腕を噛みちぎった。

 血がブシューーーと飛び出す。

 だけど自動回復のおかげで、出血が止まる。

 欠損した箇所が元に戻るわけではない。

 出血が止まり、欠損した箇所が傷として処理されるだけである。

「俺の腕が、俺の腕が」

 別のオークに足も掴まれて俺は宙ぶらりんになった。


『オークの攻撃スキル、悪食が使用できるように成長しました』

 と脳内に声が聞こえた。

『悪食と吸収のスキルが結合して、バク呑みというスキルに進化します』

 

 えっ? スキルが結合して進化?

 バク呑み?

 俺の掴まれていた足が噛みちぎられる。

 ギャーーーー、と俺は叫んだ。

 残っていた左手でオークに触れようとした。

 触れる前に、スキルが発動する。

 俺の左手が掃除機のように空気を吸って、俺の腕を掴んでモシャモシャと右手を食べていたオークを吸い込む。


『オークの固有スキル、性欲が使用できるように成長しました』

 と脳内に声が聞こえた。

『性欲と好色のスキルが結合して、淫欲というスキルに進化します』


 あっ、最悪だ。

 キモスキルが進化してしまった。

 インヨク? とてつもなさそうなキモスキル。

 ちなみにバク呑みも消費量1、魔物を飲み込んだら魔力の回復量が1で、吸収と同じで±0のスキルみたい。

 スキルの詳細はわからない。詳細を知る機能が俺には搭載されてないからだ。ただオークを飲み込んだ事で右手の欠損部分がニュルン、とピッ◯ロ大魔王のように生えてきた。

 俺の足を掴んでいたオークも飲み込んだ。足もニュルンと生えてくる。もう俺は人間じゃないみたい。

 バク呑み最強やんけ、と思った。

 それから俺はカンフーの軌道を発動させながらオーク達を呑み込んでいく。

 体育館のオークを呑み込んだら運動場に出た。


『レベル67に成長しました』

 と脳内に声が聞こえる。

 5体ほど呑み込んでレベルアップした。

 スキルが進化したことで呑み込んでも経験値を貰えるようになっている。

 レベルアップしたら魔力量が少しだけ増える。

 でも次のレベルアップは8体も必要だった。

『レベル68に成長しました』

 オークは見た目以上に素早く、攻撃力だって高い。

 攻撃を避けながら、囲まれないように気を付けなくちゃいけなかった。

 俺の魔力の減りが早いか、レベルアップが早いか、それが勝負の分かれ目である。

 魔力ブレスレットを見る。残り魔力が65になっている。

 呑み込め、呑み込め。

『レベル69に成長しました』

 俺がコイツ等を倒さなくちゃみんな死んじゃう。

『レベル70に成長しました』

 もう俺は誰も失いたくない。

『レベル71に成長しました』

 お嬢は大丈夫か?

『レベル72に成長しました』

 体育館の壁は半分ほど無くなっている。そして中が丸見えだった。中には取り残された生徒とお嬢が見えた。

『レベル73に成長しました』

 生徒達が逃げていた出口からもオークが入って来ている。

『レベル74に成長しました』

 戻らなくちゃ。みんな逃げきれなかったのだ。

『レベル75に成長しました』

 体育館に戻る。

 生徒達は舞台にあがっていた。100人ぐらい残っている。こんな状況なのにアイフォンのカメラで戦う女剣士を撮影している奴も大勢いる。なに動画を撮ってんだよ。

 お嬢の体を覆っていた炎が燃え上がる。

 体育館に入っていたオークは10体以上いた。

 新庄かなは一人で立ち向かおうとしている。

 彼女は魔剣を振った。オークの頭が飛ぶ。お嬢の方が強いみたいである。

「助けてくれ」

 出口から声が聞こえた。

 声がした方に行くと男子生徒がオークに肩を掴まれ、頭を食べられそうになっている。

「茶玉」

 カテキンがいっぱい入った大きなとんがりこーんを発射させる。

 バク呑みでは男子生徒を呑み込んでしまう危険があった。

 茶玉はオークの頭を抉り潰す。

 残量が30になる。

 完全にさっきの40の魔力を注いだ茶玉より強くなっている。

 一体、どれだけレベルが上がったんだろうか?

 ドカシャーン、と体育館から音がした。

 男子生徒のところに行く。

 堀川一之助だった。

「小林」

 と彼が泣きながら言った。

「大丈夫だ」

 と俺は言う。

 堀川に肩を貸して体育館に戻った。

 お嬢が地面に倒れていた。

 魔力切れなのか、倒れて気を失っているせいなのか炎が出ていない。そこにオークが襲いかかろうとしている。

「茶玉」

 少しは魔力は残しておきたい。

 20ぐらい魔力を詰めて茶玉を撃つ。

 茶玉がオークの胸を突き刺す。魔物が倒れる。

 堀川が舞台の上に登る。

 他のオークがお嬢を襲っていた。

 全ての残量を込めて茶玉を撃った。

 とんがりコーンがオークの腕にぶつかり、倒れた。

 だけど、そのオークはまた起き上がってきた。10の茶玉ではオークは殺せない。

「早くなんとかしなさい」と舞台の上からキレている声が聞こえた。

 おばちゃん教頭先生の声だった。

「うるせぇーババァ黙れよ」と堀川が怒鳴っていた。「2人とも必死に俺達を守るとしているじゃねぇーか」


 もう俺は魔力切れだった。スキルを使うこともできない。

 這いつくばってお嬢のところに行く。

「お嬢」と叫んだ。

 このままじゃ、みんな殺されてしまう。

 見られていてもいいからエッチなことをしよう。

 俺にみんなを守らせてほしい。


 お嬢が立ち上がった。

 新庄かなの体から白いオーラのようなモノが出ていた。

 強い、と思った。

 この女の子に俺は勝てないと思った。 

 師匠が発したのは黒いオーラだった。だけど彼女のは白いオーラだった。

 威圧的であり、だけど暖かくて優しい。そんなオーラだった。

 あれは闘気なんだろう。 

 彼女が体に魔力を込めた。

 白いオーラと赤い炎が絡み合って燃え上がる。

 彼女の髪が真っ赤に染まった。

「スーパーお嬢」と俺は呟いた。

 体育館のオークを彼女は切り裂いていく。

 彼女が魔剣を振ると屍が出来上がった。

 体育館のオークを全て殺し終えたお嬢が運動場に出て行く。

 炎の魔剣が豚肉加工工場のように次々とオークを切り裂く。

 彼女のスピードは早く、炎が動いているようにしか見えない。

 オーク達が炎を捕まえようとする。だけど捕まえる前に自分の首が切られていた。

 どれだけ強いんだよ。

 瞬く間に残りのオークを全て倒してしまった。お嬢TUEEE。

 彼女がフラフラになりながら体育館に戻って来た。

 髪の毛が黒に戻っていた。

 ゆっくりと俺の隣に座った。

 俺は仰向けになってお嬢を見た。

「もう一歩も動くことはできないわ」

 とお嬢が言う。

「俺も」

 ハハハ、と俺達は笑い合った。

 舞台の上から歓喜の声が聞こえた。


 

 その時、大きな揺れがあった。

 壊れた壁から外を見た。

 柱のような足が見える。ココからでは胴体が見えないぐらい大きな何かがダンジョンゲートから出て来ていた。

 それからすぐにバリバリバリと天井から音が聞こえた。

 身長30メートル以上もあるような大きなオークが天井を剥がしている。

 ビックオーク。

 巨大なオークがクッキー缶からお菓子を取り出すように天井から腕の伸ばして、舞台の上にいた女性を掴んだ。

 キャー、という悲鳴が聞こえた。

「光太郎、アイツを倒して」

 とお嬢が言った。

「このサイズはウル◯ラマンしか倒せないって」

「アナタならできるわよ」

 お嬢の手が俺の頬に添えられた。

 そして彼女は仰向けに倒れている俺に近づいて来た。

 唇と唇が重なり合う。

 そして自ら鉄壁の歯を開口して柔らかい舌を俺の方に入れて来た。

 すごく暖かくて柔らかい舌。

 俺は彼女を抱き締めて、赤ちゃんがおっぱいを飲むように貪るように舐めた。

 彼女が逃げようとするけど抑え込む。

 口を離す。

 お嬢がヨダレを服の袖で拭った。

 パチン、と俺の頬にビンタした。

「舐めすぎ。キモい」

 魔力が回復しただけじゃない。

 体の芯から力が漲っていた。

 ステータスが全て向上していることがわかった。

 もしかしてこれが淫欲の効果なのか? 魔力だけじゃなく、ステータスも向上させる。

 俺は立ち上がった。

「倒してくる」と俺が言う。

「キスしてあげたんだから、ちゃんと倒して来てよ」

 俺はジャンプした。

 巨大カエルを吸収した時に覚えた大ジャンプのおかげで、すごい勢いで飛んだ。

 そしてビックオークの突起物に乗る。

 その突起物が何なのかは言えません。さっきも書いたと思いますが、全てのオークがギンギンなのだ。そのギンの上に乗っかってしまった。

 吞み込める気はしなかったけど、もしかしたら勝負がつくかもしれないと思って、バク呑みも使ってみた。ソファーを掃除機で吸い込むようなモノだった。全然無理。

 俺はまたジャンプする。

 そして胸のあたりまでジャンプしたところで、ブヨンとした皮膚を掴んだ。

 木登りの要領で駆け上がっていく。登るのも得意になっている。木登りの固有スキルを取ってたっけ? それともステータス向上のおかげだろうか? 

 蚊でも叩くようにビックオークが俺を叩こうとする。

 だけど俺は蟻のように駆け上がって行く。だからビックオークの叩くスピードには追いつかない。

 そしてビックオークの肩に到着した。

 銃弾を人差し指に詰め込む。

 そして魔力を注ぐ。注ぐ。注ぐ。

「茶玉」

 自分でも今まで見たことが大きな茶玉が指から放出された。

 ビックオークの顔面以上に大きな茶玉は魔物の頭を抉り取った。

 そして建物が崩壊するようにビックオークが崩れていく。

 魔物が握っていた女子生徒が落ちそうになる。

 俺はジャンプして彼女を両腕に掴んだ。お姫様抱っこするような形になる。

 そして着地した。

 女の子は俺に首に手を回していた。

 可愛らしい女の子だった。

「大丈夫?」

 俺が尋ねると、「はい」と彼女が答えた。

 助けれてよかった。

 女の子を降ろす。

 その場に俺は倒れた。

 空に出来たダンジョンゲートは消えていた。

 俺達は奪われずに守り切ったのだ。

「ありがとう」と声が聞こえた。

 女の子の声だけじゃない。色んなところから「ありがとう」の声が聞こえている。

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