第42話 VSウンコ投げゴリラ他
ずっと夢のことについて考えていた。たぶん、あれは夢なんかじゃなく、前世の記憶なんだと思う。前世の母親のことをぼんやりと考えていた。どんな顔だったのか? どんな匂いだったのか? 思い出すことはできない。
ただ後悔だけが残っている。
なぜ守りきれなかったんだろう?
俺は無能だった。
母は殺され、俺は魔王城から追放されて旅に出た。
行き先は母の領土。そこに俺は辿り着けたんだろうか?
辿り着いた俺は何がしたかったんだろうか?
思い出さなくちゃいけない事が、もっとある気がするのに前世の記憶を思い出すことができなかった。
好色のスキルのおかげで俺は魔力を回復できる。だから目標であるレベル50まで1日で終わらせることができた。
強くなったことは実感できた。体は引き締まり、プニプニしていたお腹には腹筋が浮き出している。体が軽い、というよりも全身がバネみたいである。ボヨヨ〜ン、と飛んで行ってしまいそう。
俺が飼育ダンジョンから帰って来ると修行は次の段階に進む。
Cランクダンジョンを受けながら熟練度を上げていくことになったのだ。
有難い。ダンジョンに行った報奨金は一円も手を付けていないから少しはお金はあるけど、それだってすぐに罰金に消える。報奨金を貰えるダンジョンに入れるのは有り難かった。
それで俺達はダンジョンを受注するために久しぶりに冒険者ギルドに来ていた。
あんなに混み合っていた冒険者ギルドは自動販売機のウネリ声が聞こえるほど人が少なかった。
「まだデモ運動が続いているみたいですよ」とミチコが言った。
「罰金制度はどうなるんだ?」
「このまま廃止になってしまうと誰もダンジョンに入らなくなるでしょう。たぶん廃止にはならないです。罰金の額を減らして報奨金の税金を上げる。そういう落とし所じゃないでしょうか」とミチコが言った。
俺たちはステータスを再検査した。
俺はBランクまで上がっていた。お嬢もBランクである。それとミチコと田中中がCランク。
「見よ。我がステータスプレートを」
「はいはい。Cランクでレベル50ね。凄いね」とお嬢が言う。
「そっちではない。我の称号を見よ」
俺達は田中の称号を覗き込んだ。
たしか逃げきる者みたいな称号だったと思う。
『逃げきり癒す者』
田中中の称号が変わっていた。
「癒すが入ってるだろう。入っちゃうんだよな。ここまで癒せると入っちゃうんだよな」
「称号って変わるモノなのか?」と俺は尋ねた。
「はい。変わります」とミチコが言う。
「そもそも称号っていうのはキャラクターの性能を一言で表したら? みたいなキャッチコピーですから、その人物が成長したら変化することもあります。田中さんの場合は能力が向上したことで『癒す』という言葉が追加されたんでしょう。ちなみに称号一覧表というのもネットで出回っています。強い称号を三つ答えよ、とかテストでやったことありませんか? 人間というのはまったく同じ人物がいないようで、同じ性能を持ったキャラクターだらけなんですよ」
俺は自分の『成長する者』という称号について考えた。称号一覧表の中に含まれていない。そして前世では固有スキルだった。
固有スキル『成長する者』が、現世の日本で称号として表示されているんだろう。
道場にて。
Cランクダンジョンに入る前に荷物を俺達は確認していた。そして次から次に俺は吸収していく。
「私のハンマーも吸収できますか?」
自動販売機ほどの大きなハンマーをミチコが俺の前に置いた。
「たぶん入るよ」
ズボッとハンマーを手のひらに飲み込んだ。
「でもCランク以上は闘気があるから攻撃がくらわないんじゃねぇー?」
「強い攻撃ならくらいますよ。それに虫系の魔物なら闘気を宿ってないこともある、って聞いたことがあります」
「お願いハイポーションだけは持って行くのやめよう」と田中が言う。
ズボズボズボ、と師匠から貰ったハイポーションを100個ほど吸い込んでいく。
「やめて。僕の存在価値が無くなる。今までの修行の意味が無くなる」
「お前はお嬢とミチコの肉壁になればいい」と俺が言う。
「私の日本刀も吸い込んで」とお嬢。
持って行っていい、と師匠が言った武器庫から日本刀を持って来たらしい。
「りょ」と俺は言って日本刀を吸い込む。
「ダンジョンが終わったら、すぐに道場に帰って来ること。そこからまた熟練度を上げる訓練をするからね」と師匠が言った。
「はい」と俺達は返事を返す。
久しぶりのダンジョンはどうだったのかというと余裕だった。ゲームでいうところの中盤まで来て始まりの街に帰って来たぐらいに余裕だった。
ダンジョンに入ると草木が生い茂るジャングルだった。そしてツーンとした刺激臭がした。
草木に隠れて丸くて臭い物が投げつけられた。
それは誰にも当たることなく、地面にぶつかって激臭が漂った。
「ウンコ投げゴリラよ」とお嬢が言う。
額に一本のツノを生やした黒いゴリラが見えた。俺達が知っているゴリラの三倍ぐらいの大きさである。ウンコだって岩ぐらいの大きさだった。
「ミートウォール」と俺は新スキル肉壁を使った。
肉壁というのは田中中である。三人で田中の後ろに隠れた。
「僕の後ろに隠れるな」
「お前の仕事だろう」と俺は言う。
俺は田中に隠れながら赤玉を出す。
赤玉のおかげで草木は燃え、山火事みたいになった。
「あそこよ」とお嬢が指差す。
指差したところに赤玉を撃つ。
四人で動かずにウンコを投げそうになっているゴリラを見つけて赤玉を撃ち放った。
俺はウンコを投げられないように半狂乱で赤玉を撃ち続けた。
赤玉の消費量が10。熟練度が上がったことで魔力の調整ができた。3〜50ぐらいまで魔力を詰め込むことができた。
「早く赤玉を撃ちなさいよ」とお嬢が言う。
「ごめん。魔力切れ」
「はぁ? 光太郎レベルアップしたんだよね?」
「魔力切れは仕方ないじゃないか」
「いいから早く魔力を回復してあげてください」とミチコが言う。
「どうしたらいいのよ?」
「早くキスしてください」
「言っとくけど、もう俺は普通のキスじゃあ魔力が上がんねぇーぞ」
「師匠と何をしていたの?」とお嬢がキレ始める。「普通じゃないことをしてたってこと?」
「もうウンコ投げゴリラがモーションに入っています。早く普通じゃないキスをしてください」
俺はお嬢の唇を奪った。舌を入れたけど、お嬢が鉄壁の歯でガードしていて、口の中に侵入ができない。それでも赤玉が撃てるぐらいには回復している。
キスをしながらウンコ投げゴリラを撃つ。
お嬢から口を離すと頬をビンタで叩かれる。
「舌入れて来ないでよ」
お嬢は言って、服の袖で拭った。
「仕方ないだろう」
それから俺は、もう一発ウンコ投げゴリラに赤玉を撃って魔力切れ。
「早く撃ってください」
「魔力切れ」
「もう」とお嬢が言う。
「わかった。私がやる。刀を出して」
手のひらから吸収した刀を俺は取り出す。
お嬢は刀を持ってウンコ投げゴリラの元へ。
新庄かなの体が炎に包まれる。
ゴリラはウンコを掴んだままお嬢を殴ろうとする。その腕をお嬢は炎の魔剣で切る。ブッシューーーとウンコ投げゴリラの手から血しぶき。そしてお嬢はウンコ投げゴリラの首を切った。
ダンジョンが終わると本田邸に帰る。とりあえずお風呂に入った後で道場に行き、熟練度の訓練をした。
「スキルは覚えて来た?」と師匠に聞かれた。
「ウンコ投げゴリラでしたので、攻撃をくらいませんでした」
頭を殴られる。
「スキルは必ず覚えて来い、って言ったでしょ」
「でもウンコ投げですよ?」
「それじゃあ固有スキルも手に入れてないの?」
「……はい」
ボコボコに殴られた。
「何してるの? バカじゃない」と言いながらボコボコに殴られた。
なんで俺は殴られているんだろう? でも、きっとスキルを覚えてもウンコ投げ、とかでしたよ? そんなの覚えても使えないし、そもそもあの攻撃を受けたくないし。
それから俺達はダンジョンに入って道場で熟練度を上げる、というコースを2回ほど行った。
次の魔物では攻撃を受けてスキルを覚えた。
カンフーモンキーという打撃系が得意な魔物で、一度攻撃を受けたら連打で打撃を食らった。お嬢がカンフーモンキーの首をチョンパしてくれなかったら、どこまで攻撃が続いたのかはわからない。
カンフーモンキーのスキルは『カンフーの軌道』というモノだった。相手の打撃攻撃の軌道が見える。どこを打撃攻撃すればいいのかわかる、というモノである。
俺は闘気を持ってないから打撃は使う機会が無いかもしれない。
吸収で得た固有スキルは『木登り』だった。
ミチコの攻撃もCランクの魔物にはダメージがあるようで、彼女の10tハンマーで攻撃を受けたカンフーモンキーは脳みそを飛び散らしていた。
グレネートランチャーより強くないと闘気持ちの魔物にはダメージは受けないんじゃなかったっけ? それじゃあ10tハンマーはそれ以上のダメージってことだろうか?
田中中はヒールの熟練度を上げたことで自動回復を身につけていた。自分の傷だけはヒールもせずに回復できるらしい。俺と同じだけど魔力は消費するらしい。いい肉壁です。
カンフーモンキーを倒して道場に帰って来ると習得したスキルを見せろ、と師匠に言われる。
やっぱりカンフーの軌道は今の俺には相性が悪く、相手の打撃攻撃が見えるだけ、どこを打撃攻撃すればいいのか見えるだけ、だった。
そのスキルを試すために師匠にボコボコにされた。結局、スキルを手に入れようがボコボコにされるんだ。
次に入ったダンジョンはビックカエルだった。こいつのスキルはよかった。水だったのだ。これで水玉ができる。固有スキルは『大ジャンプ』だった。10メートルぐらいジャンプができるようになった。
5メートルの巨大カエルを倒して道場に帰ると、さっそく銃弾に水のスキルを宿して水玉を撃った。そして水玉が戦いで使えるように熟練度を上げていく。
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