第41話 金属スライムは経験値が多い
吸収というスキルは触れているモノを体に取り込む。このスキルでわかったことがある。いくら吸収で魔物を飲み込んでもレベルアップしないということ。
吸収というスキルは魔力を1消費する。だけど魔物を飲み込むことによって魔力1回復する。結果、±0の消費量で攻撃ができる。
俺と師匠はスライムが登って来れない岩の上に立っていた。
洞窟の中にはスライムがぎっしりと詰め込まれている。
「吸収で経験値が貰えないってゴミスキルですね」と俺は言った。
「そうでもないよ。だって固有スキルは手に入るんでしょ? 魔力消費量が0の攻撃なんて凄いじゃん」
「そうですかね」と俺は言う。
「一回、吸収したモノを吐き出していいっすか?」
俺は手をかざす。
体の中に色んなモノが入っていると思うと気持ち悪かった。
ズボボボボ、と手のひらからスライムの皮が飛び出す。次には人骨が飛び出す。服とか靴とかも飛び出す。そう言えば怖いお兄さんも吸収していた。
「四次元ポケットみたい。つーか人も殺してんじゃん」と師匠は笑う。
「……」
見られたらいけないものを見られてしまった。
「大丈夫。私も殺したことあるから」
怖い発言を聞いてしまった。聞かなかったことにしよう。
「このスキルってアイテムボックスみたいに使えるんじゃねぇー?」
「使えると思います」
「めっちゃ便利じゃん。君のパーティーには荷物持ちいらないじゃん」
「みんなの分のポーションとかも色々持ち運べると思います」
「最高じゃん。田中いらねぇーじゃん」
「いらないと思います」
「あれだけ私にナイフで刺されたのに可哀想」
師匠が笑っている。だから俺も笑う。
「ココに死体を放置しとけば誰にもバレないんだよね。全部スライムちゃんが食べてくれるから」
最強最強が怖いことを言っている。
「それじゃあ茶玉で攻撃してみて」
人差し指の第二関節に銃弾をこめる。
銃弾に土をつけていく。大きく大きくするイメージ。そして先は尖らすように。
発射。
荷物でパンパンのランドセルぐらいの大きさの茶玉が人差し指から飛び出す。
形はトンガリコーン。
核は銃弾。だからスピードも早い。軌道は真っ直ぐ。
スライムを殺す。そして地面にぶつかって茶玉がはじける。
「それじゃあ、あの金属スライムを狙って」
金属スライムはギッシリいるスライムの群れの中に数匹しかいなかった。
ココからでも一目でわかる。鉄を溶かしたような銀色をしている。
金属スライムに向かって茶玉を撃つ。
だけど金属スライムはジャンプして避けた。
「アイツは逃げ足が早いのよ」
「どうしてですか?」
「あの金属スライムは1万体に1匹ぐらいで発生するのよ。みんなよりも経験値を持って発生する。もともとスライムって1匹の個体が分裂して発生しているものなのよ。その因果が1匹に濃縮されて発生するのが金属スライムなのよ。経験値を持っているから逃げ足も早い。こういう危険な時は逃げなくちゃ、っていう経験を持っているのよ」
「へー、なんでも知ってますね」
「研究しているからね。いいから茶玉で金属スライムを狙いなさい」
「はい」
俺は茶玉を発射させる。
「アイツが宙に浮いたところを次の茶玉で狙って」
「はい」
俺が撃った茶玉が金属スライムに当たる。
『レベル16に成長しました』
『レベル17に成長しました』
「一気にレベルが2上がりました」
「なんでわかるのよ?」
「神の声が聞こえました」
「レベルが上がるだけで聞こえるの?」
「はい」
「何者なのよ光太郎は」
師匠が俺の魔力ブレスレットを見る。
魔力ブレスレットの総重が33になっている。茶玉を使って消費した魔力はレベルアップしても回復しない。
24/33。
24というのが残り使える魔力である。
俺の場合レベル1上がれば1.5以上の魔力の総量が増える。厳密には計算しなくちゃわからないけど。
「本当ね。レベル2も上がっているわね。光太郎の場合はレベル1上がることに1・78魔力総量が増えるから、だいたいレベル50を上げようと思ったら119にさせればいいのね」
「計算早っ」
でも、その計算が合っているのかどうなのか俺にはわかんねぇー。
俺だって電卓があれば簡単に計算ぐらいできるんだけど。
「レベルなんて減るもんじゃないし、もっと上げてもいいんじゃないですか?」
「それは素人冒険者の考えなのよ。一気にレベルを上げすぎると自分のステータスに慣れてなくて日常生活もままならないわよ。身長が1日で3メートルになったら自分の体を把握できてなくて天井や壁にぶつかってしまって生活しづらいと思うでしょ。レベル50っていうのも結構無理しているのよ。私がSダンジョンに入る期限が迫っているからね。レベルを上げたら熟練度を上げる。これの繰り返しで自分のステータスに慣らしていくのよ」
「師匠さすがです」
「いいから魔力が切れるまでスライムを倒しなさい。金属スライムを見つけたらソイツを狙っていくこと」
「はい」
そして魔力が切れる。
俺は倒れた。
「それじゃあ魔力を回復してあげようね」
師匠の甘い声が聞こえた。
俺は担がれて小屋に連れて行かれた。
小屋は土で作られた簡素なモノだった。
ベッドには布団がひかれている。そこに俺は寝かされた。
師匠が満面な笑顔をしている。
今までしてきた師匠との色んなことを思い出して俺は興奮した。
彼女が俺に馬乗りになる。
そして楽しそうに俺の首に手をかけた。
俺の首に手をかけた? なんで?
息ができない。苦しい。
師匠が熱い吐息を出しながら俺を見ている。
「男の子の苦しい顔を見るのが好きなんだ」と師匠が言う。
そういえば一般人とそういう関係になったら殺しちゃう、みたいなことを言っていたような気がする。こういう趣味があるから殺しちゃうんだ。
やめてくれ、と俺は声にならない言葉を叫ぶ。
苦しめられた後は今までになく優しかったです。この苦しさを乗り越えたら、こんなに甘い蜜が待っているんだ。俺頑張る、という変な思考になってしまいました。これ以上は描写できません。ごめんなさい。魔力は全回復しました。
それから俺はスライムを殺しまくる。
「そういえばどうして小屋はスライムに食べられないんですか?」
茶玉が壁にぶつかると土が飛び散り、それをスライムが食べていた。
「スライムに食べられないぐらいに強度を固くしているのよ」
「俺にもできるんでしょうか?」
「今の光太郎には無理ね。熟練度が足りない」
「そういえば、どうして魔物を倒したら冒険者はレベルアップするんですか?」
師匠に質問しまくってしまう。何でも知っているから聞いておきたい。
「魔物を倒すと魂が出るのよ。その魂が倒した相手に入り込む」
「気持ち悪ッ」
「複数で攻撃して魔物を倒したら分割して魂が冒険者に入るのよ」
「謎ですね」
「魂を吸収したぶんだけ冒険者は強くなる。筋力も体力も魔力も向上する。それがレベルアップという形で現れるのよ」
「それじゃあ俺達の強さって魔物の魂を食べた強さみたいなことなんですか?」
「そうよ」と師匠が言う。「レベルの上限に個人差があるっていうのは、魂を乗せることができる器が人それぞれ違うからなのよ」
「師匠ってレベルいくつなんですか?」
「350」
「すげぇー」
「もう私はレベルが上がらないわ。それにレベル上げなんて難しいことじゃないし」
たしかに熟練度を上げるよりもレベル上げの方が簡単である。飼育ダンジョンがあるおかげだろう。
「そろそろあの子達も少しは回復したかな? ちょっと様子を見に行って来る」
「はい」
「キスしてあげようか?」
俺は魔力ブレスレットを見る。
師匠がいなくなったら魔力が回復できない。だから一応はキスしてもらった方がいいだろう。
「やっぱりやめた。魔力を使い切らずに小屋で休憩しときなさい」
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