第40話 レベルアップを始めようか

 道場で俺が熟練度を上げる訓練をしている時に飼育ダンジョンから三人が帰って来た。

 正直に言います。今の時点では俺負けてんじゃねぇ?

 見た目では強さはわからない。わからないけど感じるモノがある。

 三人が師匠のところに行く。

「強くなったじゃん」と師匠が言う。

「ありがとうございます」と三人が言っている。

「臭いからお風呂に入って来たら?」

「はい」と三人が言う。

「今日は僕も女子風呂に入ろうかな?」と田中中。

「殺すわよ」とお嬢。

 茶玉を出しつつ、横目で三人のことを見ながら俺は焦っていた。

「まだ、そんなことしてるの光太郎くん」とデブが絡んできた。

「年上のお兄さんから強くなるためのアドバイスをあげよう」

「年上って数ヶ月だけだろう」

「強くなるために必要なのはレベルだよ。レ、ベ、ル」

 ムカつく。

「いっぱい魔物を殺してきましてん。レベルじゃんじゃん上がりましてん。手榴弾、最高ですねん。みて見なはれ、僕の姿。痩せてしまって、ほぼ骨と皮だけの姿になってますやろう」

 なんなんだ、そのエセ関西弁。

 二人はすでに道場から出てお風呂に行っている。

 骨と皮だけになっている、と言っているけど見た目は何一つ変わっていない。デブのままである。

 でも強くなったのはわかる。レベルも相当上がったんだろう。

「プロボクサーになろうかな? 強すぎて相手が死んでしまいますわ」

 ドハハハ、と田中中が笑う。

 田中の後ろに師匠が立っている。

 そのことに彼は気づいていない。

 グサッ、と脇腹を土で作られたナイフで師匠が刺した。

 血が溢れ出す。

 それを手で触り、血を確認する。

「なんじゃこりゃ」

 田中が倒れる。

「修行の邪魔をするな」と師匠が言う。

 田中は脇腹に刺さった土で作られたナイフを取る。

「こういう時でも、これがあったら大丈夫」と田中中が言う。「ヒール」

 脇腹の傷がすぐに癒える。

 師匠が田中の顔面を踏む。

「かなりヒールの速度が上がってんじゃん」

「ありがとうございます」

「魔力ブレスレット見せて」

 田中がブレスレットを師匠に差し出す形で腕を上げる。

「魔力がMAXで55か」と師匠が呟く。

「1回の上昇で魔力量はどれぐらい上がった?」

「1です」

「ショボ」

 魔力量の上がり方を見て彼等は自分のレベルを認識していたんだろう。

 そして三日間で三人とも50上げてきたんだろう。

「普通はどれぐらい上がるんですか?」と俺は尋ねた。

「個人差はあるけど1〜3ぐらい。1っていうのは一番最低な上がり方」

 と師匠が言う。

「だいぶ熟練度を上げて魔力消費を抑えるようにしなくちゃな。お前は」

 ヒィ、と小さい声が聞こえた。

「お風呂に入って早く道場に来い」

「かしこ、かしこ、まりました。かしこ」

 そんな事を言うもんだから立ち上がろうとした時にケツを蹴られて、吹っ飛ぶように道場の扉から出て行った。

「誰が休憩していい、って言ったの?」

 すみません、と俺は頭を下げて、岩に茶玉を打ち込んだ。

 師匠とはそういう関係になろうが、師弟関係に支障をきたすことなく、修行の時は怖いままだった。



 そして俺も茶玉と植物の操作で岩を砕けるようになってから、飼育ダンジョンに入れる許可をいただいた。

 三人は熟練度を上げる訓練をしている。

 ミチコは物を重くする訓練に移行していた。俺が作った土団子を100キロ以上にする訓練である。

 お嬢は魔力が無駄に漏れているらしい。

 熟練度を上げれば上げるほど魔力は漏れずに留めることはできるらしい。だけどお嬢はお皿から魔力が溢れ出しているのだ。だから魔力切れまで魔力を常に覆う訓練をさせられていた。プラスαランニングと筋トレをさせられていた。

 田中中も同じで魔力漏れをしているらしく、何度もグサっとお腹をナイフで刺されている。

 魔力量が上がっている分、一回刺されるだけでは魔力切れはしない。

 グサっ。ヒール。グサっ。ヒール。11回ぐらいやって、ようやく魔力切れをしている。

 そんだけ刺されたら精神的にキツイだろう。

 でも田中は「ありがとうございます」と刺されるたびに言っていた。

 なにを礼を言うことがあるんだろう?

 使い続けて熟練度を上げることでしか魔力漏れは防げない。

 魔力が切れたら回復するまで休憩。そして復活したらまた修行だった。



「師匠も付いて来るんですか?」

 ポクリと彼女が頷く。

「まだ吸収も見てないからね」

 たしかに吸収ってスキルが残っていた。

「それに三人はしばらく回復待ちだし」

 彼等は全回復までに1日も費やす。だから魔力回復の途中で修行か再開された。

「魔力回復には時間がかかるから光太郎の好色っていうキモスキルは優秀なんだよ」

 みんなの前では小林って呼ぶのに、二人の時は光太郎と呼んだ。なんかエッチだ。

 一般家庭の扉ぐらいの大きさしかないダンジョンに入る。

 ダンジョンの中に入ると、そこは洞窟だった。

 鍾乳洞、というべきなんだろう。

 高い天井からつららのような岩が何万本も垂れている。

 電灯がそこら中に設置されているおかげで、辺りがハッキリと見えた。

 土で作られた小屋が二つあるのが見える。

 それと凄い量のスライム達。

 ゼリー状のプニプニしたものがギュウギュウになって鍾乳洞いっぱいにいる。

「光太郎のために繁殖させておいたから」

 と師匠が言う。

「ありがとうございます」

「魔物なのに襲ってきませんね」

「さっき食事をあげたばっかりだからね」

「食事?」

「コイツ等は魔力を食うんだ。だからこうやって土をばらまくと」

 そう言って師匠は手から土を豆でも投げるみたいに発射させた。

「スライムは土の中の私の魔力を食べる」

 師匠が土を投げると鯉が群がるようにスライムが集まっていた。

「それじゃあレベルアップを始めようか」と師匠が言った。

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