第39話 童貞喪失!!

 それから俺達は家に帰ることもできずに何日も修行が行われた。

 ミチコは修行を始めて50回目にして師匠からの合格が出て、次の修行に移った。

 10tと書かれた鉄で作られた自動販売機ぐらいの大きさのハンマーを持つ修行に移行する。

 体重の変化は体に魔力で覆っている状態らしい。次は物に魔力を宿す修行らしい。

 得意分野があるのだ。ミチコは体に魔力を覆うのが得意。だけど物に魔力を宿すのも、魔力を放出させるのも苦手だった。

 お嬢は物に魔力を宿すのは得意だけど体に魔力を覆うのは苦手だった。

 そんなお嬢でも何十回も師匠からボコられ続け、体に魔力の覆い方を覚えてきたらしい。それでも師匠の攻撃は防ぎきれていない。あれで手加減している状態らしいのだ。最強最強が本気を出せばどうなってしまうんだろう? 俺達は師匠には逆らえない。

 田中中も手の怪我を治すのには慣れてきたらしく、お腹にナイフを刺されていたけど、みんな麻痺しすぎていて、それが酷いことだとは思わなかった。

 むしろ手の甲じゃなく、お腹にナイフを刺されるなんて成長したじゃん、ぐらいに思っていた。

 そして三人は次の段階に行くらしい。

 師匠が飼育しているダンジョンに三人が入ることになった。

「俺は……?」

 と思わず、呟いた。

 俺だけココに残るのは嫌だ。

 師匠の暴力を一人で受けるのは嫌だ。

「小林は赤玉で岩を砕いただけで、まだ茶玉も、植物を操るスキルの熟練度上げも残っているじゃん。それが終わってから飼育ダンジョンに入ってもらうから」

 三人がニヤニヤしている。

 師匠から離れることができるのが嬉しいらしい。

 暴力から解放されるのが嬉しいらしい。

「怪我をしたら田中に治してもらうこと」

「はい」と三人が返事をする。

「ミチコはハンマーで攻撃すること」

「はい」とミチコが返事をする。

 少女は大きなハンマーを小さな体で抱えていた。彼女が持てば重さはないらしい。

「新庄は体術で攻撃すること。だから刀は置いて行って」

 えっ、という顔をお嬢が一瞬だけする。

 だけど師匠に睨まれて、「はい」と返事をする。

「田中には手榴弾を用意してあるから、それを使って。普通の銃じゃあスライムには効果ないから」

「はい」と田中が返事をする。

「私の魔力を食べているスライムだから、他のスライムよりもちょっと強い。それと金属スライムもいる。それを倒せば経験値は超貰えるから、優先的に倒すこと」

「はい」

「ダンジョンには二つ小屋を用意してある。魔力が無くなったら、そこで休むこと。ご飯を食べる時と寝る時ぐらいはコッチに戻って来ていいよ。一応、缶詰類も用意しているからお腹空いたら食べていいよ。それと期限は三日。この三日でレベル50は上げて来てね。50上げなかったら殺すからね」

「はい」と三人が震えながら返事をする。

 50!? そんな上がるものなのか?

「そんなにスライムいるものなんですか?」

 ミチコが尋ねる。

「いるよ。だって繁殖させてるもん。つーかスライムって魔力を上げれば分離しても一つに戻らないんだよね。だから自分達で分離していくんだよ。それでも全部は倒しちゃダメだよ。倒しきれないと思うけど。小林もレベル上げをしなくちゃいけないからね」

「はい」と三人が返事をする。

「俺も一緒に行きたい」

「光太郎はココで師匠と修行しときなさい」

 とお嬢が言う。

 三人がダンジョンに入り、俺と師匠だけになってしまう。



 人差し指の第二関節ぐらいに銃弾をイメージする。

 イメージした銃弾に魔力を注ぎ込む。

 土の魔力。

 魔力にもスキルによって硬さがある。

 たぶん、この感覚は複数のスキルを使える俺にしかわからないことだと思う。

 例えて言えば魔力は小麦粉である。水を足すことによって団子状にする。

 その水の足し具合によって使用するスキルに変化が起きる。

 スキルによっては水だけではなく、イースト菌を入れて発酵させたりしている。

 これはちょっとイメージの話で伝わりにくかったらごめんなさいなんだけど、土の魔力を使う時は水は少なめで、かなり捏ねないといけない。

 捏ねた魔力を第二関節に作った銃弾に宿していく。

 銃弾がウインナーとするなら土のスキルがパン生地である。

 ウインナーをパン生地で包む。

 この工程は赤玉の時と全然違う工程だった。

 赤玉の方が感覚だけで発射できた。

 だけど土は違う。

 土は想像が上手くできないと発射と同時に銃弾だけが飛び出す。

 銃弾に宿っていた土のスキルが指先から飛び散るだけだった。

「難しい」と俺は言った。

 師匠はレベルを上げても熟練度を上げなくては意味がない、と言った。

 たぶん土のスキルだから、そう思ったんだろう。

 かなり扱いづらい。

 何度も何度も練習して、分析して、水の量を足したり引いたりして、それでようやく銃弾のスピードに耐える土が作れる。

 目の前の壊れない岩を作ろうと思ったら、どれだけの熟練度が必要なんだろうか? どれだけ師匠はスキルを使い続けてきたのだろうか? 

 彼女が歩んで来た道のりが目の前に置かれた岩だけでもわかった。

「そんなに難しい?」

 と師匠が尋ねた。

「はい」

「硬いモノを思い浮かべながら魔力をこめてみて」

「はい」

 それから茶玉の熟練度を上げる修行は続く。

 それで俺は魔力切れで倒れた。

「魔力切れ?」と師匠に尋ねられた。

「はい」

「もっと魔力がたまることしようか?」

 えっ? なにそれ?



 動ける程度に魔力を回復させられた俺は師匠に連れられて、彼女の部屋に行った。

 師匠の部屋は何十畳もあるフローリングの部屋だった。

 建物は日本家屋にこだわっているのに自分の部屋はフローリングなのかよ、と思った。

 横綱が三人寝ても大丈夫そうな大きなベッドがあって、映画館のスクリーンぐらいに大きい液晶画面があって、人をダメにするソファーが何個も置かれている。

 本棚には色んな本が置かれていた。主に難しそうな本ばかり。

 そういえばスキルによる占いによれば、土のスキルの人は職人肌、研究者、と書かれていた。

 土を扱うというのは非常に繊細なものらしく、それを与えられ、扱うモノは元来が職人肌の人が多いらしい。そして研究しなければ扱いにくい性質から研究者の人も多いらしい。

 土のスキルを扱えばわかる。たしかに繊細である。

 だけど師匠はSだった。そのSが全面に押し出されていて職人肌も研究者の側面も隠れている。

 たしかにダンジョンを研究していたというのは聞いていた。

 すごい量の本。机にはノートがビッシリと置かれている。

「そこシャワーだから、シャワーを浴びて」

 と師匠に言われる。

「えっ、なにするんですか?」

「なにって?」と師匠が首を傾げる。

 二十代前半の綺麗な女性である。強いっていう部分を抜けば。

「舐めさせていたら、したくなるよね」

「……なにを?」

「これ以上、私に言わせたら殺すよ」

「……はい」

「早く脱いで、シャワー浴びて」

「あの、俺、……こういうこと初めてなんです」

「私も久しぶり」と師匠が言う。

「レベルが上がりすぎて一般の人とヤッたら殺しちゃいそうだし、冒険者は私にビビってそんな関係にならないし」

「……俺でいいんすか?」

「私とじゃあダメ?」

「いやいや、そんな滅相もございません」

「早く裸になって」


 ごめんなさい。ここからは特別な修行なので描写はできません。

 一人でシャワーに浴びるモノだと思っていたけど師匠と一緒に入ることになった。

 そして二人でベッドに入って、気づけば数時間が経っていた。

 師匠のどこを舐めたのかも書けないし、師匠にどこを舐められたとかも書けないし、どんなことをしたとかも書けません。

 まさか師匠と、そんな関係になるとは思っていなかったので。

 いや、ちょっと足の裏を舐めさせられた時から、この人はエロいな、とは思っていたんだけど、三人がダンジョンに入っている隙に部屋に入れてもらえるなんて思っていなかった。

 俺達は裸で布団に入っていた。

 何かを喪失して、何かをした後だった。しかも3回もした後だった。その何かが言えないけど、何かはしました。

 好きな人はいます。だけど師匠に言われたら断れないじゃないですか。断ったら殺されますよ。だから、この行為はノーカンでお願いします。

 だけど俺は少し照れたような困ったような、驚いたような、そんな絶妙なニュアンスがある表情をしていた。こういう時は、こういう表情をするべきなのだ。

 この表情だけを見せるべきなのだ。

「なぜ師匠は一人でダンジョンに入っているんですか?」

 と俺は尋ねた。

 彼女は俺を睨む。

 睨んでいるわけじゃない。

 俺の耳元に師匠は顔を近づけた。

「私以外のパーティーメンバーが全滅したからよ」

「……ごめんなさい。余計な事を聞きました」

「いいのよ」と師匠が言った。

「私がリーダーとして自覚が無かったの。だからダンジョンから脱出の決断が遅くなってしまった。みんなの意見じゃなくて私の意見でダンジョンから出るべきだった。それがリーダーの役目なのに」

「……」

「決断が遅れたら、みんなが死ぬのよ。パーティーメンバーの命の責任はリーダーにあるのよ」と師匠が言った。

「はい」と俺は言う。

「私達が入った時はAランク認定されていたけど、そのダンジョンは今ではSランクになっているのよ。どれだけ頑張っても私達で倒せるわけないじゃん」

「そのダンジョンは、もう攻略されているんですか?」

「まだ攻略されてないわ」と師匠が言った。

 Sランクのダンジョンって日本でも2つしかないはずだった。

「ニュースになっていないけど、もしかしたら今月ぐらいにバーストするかもね」

「えっ? Sランクダンジョンがバーストしたら……」

「そうね。日本は消滅するわね」

「……」

「私に要請が来ているの。そのダンジョンを入るように」

「えっ?」

「海外勢とチームを組んで、そのダンジョンに入るのよ」

「……そんな」

「私、死ぬかもね」

 と師匠は笑った。

「師匠がダンジョンに入らなくてもいいじゃないっすか?」

「ダメよ。私の仲間が死んだダンジョンだもん。せめて死ぬなら私もそこで死にたい。それに攻略できなかったら日本も破滅だしね」

 裸で抱きついている女性が死ぬかもしれない。

 胸がギューーンと痛くなる。

「寂しい?」と師匠が尋ねた。

「寂しいです」

「私のこと好き?」

 そんな事を聞かれたら答えは一つだろう。

「好きです」

「可愛い」

「死なないでください。もっと俺に色んな事を教えてください」

「変態的なこと?」

 と彼女が笑う。

「それも、そうだけど、それだけじゃなくて……」と俺が言う。

「死ぬかもしれないから弟子を取ったのよ」

 と彼女が言った。

「小さい島が消えた事件のこと知ってる?」

「聞いたことはあります」

「ちょうど、その島に両親と弟が旅行に行っていたの。私が家族に旅行をプレゼントしたの。いつも家族には気苦労をかけていたからね。でも、みんな帰って来なくなっちゃった」

「……」

「たぶん消滅した土地は異世界に転移している」

「はい」

「そして異世界には魔王が存在する」

 と彼女は言った。

 たぶん色んなことを調べたんだろう。もしかしたら高ランク冒険者は知っている情報なのかもしれない。

「魔王を倒してほしい。ダンジョンがある世界を終わらせてほしい。もう誰も悲しまない世界にさせてほしい。冒険者ならみんなそう思っちゃうよね」と彼女が言う。

「……はい」と俺は言った。

「君を見た時に強くなると思ったよ。初めて見た時は冒険者に成り立てで弱そうだったのに、数時間後にはその子が魔具も使わずに無限にスキルを使い続けているんだもん。君なら、この悲しみの連鎖を終わらしてくれると思ったのよ。だから私が君を選んだのよ」

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