第36話 庭でダンジョンを飼育しているらしい
並んで、と師匠が言ったから俺達は軍隊のように素早く並ぶ。
「縦に一列じゃなくて、横一列に並んで」
素早く横一列になる。
最強最強は俺達の前に立っていた。
「それじゃあ目標を発表します。一ヶ月後にはBランクダンジョンの鬼ヶ島に入ってもらいまーす」
Bランクダンジョン、と声にならない声で俺達は驚く。
「鬼ヶ島ですか」とミチコが呟いた。
「ミチコは鬼ヶ島のことを知ってるの?」と師匠が尋ねる。
「はい」
「それじゃあミチコ、鬼ヶ島の説明よろ」と師匠が言う。
「はい。わかりました」とミチコが言う。
「鬼ヶ島というのは二十年前に発生したダンジョンで、今も攻略されていません」
「ちょっと待って。二十年前? そんな前のダンジョンならバーストしてるんじゃねぇーの?」と俺が尋ねる。
「出現した当時からダンジョンは大きくなっていません」
「ダンジョンって時間経過で大きくなるんじゃなかったっけ?」と俺が言う。
「そう言われています」
「うん。そこはちょっと間違った知識かも」と師匠が言う。
「この裏にダンジョンあるのを見た?」
「えっ、ダンジョン? なんで家にダンジョンが?」
三人が頷いている。三人は見ているらしい。
「ダンジョンを保有するために私はココに家を建てたんだよ。っでね、わかったことがあって、ダンジョンって飼育できるんだよ」
ダンジョンの飼育? この人とんでもねぇー奴じゃねぇーか。
「魔物の量でダンジョンのゲートが大きくなるんじゃないかって私は考えて、中の魔物を繁殖させてみたの」
イかれてる。俺でもわかるイかれ具合。普通、魔物を繁殖させようとは思わないだろう。
「魔物を繁殖させてもダンジョンは大きくならなかったね。むしろ小さくなったね。時間が経っても大きくはならなかった。たぶんダンジョンの中の魔物の士気に応じてゲートは大きくなっているんじゃないのかな? って結論」と師匠が言う。
「だから今のご時世でダンジョンがバーストした状態で発生しました、っていうのは私にとって筋が通っているの。ダンジョンの向こう側は全て同じ異世界だと思う。ゴブリンバーストで〇〇市が奪われたことで、この世界はゴブリンごときでも領土を奪える世界と向こう側の魔物に思われたんじゃないかな?」
「それじゃあダンジョンゲートって何ですか?」と俺は尋ねる。
「知らねぇー。あのゲートの状態は魔物達が冒険者を倒してレベルアップとかしてんじゃねぇ? 様子見してんじゃねぇ」と師匠が言う。
「それじゃあ鬼ヶ島はなぜ大きくならないんですか?」とミチコが尋ねた。
「鬼達は色んな言葉を認識する魔具みたいなモノを持っていて、鬼と喋った冒険者がいるの。ソイツ曰く、この世界の誰かが来るのを待っているらしいよ」
すげぇー訳わからん話。
魔物が現実世界から誰かが来るのを待っている。なぜ?
「よくわかんないですね」とミチコが言う。
「鬼ヶ島の説明の続き、よろ」
「あっ、はい」とミチコが言う。
スキルで作った椅子に師匠が座る。
「鬼ヶ島はBランクダンジョンで、ダンジョン内はとてつもなく広いと噂されています。鬼の配下である他の魔物もいるらしいです。なのに帰還率は高く、死亡率の低いダンジョンらしいです。Aランク相当の魔物がいるはずなのに、ダンジョンゲートの膨張と帰還率の高さもあって危険度は低くBランクになっています。ですが今もあるということは誰も攻略されていないということです」
「ミチコの言う通り、中の魔物は強い。でも帰還率も高い。だから高ランクダンジョンがどんな場所なのか、君達に体験してほしい。なぜ私達が冒険者と言われるのかも理解してほしい。入ったら何日も帰って来れないからね。このダンジョンを君達が攻略できるとは私は思っていない。だけど目標は鬼ヶ島に入り、ミチコが使えそうな魔具を持って帰って来ること」
「……私が使える魔具?」
「魔具のこと知ってる?」と師匠が俺達に質問する。
俺とお嬢だけ首を斜めに捻った。
「それじゃあミチコ、魔具の説明よろ」
「魔具というのは現実の世界で再現ができない能力の持つ魔法道具のことです。防具、アクセサリー、武器があります。武器には魔力が宿っているものも多く、それだけで高ランクの魔物と戦える代物です」
ミチコが言う。
確かに勉強したことがあるような話である。
「魔具を持っている魔物は知能が高いとされています。知能が高い魔物は高ランクです。だから入手は極めて困難の代物です。現代の日本で魔具を購入するとナン十億円という金額になります。我々みたいな底辺冒険者が手にできる代物じゃありません」とミチコが説明してくれる。
「そうだね」と師匠が言う。
「ちなみに、この般若のお面と白いコートも魔具だよ。このネックレスも魔具だね。それぞれ買ったら十億ぐらいするよね」
「……」「……」「……」
「ミチコの能力は強い。Sランク冒険者にも同じスキルの人もいるぐらいだし。だけど高ランク以上の魔物と戦おうと思ったら闘気を身につけるか、魔具を使うかのどっちかしかないだよ」
「質問いいですか?」とお嬢が手を上げる。
「闘気って、どうやって身につけるんですか?」
さっき俺も聞いた。
「小林、答えて」
「はい」と俺は返事をする。「ある一定のレベルになったら覚える人がいる才能です」
「先生は覚えているんですか?」とお嬢が尋ねる。
ポクリ、と最強最強が頷く。
先生から黒いオーラが溢れ出す。
たぶん俺が黒く見えているだけで、先生は何も発していない。
イメージとして黒いものが体から溢れている。
俺は一歩後ろに下がった。怖い。殺される。
「これが私の闘気」
ありがとうございます、とお嬢が震えながら言った。
師匠が一瞬で俺に近づいて来る。
えっ、なに? 殺されると思った時には俺は吹っ飛んでいた。
頬の肉が飛ぶ。顔面がへっこむ。
何されたかわからない。
わかった時には壁にぶつかっていた。
自動回復があるからって急に殴るなよ。俺なにした?
「小林」と師匠が言う。「闘気、覚えた?」
クソ。この人、攻撃したら闘気を覚えると思って俺を殴ったのか?
覚えてねぇーよ。神の声は聞こえない。殴られ損である。
「覚えていません」
「そうか。ごめ〜ん」
三人は俺を見ないようにしているらしく、コチラを一度も見なかった。
「魔力を体に覆うのも新庄に見せてあげる。魔具を持つようになってからは、あんまりやらないんだけど」
師匠が言う。
着ていたコートを脱いで床に置いた。
最強最強の体に土が覆っていく。
そして土が甲冑になる。
女戦士って感じだった。
俺はその場で膝を付いていた。この人に殺されないように。
桁違いにこの人は強い。
師匠の目の前にいた三人をチラッと見る。土下座するような姿勢でブルブルと震えていた。
「自然エネルギーを体に覆う時はイメージが大切だよ」
師匠が言う。
はい、とか細い声がお嬢から聞こえる。
師匠が甲冑と闘気を解いて、ようやく俺達は酸素を吸うことを許可された。
あんなのが近くにいたら息をするのも難しい。
「そうそう。田中、小林に一度ヒールをかけて」
どうして? と言いたげな顔をしながら田中が倒れている俺に近づいて来る。
「ヒール」と田中が言う。
魔力の暖かい感じは伝わってきたけど、すでに自動回復しているから怪我はしてないよ?
「小林、ヒール覚えた?」
「覚えてません」
「そうか」と師匠が呟く。「攻撃じゃないとダメなのかな? でもさっき攻撃で闘気は覚えなかったし」
師匠がボソボソと言っている。
「それじゃあ二人戻って来て」
師匠が言うから慌てて戻る。
「次はミチコ。小林の背中に乗って体重を重たくして」
「はい」
俺は彼女が乗れるように膝を付いた。
彼女が乗る。
すぐに重たくなり、支えきれなくなって倒れる。
「万有引力は覚えた?」
と師匠が尋ねた。
「覚えてません」
「攻撃判定されてないのかな? それとも小林自身の素質を持ってないものは覚えないのかな?」
師匠は首を傾げる。
「二人ともありがとう」
「はい」と二人は元気よく返事をする。
「それじゃあ修行に戻るよ」
田中の手の甲がグサっ。ギャー。気絶。
ミチコは体重計に乗る。もっと重たくしろ。俺が攻撃される。「小林さん。ごめんなさい。私のせいで」とミチコ。そして気絶。
お嬢は普通に最強最強にボコられて、エンエン泣きながら緑色の飲み物を飲まされる。
すぐに三人はいなくなった。
そして俺の修行。これ以上はご想像にお任せします。
「バター犬。もっと舐めろ」と師匠に言われたのだけはお伝えしておきます。
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