第34話 師匠のおっぱいを揉む

 新庄かなが師匠の前でヤンキーにカツアゲされている中学生のように怯えている。足の震わせ方はタップダンスの領域にまで達している。

「前衛に立たなくちゃいけない新庄の課題は防御の強化だよな?」

「はい」と震えた声でお嬢が返事をする。

「防御を強化するには?」

「体に魔力をまとわす」とボソリとお嬢が言う。

「聞こえない」

「体に魔力をまとわすことで防御が強化しますっ」

「それじゃあ、やってみて」

 お嬢が少年漫画の気合をいれるようなポーズをする。何も起こらない。

「一部だけに炎をまとわすことができる?」

「はい」

 拳が炎に包まれる。

「その炎を体全体に広げていく感じで意識してみて」

「はい」

 ジーーーっと師匠が見ている。

 絶対に、こんなぬるい修行じゃないはずだ。見ているコッチも緊張する。

 手首までしかなかった炎がゆっくりと肘のところまで来ている。

「この道場は私のスキルで強化されている。だから、どんなことをしても結構、壊れないんだ。だから暴れてくれても大丈夫なんだよ」

 何を言ってるんですか? たしかに、さっきからバンバンと壁に投げられても壊れてなかったけど。

「そして、この屋敷にはハイポーションは常備5000本は用意してある。ハイポーションがあると冒険者なら複雑骨折ぐらいまでなら治るんだ。だから複雑骨折は怪我じゃない」

 いや、複雑骨折は怪我ですよ? 何を言っているんですか? この人は?

「私は今から軽く新庄を攻撃する。魔力で体を防御できなかったら、ちょっとだけ怪我をするからね」

 お嬢の髪が逆立った。

 本当に一瞬のことだった。

 というより俺のレベルじゃあ攻撃が見えない。

 バン、バン、バン、と爆発音が鳴っている。

 そしてお嬢は壁にぶつかって、倒れていた。

 師匠の攻撃をガードしたらしい腕と足が、あらぬ方向に曲がっている。

 可哀想に意識があるみたいで、「痛い、痛い」と泣いている。

「最後の一発は魔力で防いでたじゃん。やればできるじゃん。あと魔力を無駄に流しすぎ。いくら魔力があっても、すぐに切れるよ。蒸気をこぼさないイメージで魔力をまとわしたらいいよ」と師匠が言う。

 お嬢は泣きながら、必死に頷いている。

 最強最強はポケットからアイフォンを取り出す。

「道場にすぐに来て。一人は重症。二人は魔力切れ。……だから殺してないって。大丈夫だよ。意識あるもん」


 フクロウって自分よりも強い生き物がいたら体を細くして敵から見えなくするらしい。俺も同じようなことをしていた。できるだけ体を細く見せよう。最強最強に認識されないようにしよう。なんでダイエットをして来なかったんだ。せめて体重20キロぐらいにしとくべきだった。隙間に入って出てきたくない。もうアタイは貝になりたい。

「なにやってるの? キモいんだけど」

「細く見せようと必死になっております」

「なんで?」

 笑いながら二十代のお姉さんが首を傾げる。

 本来なら可愛い仕草のはずなのに、最強最強がやったら怖い。

「できるかぎり細く見せて、認識されないように頑張っております」

「バカじゃない?」

「次は俺の番っすよね?」

「あとは君しかいてないからね。リーダー君」

「ただの下っ端でございます」

「リーダーがリーダーと認識されていないチームは弱いんだよ。このチームの決定権は君が持っている。君が判断を間違えると仲間が死ぬことになる。君が弱いと仲間が死ぬことになる。君が色々と考えないと仲間をが死ぬことになる。仲間が死んでからじゃあ後悔しても遅いんだよ? わかった? もちろんリーダーが一番辛い修行をさせるつもりだよ」

「リーダーの器じゃないっす。今からでも誰かと変わります」

 もう泣いちゃいそう。なんで俺リーダーになったんだっけ? そういえばミチコが勝手にリーダーにしていたのだ。あの時は冒険者ギルドからの連絡先を俺にする程度のモノだと思っていた。ちくしょう。

「リーダーの器があるからリーダーになるんじゃないよ。リーダーになったんだから、リーダーとして振舞っていくだけなんだよ。なんで泣きそうなの? キモいんだけど」

「これからの修行が怖すぎて」

 ハハハ、と最強最強が笑う。

「大丈夫じゃん。だって君は自動回復があるんでしょ?」

「実は痛いの嫌いなんです」

「男の子でしょ。それに攻撃するとは限らないよ。まだ修行内容は決めてないし」

 担架を持った男の人達がやって来る。

 ミチコと田中中が担架に乗せられる。

 お嬢は担架に乗せられる前に、青汁よりも緑色の液体を口に注がれていた。あらぬ方向に曲がっていた手足が元に戻る。泣いていたお嬢が意識を失うようにパタンと倒れた。

「また二時間後に連れて来て」

 最強最強が三人を連れて行く男達に言った。

 かしこまりました、と男達は言って、道場から去って行く。

 そして道場には俺と師匠だけになった。

「それじゃあ君のスキルを聞こうか?」

「はい」と俺は頷く。

「俺の攻撃スキルは吸収と銃弾と炎と植物を操ることです。固有スキルは自動回復と好色です」

「ちょ、ちょっと待って」

 最強最強が目を大きく開いて驚いている。

「何個スキル持ってるの? 複数持ちだと思っていたけど、そんな大量のスキルを持ってる奴なんて聞いたことない」

 俺は指でスキルの数えた。

「いや、何個スキル持ってるの? って言ったけど数えろとは言ってないから」

「すいません」

「固有スキルってなに? 固有スキルって魔族や魔物しかないもんじゃねぇーの? 魔人なの?」

「魔物を吸収したら覚えました」

「吸収したら覚えた! なにそれ?」

「攻撃されたらスキルを覚えます。それでスライムの吸収を覚えました。吸収で飲み込んだ魔物の固有スキルも覚えるようになりました」

「ちょっと待って」

 最強最強が頭を抱える。

「頭、痛いんだけど」

「頭痛ですか?」

「ちげぇーよ。君をどうしたらいいかわかんなくて頭が痛てぇーんだよ」

「すいません」

「謝らなくていい。それじゃあ私の土のスキルも覚えているの?」

「それはまだ覚えていません」

「スキルで攻撃をしてないからか?」

 次の瞬間に俺の頬に強烈な痛み。

 頬がもぎ取れた、という衝撃と共に体が宙を舞って、一万回転ぐらいして床に落ちた。顔面が踏まれたあんまんのようになり、色んなところが骨折したけど自動回復していく。


『冒険者の攻撃スキル、土が使えるように成長しました』



「攻撃しないって言ったじゃないっすか」

「攻撃しないなんて言ってない」

「言ったような気がします」

「手加減はするけど攻撃はする」

「手加減が手加減じゃないんです。やめてください」

「それで私のスキルは手に入ったの?」

 俺は手から泥団子を出す。

「おぉーー」と最強最強が驚いている。

「マジか。すげぇーじゃん」

「何個でも出せますよ」

 計三つぐらい出す。

「いらん、いらん。そんなに泥団子を貰っても嬉しくないから」

 魔力ブレスレットを見るとマイナス6ぐらい減っている。泥団子一つにつき魔力2消費されている。

「聞いていい?」と最強最強が尋ねる。

「はい」

「ゴブリンバーストの時に無限に炎を発射させていたのを見たけど、あれはどういう芸当なの?」

「好色っていうスキルは、女の子にエッチなことをしたら魔力が回復するんです。お嬢に回復してもらって無限に炎を発射させてました」

「なにそのキモスキル」

 最強最強が俺の付けている魔力ブレスレットを見る。

「おっぱい触ってもいいよ」

「そんなのできません。師匠のおっぱいなんて恐れ多くて触れません」

「スキルを調べたいだけだから」と師匠が言う。「触らなかったら殴るよ」

 はい、と言いながら俺は師匠の胸に手を伸ばす。

 最強最強は動物の皮のようなものを着ている。

 しかもヘソが出ている。

 毛皮のコートを着ているけど寒そう。

 俺は緊張しながら師匠の小ぶりな胸を触った。

 最強最強は俺の腕を持って、魔力ブレスレットを見ていた。

 あっ、この人、ブラジャー付けてない。

 小ぶりだけど柔らかい感触が手の平に感じる。

 先端が尖っている。

 こんなに恐ろしいのに、こんなに怖いのに、この人は女性なんだ。

 ギンギラギンでござーます。

「すげぇー。こんなの見たことない。魔力が回復していく」

「はい」

「いつまで触ってるの?」

「すみません」

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