第30話 冒険者は罰金制度の廃止のデモをする

 俺達が住んでいるマンションの一室。リビングにある液晶画面を俺とお嬢とミチコは睨むように見つめていた。

 お嬢は妹のモコモコのパジャマを借りていて、ミチコは妹が昔使っていたピンクのパジャマを着ていた。

 二人からはシャンプーの匂いが漂っている。

 俺は飲んでいたお茶を口から離して画面を見つめた。

「仕方がありませんね」

 ニュース画面を見ながらミチコが呟いた。

「この国は冒険者へのヘイトを溜めすぎましたし、冒険者の負担をかせすぎました」

「あぁ」と俺が頷く。

「こうなることは時間の問題だったんだと思います」

「あぁ」と俺が頷く。 

「冒険者を英雄にできなかった日本の末路なんだと思います」

「あぁ」と俺が頷く。

「冒険者は海外では英雄。日本では罪人みたいな扱いを受けますからね」

「あぁ」と俺が頷く。

 お嬢は黙って液晶画面を見ていた。

「募金にしてもそうです。海外で募金したら英雄になれますが、日本で募金したら偽善者になります。海外で会社を立ち上げて成功したら英雄になれますが、日本で会社を立ち上げて成功したら汚いことをしてきた人間になります。いつでも英雄を殺してきた国なんです」

 ニュースで報じていたのは冒険者達の罰金制度廃止のデモ行進だった。

 このデモの発端は〇〇市のバーストが原因らしい。

 まず日本で5人しかいないうちの2人のSランク冒険者が日本のダンジョンに2度と入らないことをSNSに書き込んだ。

 〇〇市のバーストの一件で、なぜかSランク冒険者達が叩かれた。

 彼等が〇〇市に行けば救えたのではないだろうか? 叩いた人達の言い分であった。

 まるで〇〇市が消滅したのはSランク冒険者の責任みたいな状態になってしまう。

 彼等は〇〇市に行ける範疇にいなかった。

 5人中4人は海外のダンジョンに入っていたのである。

 残りの1人も日本の最北端のダンジョンに入っていた。行ける訳がない。

 だけど彼等を日本の国民が悪者にしたてあげた。

 悪者にしたてあげたのも一部の人間である。

 それに共鳴してAランク冒険者も数名、日本のダンジョンに2度と入らないことを書き込んだ。

 彼等も悪者扱いを日本で受けていたんだろう。

 それが事の発端になり、低ランク冒険者の数多い人間がダンジョンに入らないことをSNSに書き込んだ。そもそも誰もダンジョンに入りたくないのだ。

 だけど罰金が存在する。罰金のせいでダンジョンに縛られている。

 数多くの冒険者達が罰金制度を廃止するために永◯町に集まり、デモが行われた。

 そのことをニュース番組が報じている。

「このままでは誰もダンジョンに入らないでしょう。これから日本はどうなるのでしょうか?」とまるで人ごとみたいにニュースキャスターは言った。

 CMになる。

「俺だけでも師匠に会いに行く」

 2人はコチラを見た。

「なにを言っているの? 私達も行くわよ」とお嬢が言う。 

「もし罰金制度が廃止されるのなら、2人はダンジョンに入らなくていいじゃん。命をかけてまでダンジョンに入る義務はないじゃん」

「それでも私はダンジョンに入るわよ」

「えっ、なんで?」

「だって光太郎が言っていたじゃない。消滅したんじゃなくて、異世界に転移しただけじゃないか? って。お母さんが生きているのなら取り戻す方法もあるかもしれないじゃん」

「私も入ります」

「……ミチコは入らなくていいよ」

 まだ彼女は小学三年生である。できることなら彼女にはダンジョンに入ってほしくなかった。

「私も強くなりたいです。強くならなくちゃいけないんです。お父さんが生きているかどうかはわかりません。もし取り戻す方法があったとしても過労で倒れていたお父さんは殺されていると思います」

 ミチコが真っ直ぐな目で言う。

「2度とダンジョンがバーストして、誰かが悲しい思いをすることが私には耐えらないんです。私は強くなりたいんです」

 小さな体で強くなりたい、と彼女は願っている。

 2度と誰かが悲しい思いをしないように、強くなりたいと願う少女を止める権利は俺にはない。

「わかった。師匠のところには一緒に行こう」と俺は言った。

「だけどミチコがダンジョンに入るなら受け入れてほしいことがある」

「なんでしょうか?」

「ミチコがダンジョンに入る時は俺が守る。冒険者だから自分の身は自分で守れ、とは俺は思わない。死なないことを最優先してほしい」

「それじゃあ小林さんの負担が大きくなります」

「そんなことはない。俺はバカだからミチコの意見が戦力になる」

 ミチコは少し考える。

「……わかりました」と少女が呟いた。

「光太郎はどうなのよ? なんでダンジョンに入るのよ」

「俺もミクを取り戻したい。もう2度とダンジョンがバーストして大切なものを奪われたくない」と俺は言った。

「それに俺は全てのダンジョンを壊したい」 

「世界に何万ってダンジョンがあると思ってるんですか。無理ですよ」とミチコが言った。

「魔王がいるってハーピーが言ってたんだよ。どう考えてもソイツがラスボスだろう。ソイツさえ殺せばダンジョンは消えるんじゃねぇ?」

「魔王が入っているダンジョンがあると思っているんですか?」とミチコが尋ねた。

「わかんねぇー」と俺は言った。

「だけどSランクのダンジョンを攻略できるようになったら、いつか魔王に会えるかもしれない」

 彼女達は何も言わなかった。

 俺も続きの言葉を言わなかった。

 答えは不明。だけど強くなるしか答えには辿り付けないのだ。

 強くなっても答えに辿りつけないかもしれないのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る